死亡体験館

一条真也です。
ゴールデンウィークも終盤ですが、今日は出社しています。
あまり寝ないで原稿を書き続けていたので、睡眠不足です。
弟から「産経新聞」の昨日の記事を紹介されました。見ると、「上海『死亡体験館』若い世代に大人気」「熱風火葬→再び誕生」「生きる力もらった」という見出しが目に飛び込んできました。なんと、死亡をシミュレーション体験する施設が上海にオープンし、大変な人気を呼んでいるという内容でした。
これはビックリ仰天! 一瞬で、眠気も吹き飛びました。


産経新聞」5月5日号



産経の「上海の『死亡体験館』に予約殺到 熱風と炎の映像で“火葬”→胎内を通って再び“誕生”する3時間の旅」には次のように書かれています。
「【上海=河崎真澄】中国で9万人近い死者と行方不明者を出した8年前の四川大地震で被災地ボランティアを経験した男性らが、上海市内で一般の人に『死亡と誕生』を疑似的に体験してもらう施設を4月にオープンし、若い世代からの入場予約が殺到している。
異例のシミュレーション施設『4D死亡体験館「醒来」』の入場料は1人444元(約7500円)。参加枠は1日24人まで。20〜30代の中国の若者を中心に問い合わせが相次ぎ、すでに6月分まで満席でキャンセル待ちとなっている。初対面の12人が家族の死や自分の悩みなど身近な問題について、さまざまな角度から議論。その上で“火葬場”に運ばれ、炎の映像と全身を包む熱風や、激しい音で“火葬”を体験。さらに母親の胎内を模したトンネルを通って、再び“誕生”する3時間の旅だ。
議論の過程や“火葬”の最中に泣き叫んだり気を失いかけたりする参加者もいるという。“火葬”を体験した10代後半の中国人男性は、『高校を中退して人生に悩んでいたが、生きる力をもらった』と話した。
運営責任者の1人は四川大震災で被災地ボランティアを行った黄衛平氏(46)。かつてビジネスで成功したが麻薬に溺れ、死のふちをさまよった経験をもつ。そのころに起きた震災の現場に入った黄氏は、家族を亡くした人たちへの支援などを行ううちに『死生観』が変化した。その後、上海のホスピスで働き、意気投合した丁鋭氏(43)らと生命教育に関する非営利団体を設立。『死を通じて生命の大切さを実感する』ための施設を思いついたという。4年前から約400万元を投じて準備し、開設にこぎ着けた。黄氏らは『死亡体験館』で今後、医療関係者や警察・消防、葬儀業界関係者など、『死が』身近な職業の人たちへの心理ケアも行っていく考えだ」


わたしは、この記事を読んで感慨深かったです。
というのも、同じような施設をもう25年以上前に企画し、実際にオープンも計画していたからです。1991年、わたしは『ロマンティック・デス〜月と死のセレモニー』(国書刊行会)を上梓しました。それを読んだ俳優の故丹波哲郎さんから連絡がありました。丹波さんは映画「大霊界」シリーズの大成功で“時の人”となっていました。じつは同書の最後に「葬儀のディズニーランド」という項目があり、わたしが「死」と「死後」を疑似体験できるテーマパーク建設を提案していたのですが、それが丹波さんの関心を引いたのでした。丹波さんは「一条くん、一緒に『霊界ランド』を作ろう!」と言って下さり、わたしも大いにその気になって準備もしたのですが、その後、バブルが崩壊して計画そのものが立ち消えになってしまいました。当時、乃村工藝社の関係者と何度も打ち合わせし、イメージパースなども作りましたね。


ロマンティック・デス〜月と死のセレモニー』(1991年)



ロマンティック・デス〜月と死のセレモニー』の「葬儀のディズニーランド」にも書きましたが、もともとディズニーランドそのものが「死と再生」というイニシエーションを疑似体験できるアトラクションの宝庫です。特に「ファンタジーランド」にそれが言えます。文化人類学者の能登路雅子氏は著書『ディズニーランという聖地』(岩波新書)で以下のように述べています。
「大クジラの腹のなかに呑みこまれた人形の少年が脱出し、妖精の魔法で人間にな『ピノキオの勇敢な旅』のアトラクションもしかり、うさぎの巣穴から地下世界に落ちてトランプの女王に首をはねられそうになるものの、地上に戻る『不思議の国のアリス』もしかり、また、自動車を暴走させて地獄行きを命ぜられたカエルが無事この世に生還する『ミスター・トードの無謀運転』もしかりである。そして、地獄からの生還、死からの再生をいったん果たした主人公には永遠の安全と幸福が約束される。百年ののち、毫も変わらぬ姿で蘇った眠れる森の美女のように、ガラスの棺からめざめていつまでも幸せに暮らした白雪姫のように、そして、『ピーター・パン空の旅』のなかでロンドンの空とネバーランドを往復しながらも決して大人に成長することのない少年のように、主人公たちはいつまでも若く美しい」


ディズニーランドという聖地 (岩波新書)

ディズニーランドという聖地 (岩波新書)

このように、ディズニーランドの主人公たちはいずれも、一度死んでから(または異界に入ってから)、この世に戻って来るのです。だから「ファンタジーランド」は、「死」のイメージと「再生」のイメージに満たされています。
ところで、「霊界ランド」は単なる火葬炉体験施設ではありません。
病院のベッドで臨終を迎えたという設定からスタートし、天井のミラーを使った幽体離脱にはじまり、一連の臨死体験をライドなどでシミュレーションするというものでした。臨死体験の具体的な内容については、臨死体験研究の第一人者として知られたアメリカの哲学者で医師でもあるレイモンド・ムーディーの研究成果を参考にしました。


永遠の別世界をかいま見る 臨死共有体験(超☆わくわく)

永遠の別世界をかいま見る 臨死共有体験(超☆わくわく)

ムーディーは、臨死体験の一般的ケースを13項目にまとめています。
1人の男性が死に近づいています。肉体的苦痛が頂点に達したとき、
(1)医師が自分の臨終を宣告するのを聞きます。
(2)耳障りな音が聞こえはじめます。その音はワァーンという大音響だったり、ブーンとうなるような音だったり、さまざまです。
(3)同時に、長いトンネルの中をすごいスピードで通り抜けていくような感覚があります。このトンネルを抜けると、 
(4)突然、自分が自分自身の物理的肉体を遊離したのがわかります。しかし、まだ自分の物理的肉体のすぐ近くにいます。一人の傍観者として、みんなが自分を生き返らせようと動き回っているのを見ます。すぐに気持ちも平静になり、この奇妙な状態に慣れてきます。自分の「身体」はあるのですが、これは先刻脱け出てきた「身体」とは異なった性質のものであり、異なった力を備えるものです。間もなく、新しい局面が展開しはじめます。
(5)他者に出会います。すでに他界している親類や友人もいます。
(6)そして、今まで会ったこともないような、愛と暖かさにあふれる霊的存在、すなわち「光の生命」が出現します。
(7)「光の生命」は自分の生涯の主な出来事をフラッシュ・バックし、質問を発します。もちろん、物理的音声を用いてではありません。
(8)ある時点で、明らかに「この世」と「あの世」との分岐点となっている境界、あるいは限界に近づきますが、自分はまだ死ぬときではないことに気づきます。
(9)ここで、完全な喜び、愛、平和に包まれていたい、物理的肉体に戻りたくないと抵抗します。しかし、
(10)結局は物理的肉体に戻って、蘇生します。
(11)自分はこの体験を他人に話そうとするのですが、それはたやすいことではありません。
(12)まず、この世のものではないものを表現する、適当な言葉がないのです。そのうえ、この話をして、人の笑いの種にもなりたくありません。
(13)しかし、この体験は、その後の自分の人生に大きな影響を及ぼします。とくに死について、また、死と人生との関わり合いについて、以前とはまったく別の見方をするようになりました。


丹波哲郎さんと「霊界ランド」を構想しました



「霊界ランド」では、以上のような内容をシミュレーション体験できるように企画していたのです。今から思うと夢のような話ですが、さらに最後にたどり着く「大霊界」ゾーンは「天国」や「極楽」のような世界を再現するというもので、まるで江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』に出てくる人工ユートピアのようでもありました。(苦笑)もちろん「霊界ランド」は建設費用も莫大にかかり、完成していたとしても採算が取れなかったでしょう。しかし、上海にオープンした「死亡体験館」のような施設を日本にも作るのは「あり」だと思います。上海でも大人気で、ビジネスとしても成功しているようですし・・・・・・。


しかし、単なる覗き見趣味的な発想で作るのは反対です。それだと、かつて温泉地に乱立した「秘宝館」の二の舞になりかねません。もっと、「葬儀」や「グリーフケア」、そして「死生観」をテーマとした真面目な施設にすることが望まれます。「死亡体験館」は、中国らしいというか、少々ベタな印象も受けます。しかし、「死と再生」というのはイニシエーションそのものであり、生きる気力のなくなってしまった人々を「死んだ気」にさせることができるでしょう。また、死ぬのが怖くて仕方がない人にも有意義な施設になるかもしれません。いずれにせよ、一度、上海に行って「死亡体験館」を訪れてみたいと思います。わたしは、産経新聞出版社が発行している日本初の終活専門誌「ソナエ」、および産経デジタル終活WEB「ソナエ」でコラムを連載していますが、ここで取り上げたくなるテーマです。もともと「産経新聞」の記事ですし、産経さんが上海まで取材に行かせてくれませんかね?



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2016年5月6日 一条真也