第94回アカデミー賞

一条真也です。
第94回アカデミー賞授賞式が3月27日(現地時間)、米ロサンゼルスで開催されました。「ドリームプラン」で主演男優賞を受賞したウィル・スミスが妻の容姿を侮辱した芸人を壇上で殴打するハプニングもありましたが、ブログ「コーダ あいのうた」で紹介したシアン・ヘダー監督の映画が作品賞に輝きました。わたしが「作品賞を獲ってほしい」と思っていた映画で、本当に良かったです!


ヤフーニュースより

 

「コーダ あいのうた」は、2014年製作のフランス映画「エール!」のリメイク作で、家族の中でただ1人の健聴者である少女の勇気が、家族やさまざまな問題を力に変えていく姿を描いたヒューマンドラマです。テレビシリーズ「ロック&キー」などで注目の集まるエミリア・ジョーンズが主人公ルビー役を演じ、「愛は静けさの中に」のオスカー女優マーリー・マトリンら、実際に聴覚障害を持つ俳優たちがルビーの家族を演じました。

 

海の町でやさしい両親と兄と暮らす高校生のルビー。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえることから、家族の耳となり、家業も手伝っていました。新学期、合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいた顧問の先生は、都会の名門音楽大学の受験を強く勧めますが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対します・・・・・・この映画はずばり「ケア」をテーマにしており、どうしても観なければならない作品でした。鑑賞後は静かな感動をおぼえ、人間の尊厳を考えさせられました。ただ「泣ける」だけではなく、「幸せになれる」素敵な映画でした。


ヤフーニュースより

 

「コーダ あいのうた」は、第94回米アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門にノミネート。ルビーの父親フランク役を務めたトロイ・コッツァーは、男性のろう者の俳優ですが、助演男優賞を受賞しました。コッツァーにとってオスカー初ノミネート、初受賞。聴覚障害のある俳優がオスカーで受賞するのは「愛は静けさの中に」(1986年)で主演女優賞を受賞したマーリー・マトリン以来35年ぶり、男優では初となります。本作ではコッツァーとマトリンが夫婦役で共演しています。壇上でプレゼンターにオスカー像を預けたトロイは「ここに立つことができるなんて、本当にすごい。信じられません。この作品を認めてくださったアカデミーの皆さまに感謝します。私たちの映画『コーダ』が世界中で公開され、ホワイトハウスにまで届いたことは本当にすばらしいことです」と手話でスピーチしました。 


さらに、トロイは、シアン・ヘダー監督をはじめとした製作陣への感謝を伝えると、「私の父は、家族で一番手話が得意な人でした。彼は交通事故に巻き込まれ、身体がまひになり、手話ができなくなりました。父から多くのことを学びました。彼は僕にとってヒーローです。ありがとうございます」と家族に感謝。最後に「この瞬間を、ろう者コミュニティ、CODAコミュニティ、障がい者コミュニティに捧げます。これは私たちの瞬間です。父、母、そして弟は今日ここにいませんが、今の私を見てください。僕はやり遂げた。愛してるよ」と締め括り、盛大な拍手を受けました。この受賞スピーチには、非常に感動しました。


ヤフーニュースより

 

また、 ブログ「ドライブ・マイ・カー」で紹介した濱口竜介監督作品が国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)を受賞しました。同部門で日本映画が受賞するのは ブログ「おくりびと」で紹介した滝田洋二郎監督の2008年の映画以来13年ぶり、ノミネートはブログ「万引き家族」で紹介した是枝裕和監督の2018年の映画以来3年ぶりでした。本作は、アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の計4部門にノミネート。日本映画として初めて作品賞にノミネートされる快挙を成し遂げたほか、濱口監督が「乱」(1985年)』の黒澤明監督以来36年ぶりに日本人として監督賞の候補に、さらには濱口監督と大江崇允が日本人として初めて脚色賞の候補にもなりました。ちなみに、脚本賞ブログ「ベルファスト」で紹介した映画が受賞しています。


長いですが非常に興味深い作品で、村上春樹ワールドの幻想性もよく表現されていました。妻を失い喪失感を抱えながら生きる主人公が、ある女性との出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す物語です。脚本家である妻の音(霧島れいか)と幸せな日々を過ごしていた舞台俳優兼演出家の家福悠介(西島秀俊)だが、妻はある秘密を残したまま突然この世から消えます。2年後、悠介はある演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島に向かいます。口数の少ない専属ドライバーの渡利みさき(三浦透子)と時間を共有するうちに悠介は、それまで目を向けようとしなかったあることに気づかされるのでした。日本が誇るグリーフケア映画の名作だと言えます。



作品賞の「コーダ あいのうた」といい、国際長編映画賞の「ドライブ・マイ・カー」といい、「ケア」をテーマにした映画が脚光を浴びるのは「ケアの時代」の到来を感じさせます。この2作は、次回作『心ゆたかな映画』(現代書林)で取り上げたいと思います。最後に、ウィル・スミスがプレゼンテーターのクリス・ロックを平手打ちした動画を見ましたが、ロックが脱毛症で苦しんでいる彼の妻ジェイダ・ビンケット・スミスをの髪型を揶揄したのは良くないですね。ジェイダは脱毛症を公表し、髪が抜けたり薄くなったりするヘアロスと闘っていることを明かしています。確かに暴力はいけませんが、人前で妻を馬鹿にされて 笑う夫より断然こっちのほうがいいと思いました。主演男優賞を受賞したウィル・スミスが平手打ちしたことを涙を流して謝罪したことにも感動しました。いろんな意味で、歴史的なアカデミー賞授賞式でしたね。なお、第94回アカデミー賞の受賞作一覧は「こちら」をご覧下さい。

 

2022年3月28日 一条真也