「この道」

一条真也です。
今年最初の映画ブログです。いま正直言って、観たい映画がありません。そんな中、11日に公開されたばかりの日本映画「この道」を観ました。「童謡誕生100年」を記念して作られた作品です。

 

ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「詩人・北原白秋と音楽家山田耕筰の伝記ドラマ。彼らが出会い、『からたちの花』などの童謡が生まれた背景を描く。メガホンを取るのは『半落ち』などの佐々部清。『ハゲタカ』などの大森南朋が北原を、ドラマシリーズ『GTO』などのAKIRAが山田を演じる。共演はドラマシリーズ『孤独のグルメ』などの松重豊のほか、貫地谷しほり津田寛治升毅柳沢慎吾羽田美智子ら」

 

f:id:shins2m:20190112001912j:plain

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「大正7年(1918年)、独創的な作風で天才詩人と称される北原白秋(大森南朋)は、児童文学誌『赤い鳥』の刊行者・鈴木三重吉(柳沢慎吾)を介して音楽家山田耕筰(AIRA)と出会う。当時、子供たちのための歌がドイツ童謡を日本語訳したものか伝承のわらべうたしかなかったため、鈴木は二人に童謡を創作するよう持ち掛ける。彼らは衝突を繰り返しながらもお互いの才能を認め、『からたちの花』『この道』『待ちぼうけ』『鐘が鳴ります』などの童謡を生み出す」

 

わたしは白秋の故郷である柳川を何度も訪れたことがありますが、白秋その人にはそれほど関心がありませんでした。しかし、この映画を観て、彼の人生に大いに関心を抱きました。「ここまでトンデモない男だったのか!」とも思いますが、人妻に恋するところなどは、映画での白秋のセリフにもあるように、「好きになった人がたまたま人妻だった」というだけだと思います。もともと詩人をはじめとした芸術家には子どもっぽいというか社会性の乏しい人物が多いですが、白秋もそんな1人だったのでしょう。まあ、谷崎潤一郎とか太宰治に比べれば、かわいいものです。

 

この映画には、白秋の他にも与謝野鉄幹与謝野晶子鈴木三重吉萩原朔太郎室生犀星石川啄木高村光太郎といった、日本文学史を飾る実在のスターたちがたくさん登場して楽しめました。特に、与謝野鉄幹松重豊、晶子を羽田美智子が演じたのは嬉しかったですね。わたしは昔、羽田美智子のファンだったのですが、久々にスクリーンで見た彼女は美しかったです。かつての恋人だった奥山和由が監督して、彼女が主演した「RAMPO」(1994年)を思い出しましたね。

 

作詞家としての白秋と、作曲家としての山田耕筰の友情ドラマでもありますが、耕筰は日本音楽界が誇るエリートで、日本初のラジオ放送での演奏を任されます。そのラジオ放送が誕生した理由というのが、関東大震災が発生した際に国家が正しい情報を伝える手段を持っていなかったので、さまざまな流言やデマや飛び交って社会が混乱したためだということを初めて知りました。その記念すべき最初の放送では、白秋が作詞し、耕筰が作曲した「からたちの花」が流れます。歌うのは、ご存知、安田祥子由紀さおりの童謡姉妹!

 

一度はケンカ別れした白秋と耕筰ですが、震災後に耕筰が白秋のもとを訪ね、二人は和解します。震災後の瓦礫の山を呆然と眺めながら、「詩なんかいくら作ったって、復興には何の役にも立たない」と嘆く白秋に対して、耕筰は「そんなことはない。芸術は人の心を復興するんだ」と励まします。そして、二人は協力して童謡を世に送り出す決意をするのです。このあたりは、わたしも物書きの端くれとして非常に感動しました。二人は自分たちを夫婦に例えます。詩人である白秋が夫で、音楽家である耕筰が妻です。この「魂の夫婦」が数多くの名作を生み出すのですが、わたしのような作家に配偶者がいるとしたら、それはもう編集者にほかならないと思いました。

 

白秋は天才詩人でした。朔太郎も犀星も啄木も光太郎も、そして与謝野夫妻も認める天才でした。何が天才だったかというと、名作「あめふり」の「ピッチピッチ チャプチャプ ランランラン♪」の歌詞に代表されるように、日本語に初めてリズムを持ち込んだ点です。「あめふり」の初出は東京社(現ハースト婦人画報社)が出版する児童雑誌「コドモノクニ」1925年(大正14年)11月号とさまする。戦後から1960年までにレコード売上は15万枚に達し、ロングヒットを続けました。この歌は、2007年に「日本の歌百選」の1曲に選ばれています。

 

日本語にリズムを持ち込むことに成功した白秋の感性を受け継いだ天才ミュージシャンが約半世紀後の日本に出現します。桑田佳祐です。彼が結成したロックバンドのサザンオールスターズは、1978年にデビュー曲「勝手にシンドバッド」を発表しましたが、これは日本語を初めてロックのリズムに乗せた記念すべき曲だとされています。詳しくは、「デイリー新潮」が1月10日に配信した「紅白でも大盛り上がり! 国民的バンド、サザンの『勝手にシンドバッド』は何が凄いのか」という記事をお読み下さい。ちなみに「日本のロックを変えた」とされる「勝手にシンドバッド」をわたしは現在、日本各地の新年祝賀会で熱唱しております。(笑)

 

その桑田佳祐は、自身が北原白秋から影響を受けたことを認めています。サザンオールスターズの42枚目のシングルである「PARADISE」(1998年)の中で、白秋の『邪宗門』の詩がラップで歌われています。この曲は当時、台頭してきたアメリカ仕込みのヒップホップを逆手にとったコンテンポラリーな楽曲となっていますが、「セックス・マシーン」のジェイムズ・ブラウンや「ステイン・アライヴ」のビージーズのフレーズが飛び出します。そして、いきなり原由子が白秋の詩を朗読し始めるのです。そして、「PARADISE」には正式に「inspired by 北原白秋」と記されているのです。今年で、白秋が切り拓いた童謡が誕生して100年、サザンオールスターズがデビューして40年・・・・・・「平成」の終わりと重ね合わせて、非常に感慨深いものがあります。

 

「この道」はシネプレックス小倉で一番小さい10番シアターで鑑賞しましたが、わが社のCMと一緒に流れた1本の日本映画の予告編に心が動かされました。「雪の華」という映画です。世代や国を超えて愛され続ける中島美嘉の代表作からインスパイアされたというラブストーリーです。ポスターには「100万円で、私の恋人になって下さい。1か月だけ――」「東京――フィンランド、あの名曲から生まれた最高のラブストーリー」とありますが、主演の中条あゆみの可憐な姿に胸がときめきますね。また、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのボーカル・登坂広臣が主人公の恋人を演じます。「この道」ではEXILEのAKIRAが好演していたので、登坂広臣の演技も楽しみ。この「雪の華」は2月1日公開です。
ぜひ、観たいと思っています!

 

2019年1月12日 一条真也