『のこされた あなたへ』  

一条真也です。
56冊目の「一条真也による一条本」は、『のこされた あなたへ』(佼成出版社)。2011年12月15日に刊行されました。「3・11 その悲しみを乗り越えるために」というサブタイトルがついています。そう、東日本大震災愛する人を亡くした方々に向けて書かれた本です。


のこされた あなたへ
(2011年11月15日刊行)

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本書の帯

 

本書の帯には、「死別はとてもつらく悲しい。けれど、決して不幸な『出来事』ではありません。」と大きく書かれています。また、「グリーフケアの入門書にして決定版」というコピーが赤く囲まれています。そして、「大切な人を突然失ったとき、どうやって立ち直ればよいのか。」とも書かれています。帯の裏には、「東日本大震災――すべてが日常と異なる死別の体験」とあります。

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本書の帯の裏

 

本書の「目次」は、以下のようになっています。
まえがき「遺族からすべてを奪った3・11」
序 章
グリーフケアとは?
人間の一番の苦悩
遠回りにも、意味があった
時空が歪んでしまったかのような被災地
「死」は「不幸」なこと?
「となりびと」は「いやしびと」
「ヒト」は他者から送られて「人間」になる
死は最大の平等である
第1章 葬儀ができなかったあなたへ
なぜ葬儀をあげるのか
葬儀という物語によるグリーフケア
日本人の葬儀のルーツ
愛する人を亡くした人の心の動き
震災でわかった、本当に必要なもの
葬儀は霊魂のコントロール技術
四十九日という時間の意味
お盆は日本人の「こころ」の時間
立派な葬儀をあげるより大切なこと
土葬で死者の尊厳は損なわれるのか
第2章 遺体がみつからないあなたへ
「史上最悪の埋葬環境」のなかで・・・・・・
日航機墜落事故でわかったこと
遺体を前にした遺族は
極限の状況下で人は何を見るのか
遺骨への想い
グリーフケアとトラウマ
近代文明が引き起こした大惨事
天災が日本人の心にもたらした「無常観」
死が発展させた文化
大切な人の遺体が見つからなかったら
あなたが「死ななくなる」方法
第3章 お墓がないあなたへ
3・11後の墓とのつきあい方
墓の前で宴会を開く沖縄人
自分らしい葬儀って?
墓を選ぶ前に考えるべきこと
変化する墓事情
日本人の発明した不思議な函
仏壇はマルチメディア
北野武に学ぶご先祖さまとのつきあい方
死者を平等に祀るには?
絶対に無縁化しない墓
第4章 遺品がないあなたへ
故人を身近に感じる「手元供養」
故人とつながる思い出の品
もしも遺品がなかったら・・・・・・
知られざる「家系図」の癒し効果
誰にでもできる簡単な供養の方法
忘れ去られた時、死者はもう一度死ぬ
死者は本当に「存在」しない?
シュタイナーが考えた死者とつながる方法
「モノ」に頼って悲しみをやわらげる
第5章 それでも気持ちのやり場がないあなたへ
ブッダと子を亡くした女のエピソード
死にゆく人の苦しみとは
あの世を垣間見た人々の記録
死者は歳をとらない?
時間は悲しみを癒す最高の妙薬
「死」から目をそらすことは「生」から目をそらすこと
悲しみを癒すためにするべきこと
読書が与えてくれる気づき
童話やファンタジーの癒しの力
メルヘンに秘められた真実
涙を流すという心の革命
大人のためのファンタジー
「死」という永遠の謎と向き合う
『青い鳥』と死者の世界
「最高の叡智」とは何か
宮沢賢治のひみつ
銀河鉄道の夜』と臨死体験
タイタニック号から銀河鉄道
宗教、哲学、科学、そして物語
あとがきにかえて「別れの言葉は再開の約束」


陸上に漂着した船の前で(気仙沼

 

わたしにとって、本書は『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)に次ぐグリーフケアの著書でした。わたしの持てるすべてを総動員して、本書を書き上げました。2011年3月11日は、日本人にとって決して忘れることのできない日になりました。三陸沖の海底で起こった巨大な地震は、信じられないほどの高さの大津波を引き起こし、東北から関東にかけての太平洋岸の海沿いの街や村々に壊滅的な被害をもたらしました。その被害は、福島の第1原子力発電所の事故を引き起こし、いまだ現在進行形の大災害は続いています。


三陸の海をながめて

 

大量死の光景は、『古事記』に描かれた「黄泉の国」がこの世に現出したようでもあり、また仏教でいう「末法」やキリスト教でいう「終末」のイメージそのものでした。大津波の発生後、しばらくは大量の遺体は発見されませんでした。いま現在も、多くの行方不明者がおられます。火葬場も壊れて通常の葬儀をあげることができず、現地では土葬が行われましたさらには、海の近くにあった墓も津波の濁流に流されました。葬儀ができない、遺体がない、墓がない、遺品がない、そして、気持のやり場がない・・・・・まさに「ない、ない」尽くしの状況は、今回の災害のダメージがいかに甚大であり、辛うじて助かった被災者の方々の心にも大きなダメージが残されたことを示していました。


巨大なクジラ缶の前で(石巻

 

現地では毎日、「人間の尊厳」というものが問われました。亡くなられた犠牲者の尊厳と、生き残った被災者の尊厳がともに問われ続けていたのです。この国に残る記録の上では、これまでマグニチュード9を超す地震は存在していませんでした。地震津波にそなえて作られていたさまざまな設備施設のための想定をはるかに上回り、日本に未曾有の損害をもたらしました。じつに、日本列島そのものが歪んで2メートル半も東に押しやられたそうです。それほど巨大な力が、いったい何のためにふるわれ、多くの人命を奪い、町を壊滅させたのでしょうか。あの地震津波原発事故にはどのような意味があったのでしょうか。そして、愛する人を亡くし、生き残った人は、これからどう生きるべきなのか。そんなことを考えながら、残された方々へのメッセージを書き綴ってみました。


防災対策庁舎の前で祈る

 

もちろん、どのような言葉をおかけしたとしても、亡くなった方が生き返ることはありませんし、その悲しみが完全に癒えることもありません。しかし、少しでもその悲しみが軽くなるお手伝いができないかと、わたしは一生懸命に心を込めて本書を書きました。時には、涙を流しながら書きました。本書の内容をベースとして、京都大学で「東日本大震災グリーフケア」について講演したのも忘れ得ぬ思い出です。その会場には、後に上智大学グリーフケア研究所で御一緒する島薗進氏、鎌田東二氏、さらには僧侶で作家の玄侑宗久氏がおられた、わたしの話を聴いて下さったのです。御縁を感じました。大震災の犠牲になった方の遺族・関係者のみならず、すべての“愛する人を亡くした人”に本書を読んでいただきたいと思います。


京大での講演のようす

 

のこされたあなたへ  3.11 その悲しみを乗り越えるために
 

 

 

2021年4月29日 一条真也