これからのグリーフケア

一条真也です。
ブログ「グリーフケア対談」で紹介したように、6月28日の11時20分から、パシフィコ横浜において、上智大学グリーフケア研究所の所長で東京大学名誉教授の島薗進先生とわたしが特別対談として「グリーフケアの時代~現代日本の葬儀と死生観」をテーマに大いに語り合いました。

f:id:shins2m:20180829124148j:image
「フューネラルビジネス」2018年9月号



パシフィコ横浜で開催された「第22回フューネラルビジネスフェア2018」のシンポジウム内のイベントですが、「フューネラルビジネス」9月号に特別対談の記事が掲載されていました。「新たな縁の再生で支えるこれからのグリーフケア」のタイトルで、まずは「無縁社会を背景にした葬儀の簡素化」として、以下のように書かれています。
島薗  上智大学グリーフケア研究所には「グリーフケア人材養成講座」という人気講座があります。受講者で最も多いのは看護師です。自分自身グリーフを経験した人やそうした方を世話した経験がある人が多いようです。グリーフについて勉強したいという人が増えてきた背景には、葬儀の簡略化があると思います。非常につらい気持ちを分かち合う場がない。あるいは、あってもそこで十分に分かち合えない。昔のお通夜はしみじみと死者のことを思い浮かべる場だったのですが、いまはもう、飲んで食べてさっといなくなってしまう。そのため、胸が塞がれ、自分の胸の中に思いがこもってしまう経験を多くの人がもっている。それが人々がグリーフケアに感心をもつ理由だと考えています。
佐久間  葬儀の簡略化は進んでいますし、さまざまな縁の希薄化が巡り巡って会葬者の減少につながっていると感じます。そうした現状を克服しようと、私どもでは地縁、血縁以外の新たな「縁」の再生・再構築に取り組んでいます。たとえば仕事仲間の職縁、同窓生の学縁、趣味仲間の好縁、ボランティアなど志をともにする道縁です。実際、最近の葬儀で会葬者が集まるのは、俳句やダンスなど趣味が縁の仲間たちというケースが非常に多い。目指しているのは、セレモニーホールのコミュニティセンター化。かつては寺院は地域のコミュニティセンターであり、宗教としての本来の機能の墓に、学び・癒し・楽しみという機能がありました。その機能をセレモニーホールが肩代わりしていこうと考えているのです。これから必要なのは「葬儀をする施設」ではなく、「葬儀“も”できる施設」。そういう考えからつくったのが、古民家を改装した「三礼庵」です。お茶やお花の教室を開き、カルチャースクールのような形で運営。地域のみなさんがお元気なうちから集まり、やがてその思い出があるところから旅立っていく。そういう施設になればいいと考えています。

f:id:shins2m:20180628112432j:image
特別対談のようす



また、「宗教離れが進むなかで葬送業界が取り組むグリーフケアの実践」として、以下のように書かれています。
島薗  地縁・血縁が崩れ、葬式仏教の足腰が弱まってきたと感じています。阪神・淡路大震災のときは「お寺は何もやっていない」と批判されました。しかし、東日本大震災のときは「お寺はがんばっている」という話になりました。大都市と地方の違いもありますが、宗教離れといわれるなか、人々はむしろ宗教が必要だと思うようになった。その変化を反映していると思います。では、宗教を求める人たちに仏教者がどう関わるか。その一例が宮城県栗原市の住職がはじめた傾聴ボランティア「カフェ・デ・モンク」です。僧侶がコミュニティに出て行く活動が全国に広がり、グリーフケアをする僧侶という存在が注目されるようになりました。
佐久間  葬送業界ができるグリーフケアも多種多様であると思います。そのなかで弊社では、自助グループ月あかりの会」の立ち上げとサポートを進めています。愛する人を喪失した対処から、愛する人のいない生活への適応のサポートが主な内容です。他者との関わりを勧め、人生の目標や喜びを見出してもらう。具体的には、慰霊祭や月例会を開催して経験談を聞き、語り合う機会を提供したり。旅行に出かけたり、落語家を呼んで「笑いの会」を開くなど、遊びを重視した活動も行っています。
島薗 コミュニティが希薄になったぶん、われわれは孤独を癒す何かを求めている。それについて、私たちは既に多くの伝統があると思っています。たとえば童謡や俳句、短歌のなかには死別の悲しみに関わるものが非常に多いのです。そうした多様なチャンネルでグリーフに向き合うこともケアの重要な側面ではないかと思います。そしてそれを支え、そうした場を葬祭業が支援していくことが望まれます。

f:id:shins2m:20180628112348j:image
特別対談のようす



2018年8月29日 一条真也