『アンネの日記』事件に思う

一条真也です。
いま、羽田空港のラウンジです。これから北九州に戻ります。
今日の東京は気温が20度近くあり、春のような暖かさです。
ところで最近、非常に奇妙で不愉快な事件が起こっていますね。
東京や横浜の公立図書館で『アンネの日記』と関連書籍が破られている一連の事件ですが、ついに警察当局が本格捜査に乗り出しました。


「読売新聞」2月28日朝刊



被害が確認された図書館は、JR中央線や西武新宿線など山手線の西側の沿線に集中しています。複数ページをまとめて破ったり、切れ端を持ち去ったりするなど手口の類似性も多く、同一犯との見方が浮上しています。
「読売新聞」28日朝刊には、「国際的な注目も集まる中、図書館関係者の憤りは強まるばかりだ」と書かれていました。



27日には、東京・豊島区の南池袋の「ジュンク堂書店」でも、『アンネの日記』が2冊破られていたことがわかりました。数十ページにわたって破られていたそうです。書店での被害の発覚は、これが初めてとなります。図書館や書店の本が破られることは明らかな犯罪であり、けっして許されない行為です。
また、『アンネの日記』は人類全体にとっても重要な意味を持つ本です。
ブログ『世界を変えた10冊の本』で紹介した本でも、著者の池上彰氏は『アンネの日記』を『聖書』や『コーラン』と並べて論じていました。


増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

本が破られる被害が相次ぐ中、東京・杉並区役所で27日午後、イスラエル大使館から被害の多かった杉並区に『アンネの日記』に関連する本が寄贈されました。 イスラエル大使館のペレグ・レヴィ氏は「イスラエル大使館と日本ユダヤ教団は日本との友情の証しとして、被害にあった本の取り換えの支援することを決意しました」 と語っています。今後、被害にあった自治体に約300冊の寄贈が決まっているそうです。たしかに、いくら本が破られても新しい本を補充していくことが大事だと思います。破られることを恐れて人目につかない場所に本を移動してしまえば、犯人の思うツボでしょう。


27日、古屋国家公安委員長は、ユダヤ人国家であるイスラエルの公安大臣と面会した際、徹底捜査を約束しました。 国家公安委員長が乗り出してきたことから、日本という国を「危険な国」「差別主義の国」と印象づける悪質な工作事件の可能性も出てきました。いま、日本を激しく批判している国といえば、誰でも某国が思い浮かぶでしょう。実際、ネット上でも「今回の一連の事件は日本を国際的に孤立させ、領土問題を自国に有利に導くための某国による工作活動である」という意見が多く見られます。事の真偽に関わらず、嫌な話ですね。


率直に書きますが、いま、日本と中国、韓国の関係が非常に良くないです。
先のソチ五輪では、中国と韓国の仲も悪いことが明らかになりました。
徹底比較!日中韓 しきたりとマナー〜冠婚葬祭からビジネスまで』(祥伝社黄金文庫)に書いたように、もともと、日本も中国も韓国も儒教文化圏です。孔子の説いた「礼」の精神は中国で生まれ、朝鮮半島を経て、日本へと伝わってきたのです。しかしながら、現在の中国および韓国には「礼」の精神が感じられません。尖閣諸島竹島をめぐる領土問題も深刻化する一方ですが、もともと「礼」とは2500年前の中国の春秋戦国時代において、他国の領土を侵さないという規範として生まれたものだとされています。



中国や韓国は、日本にとっての隣国です。隣国というのは、好き嫌いに関わらず、無関係ではいられません。まさに人間も同じで、いくら嫌いな隣人でも会えば挨拶をするものです。それは、人間としての基本でもあります。
そして、この人間としての基本が広い意味での「礼」です。
ブログ「親孝行と互助会」でも紹介したように、韓国では「孝の啓蒙を支援する法律」が制定されています。韓国による「孝の啓蒙」運動の中心的立場にある孝大学ではわたしの特別講演を希望されているそうです。そんな話を聞くと、日中韓には孔子のハートが流れていると改めて痛感します。


朝日新聞」2月28日朝刊



さて、今回の『アンネの日記』事件には某国の工作説がある一方で、まったく正反対の意見があることを知りました。「朝日新聞」28日朝刊には「破れないアンネの志」「本の寄贈続々」の見出しで、一連の流れを説明しています。その中で「日本社会が右傾化」として、「排外主義的な動きに詳しい高千穂大の五野井郁夫准教授の話」が以下のように紹介されています。
「首相の靖国参拝が一定の支持を集めるような社会の右傾化が背景にあるのではないか。歴史や領土の問題で中国や韓国に日本がおとしめられたと感じ、戦後の歴史観を否定しようとする人もいる。ネット上ではそうした意見が広がっており、戦勝国側の価値観を全て否定しようという意見さえ出始めている。その延長線上で、敗戦国が反省すべき象徴とも言えるホロコーストに関する本が狙われたのではないか。
ユダヤ人虐殺がうそならば、南京事件慰安婦問題だって全否定でき、日本は悪くないと主張できる』というゆがんだ発想かもしれない。様々な意見はあるだろうが、史実に基づいて議論していくのが開かれた社会だ」


五野井氏のコメントには唖然としました



わたしは、これを読んで唖然としました。あまりにも短絡的というか、ステレオタイプのコメントにあきれました。まあ、朝日的フレームにうまく収まるコメントなのでしょうが、それにしても、こういう発想をする人が大学教授とは驚きですな。
しかしながら、五野井氏のコメントの最後にある「史実に基づいて議論していくのが開かれた社会だ」というのは大賛成です。そう、「南京事件」や「慰安婦問題」も史実に基づいた客観的な立場で徹底的に議論しなければなりません。
それにしても、「某国の工作説」にしろ「日本社会の右傾化説」にしろ、まったく嫌なご時勢です。こんな時代にこそ、ブッダの「慈しみ」の心が必要だと思います。


慈経 自由訳

慈経 自由訳

別に『慈経 自由訳』(三五館)の宣伝をするつもりはありませんが、「幸せであれ 平穏であれ 安らかであれ」というブッダのメッセージが心に沁みます。「慈しみ」の心はすべての人間はもちろん、あらゆる生きとし生けるものに注がれます。まさに、究極の平和思想であり、平等思想であると言えるでしょう。孔子の「礼」にブッダの「慈」・・・・・・つまり「慈礼」の心こそが平和で平等な世界に通じています。差別のない平和な世界。これこそがアンネ・フランクが望んだ世界であることは言うまでもありません。1日も早い犯人の逮捕、そして犯人が外国人であれ日本人であれ真実の報道を切に希望します。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2014年2月28日 一条真也