一条真也です。
茶道・裏千家の前の家元である千玄室先生が14日にお亡くなりになられました。102歳でした。80年目の「終戦の日」となる15日、新聞各紙やNHKが報じました。偉大な文化人でした。心より御冥福をお祈りいたします。
ヤフーニュースより
千玄室先生は、1923年、京都生まれ。1943年に海軍に入隊し、特攻隊員として訓練を受けましたが、出陣せずに終戦を迎えました。千玄室先生は「一碗からピースフルネスを」というモットーを掲げ、裏千家の茶道を通じて反戦メッセージを世界に発信していました。国連本部やハワイ・真珠湾のUSSアリゾナ記念館などで茶道を披露し、世界で日本文化の普及に尽力した。
1964年に裏千家十五代家元を継承。英国のエリザベス女王や旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ氏、米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官、中国の胡錦濤前国家主席らをもてなしました。1997年に文化勲章を受章し、2020年にはフランスの最も権威ある勲章であるレジオン・ドヌールを授与されています。

ハワイでの千玄室先生(中央)と妻(右)
千玄室先生には、わたしの妻が大変お世話になりました。妻は独身時代ずっと裏千家の茶道を修行していましたが、当時の千玄室先生は「千宗室」の名前で、裏千家のハワイ研修にも御一緒しました。わたしも、千玄室先生に一度お目にかかったことがあります。もう20年以上前だと思いますが、海外のホテルの朝食会場でお会いしました。先生は、誰も見ていないのに朝食を前に手を合わせて「いただきます」と言われていました。その所作の美しさに感動したわたしは、お食事後に御挨拶をさせていただきました。

塩月弥栄子先生と妻
妻はもともと千玄室先生のお姉様である塩月弥栄子先生の教室で学び、可愛がられていました。礼法家だった父・佐久間進も塩月先生と親しくさせていただき、妻が「佐久間進の長男(わたしのこと)と結婚する」ことを知った塩月先生は驚きつつも大変喜ばれ、妻にお祝いの花束をプレゼントして下さいました。その塩月先生といえば、戦後を代表する大ベストセラーの著者として知られます。1970年1月30日発行の『冠婚葬祭入門』(光文社カッパ・ホームズ)です。同書は、5か月間で100版を超す大ベストセラーとなり、総発行部数は300万部を超え、その記録は現在に至るまで破られていません。
ハワイで塩月弥栄子先生(中央)と妻(右)
日本という敗戦国が、1964年の東京五輪と1970年の大阪万博という二大国際イベントによって国際社会に本格的デビューを果たしたとき、「国際化はしたけれども、日本の文化は大丈夫か」といった不安感が当時の日本人の心の中に湧き上がったのではないでしょうか。そうした不安が具体的には核家族というライフスタイルが確立される中、古い世間との付き合い方(冠婚葬祭)への戸惑いとして、入門書を手に取らせたのではないでしょうか。「そのやり方で大丈夫」という冠婚葬祭との付き合い方にお墨付きと安心を与えてくれたのが、塩月弥栄子版『冠婚葬祭入門』だったのかもしれません。ちなみに、同書へのオマージュとして上梓したのが拙著『決定版 冠婚葬祭入門』(PHP研究所)です。縁は異なもの、乙なもの。やはり、この世は「有縁社会」ですね!
『冠婚葬祭入門』と『決定版 冠婚葬祭入門』
2025年8月16日 一条真也拝