『僕だけがいない街』

僕だけがいない街 (1) (カドカワコミックス・エース)  僕だけがいない街(2) (角川コミックス・エース)  僕だけがいない街 (3) (カドカワコミックス・エース)


一条真也です。
僕だけがいない街三部けい著(角川書店)を読みました。
ブログ『亜人』で紹介した作品と同じく、昨年注目を浴びたコミックです。
マンガ大賞2014」にノミネートされ、『このマンガがすごい! 2014』(宝島社)のオトコ編にもランクインしています。


このマンガがすごい! 2014


過去と現在が連動する時空間サスペンス、つまりはタイムループものです。
第1巻のカバー裏には、以下のような内容紹介があります。
「上手くいかない現実を抱えた青年は、日々もがき続ける。
自らの身にのみ起きる【時が巻き戻る】という不可思議な現象すら、青年の不満を加速させていた。・・・だが、それはある日を境に変わった。
大きな事件が、青年の周囲を否応なく変化させていく。
『同級生の少女の死』『連続誘拐殺人事件』
『救えなかった友人』『犯人の正体・・・。』
“過去”に起きた出来事に向き合う時、青年の“今”が動き始める・・・!!」


青年漫画家の藤沼は、毎日を懊悩しながら暮らしています。
彼には、彼にしか起きない特別な症状を持ち合わせていました。
それは「リバイバル(再上映)」すなわち、時間が巻き戻るということでした。
時間を超えてしまう物語というのなら、「SFの父」であるH・G・ウェルズの『タイムマシン』から筒井康隆の名作『時をかける少女』まで、それこそ無数に存在します。かの『ドラえもん』にだって、そんなエピソードは山ほど登場します。しかし、この物語が独特なのは、何らかの事件が起こっているときに主人公の意識だけが過去に戻り、その事件が解決するまで動かないという設定にあります。
わたしは、映画「バタフライ・エフェクト」の内容を連想しました。



この作品は、まず絵が魅力的です。そして、それ以上にストーリーの構成が素晴らしく、伏線の張り方がハンパではありません。「こんなに伏線を張りまくって、最後はちゃんと回収できるのかな」と心配になるほどです。
でも、それだけに多くの隠し味が物語を味わい深くしています。著者は過去に荒木飛呂彦のチーフアシスタントを務めていたそうですが、この不思議なストーリー展開の感覚は確かにJOJO的と言えるかもしれません。



主人公が小学生の頃に起こった誘拐殺人事件が謎に満ちています。
主人公はその事件で殺された雛月という女の子の同級生を救うために全力を尽くします。この雛月ちゃんの境遇があまりにも哀れで、読んでいて胸が締めつけられました。この作品はコミックというより、小説のような味わいがあります。とにかく、ストーリー展開が素晴らしいのです。タイトルは殺される前の雛月ちゃんが学級文集に書いた「私だけがいない街」という作文に由来します。この作文の題名を改変した『僕だけがいない街』というタイトルそのものに物語全体の結末のヒントが隠れているのでしょう。



過去に少女を殺害した事件の真犯人を探すという点では、湊かなえの『贖罪』にも雰囲気が似ていると思いました。『贖罪』は黒沢清監督によって映像化され、WOWOWで放映されました。主役は小泉今日子でした。
黒沢監督の映像作品をコレクションしているわたしはDVD−BOXを入手して一気に観ましたが、物語に引き込まれました。やはり、わたしにも娘がいるので、女の子が殺される話というのは胸が痛みます。この『僕だけがいない街』にはホラー的要素もあるので、Jホラーの巨匠である黒沢監督が映画化すれば、きっと途方もなく怖くて面白い作品になるような気がします。
いずれにせよ、ハラハラドキドキする名作に出合うことができて良かったです。早く次が読みたくて仕方がありません。第4巻の刊行が楽しみです。


*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2014年3月7日 一条真也