Share金沢

一条真也です。金沢に来ています。
小松空港に到着して冠婚葬祭施設の建設候補地を見て回った後、「Share金沢」という総合ウェルビーイング施設を訪問・見学しました。わが社が追及している互助共生社会やコンパッション都市の雛形を見た思いがしました。

「NHKシリーズ ウェルビーイング」第1回より

「NHKシリーズ ウェルビーイング」第1回より

「NHKシリーズ ウェルビーイング」第1回より

「NHKシリーズ ウェルビーイング」第1回より

この施設を知ったのは、父であるサンレーグループ佐久間進会長から教えられて観た「NHKシリーズ ウェルビーイング 第1回「LIFE SHIFTにっぽん リンダ・グラットンが見た北陸の幸せ」においてでした。番組の中で、ブログ『『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で紹介した世界的ベストセラーの著者であるリンダ・グラットンが日本の北陸を訪れて、総合的な幸福としての「ウェルビーイング」を探求するという内容でしたが、その最大の鍵となる施設がShare金沢だったのです。

サンレーグループ20周年記念バッジ

f:id:shins2m:20220127135211j:plainサンレーグループ報「Well Being」

 

ウェルビーイング」といえば、わが社が約40年前に経営理念に取り入れた思想です。社内報の名前も「Well Being」でした。当時のサンレー社長であった佐久間進会長は九州大学名誉教授の池見酉次郎先生(故人)と日本心身医学協会を設立し、日本における心身医学の啓蒙・普及に努めましたが、そのときのコンセプトが「ウェルビーイング」でした。佐久間会長は、40年近く前に金沢全日空ホテル(わたしがいまこの文章を書いているANAクラウンプラザ金沢の前身)で「ウェルビーイング」をテーマに講演を行い、大きな反響を呼んだことがあります。その金沢に日本を代表するウェルビーイング施設が生まれていたとは、まことに不思議な縁を感じます。

Share金沢の入口


若松共同売店の外観


若松共同売店

 

Share金沢とは何か? それは、高齢者、大学生、病気の人、障害のある人、分け隔てなく誰もが、共に手を携え、家族や仲間、社会に貢献できる街です。かつてあった良き地域コミュニティを再生させる街です。いろんな人とのつながりを大切にしながら、主体性をもって地域社会づくりに参加します。設計・施工を手掛けた株式会社五井建築研究所HPによれば、「アクティブ・エイジング」に基づいた「ごちゃ混ぜ」の街だそうです。Share金沢は従来の「縦型福祉」から脱して、障害者だけではなく健常者も、また若者も高齢者も分け隔てなく一緒に暮らせる街を創るという壮大な試みであるとして、同HPには「この街づくりのコンセプトは『ごちゃ混ぜ』の街と分かりやすく表現できる。『ごちゃ混ぜ』の意味は、あらゆる人が分け隔てなくふれ合う環境が備えられているということであり、運営法人はそうした街を『アクティブ・エイジング』という考え方――住民の健康や安全が守られ、積極的に社会的・経済的・文化的・精神的活動に住民自身が参加していける仕組み―に基づいて街の住民自身が創りあげていく『私がつくる街』という言葉を運営コンセプトとしてうちだしている。その象徴的な施設が『若松共同売店』と名付けられたショップである。ここはサービス付き高齢者向け住宅の住民を中心に仕入れから販売までの運営を行っている」と書かれています。


Share金沢にて

Share金沢のようす


「ガイア自然学校」の前で

Share金沢のようす

また、同HPには「この街の福祉施設としては、児童入所施設(障害者自立、自閉、重度の各棟)、児童発達支援センター、高齢者デイサービス、生活介護、車イス対応バリアフリー住宅などがある。このうち高齢者デイサービス、生活介護施設は本館として位置づけられる複合的施設に配置されている。本館はこの街全体にとっても極めて重要な機能を持っている。それは温泉を介在としたコミュニティ機能である。「温泉」というツールを利用してレストランを併用し、街の住人も施設の利用者も一般客も誰でもここでくつろぐことが出来る。こういった施設が都市部の地域コミュニティに重要な役割を果たすこと期待している。高齢者デイサービス施設や生活介護施設の談話空間が、温泉・レストランを利用する一般客の動線上に配置されていることに運営姿勢が顕著に顕れているといえる」とも書かれています。まことに興味深いですね。


ウクレレ教室の前で


ドッグラン施設


アルパカ牧場


向かい側は金沢刑務所です

 

さらに、同HPには「健常者が暮らす施設としてサービス付き高齢者向け住宅(全32戸)、学生住宅(全8戸――このうち2戸はアトリエ付き住宅である。)がある。学生たちにはボランティア活動をすることによって家賃を割り引く仕組みを導入することで、障害者との積極的な関わりを生み出そうとしている。住民の生活の支えとなり、潤いをもたらし「アクティブ・エイジング」を可能にする様々な施設もこの街に入居している。クリーニング店、Publish Bar、ブータンセレクトショップ、料理教室、ボディケア、ウクレレ教室等個性的な店舗がこれにあたり、その他NPO法人ガイア自然学校、一般社団法人地域スポーツシステム研究所が入居し、こどもたちの活動を支えている。また、アルパカ牧場やドッグランの施設もこの街に和らいだ雰囲気と潤いを与えている」とあります。


リゾートの思想』(河出書房新社

 

わたしは、Share金沢を見学して、大きな衝撃を受けました。宮沢賢治の「羅須地人協会」、武者小路実篤の「新しき村」などの各種ユートピア実験のアップデート版といった印象でした。まさに、拙著『リゾートの思想』(河出書房新社)の中で詳しく構想を述べた「ハートピア・ヒア」の世界です。わたしは今、「コンパッション」というコンセプトを追求しています。ブログ『コンパッション都市』で紹介したコミュニティは「悲しみの共同体」ですが、わたしはこれまで「コンパッション」は「ウェルビーイング」を超えた思想であると思っていました。しかし、ここに来て、「ウェルビーイング」と「コンパッション」は相互補完する概念であり、わたしの代名詞である「ハートフル」を二分する重要概念であると悟りました。こうなったら、こうなったら、現在執筆中の『コンパッション!』(オリーブの木)と並行して『ウェルビーイング!』という本も書き、双子本として2冊を同時に上梓したいと思います。どうぞ、お楽しみに!


Share金沢は小さな互助共生社会で、ミニ・コンパッション都市であるとも思いました。学生の入居について、家賃を低くするかわりにボランティアをしてもらう点も興味深いです。双方にメリットがあり、ボランティアを通して老人と学生の人間関係づくりのきっかけにもなります。Share金沢で高齢者と児童が自然に交流する姿を見て、「幼老院」というコンセプトを連想しました。「危機の時代」と言われて久しいですが、その「危機」を大きくとらえれば、「環境問題」と「世界平和」の2つの危機であると言えるでしょう。どちらも人類の生存の危機を含んでいます。そしてそれは、人類のみならず、地球上の他の生命種までも絶滅に巻き込んでしまう深くて大きな危機だと言えます。その発想の延長戦上に現在注目されている「SDGs」もあると言えるでしょう。 

 

 

宗教哲学者の鎌田東二氏は、著書『翁童論』(新曜社)などを通じて、その危機をさらに具体的に子どもと老人の生命と文化の危機、すなわち翁童存在の危機ととらえ、問題提起をしてきました。その問題とは、第1に「子どもは単に子どもなのか」という問いです。その答えは、子どもは単に子どもであるばかりではなく、その内に老人を内包しているというものでした。


鎌田氏は、その答えを神話や民族儀礼などの伝承文化を考察するところから引き出そうとしました。原始社会から近代に至るまで、いや、近代社会にあっても沖縄やアイヌや世界各地の民族社会では、子どもはおじいさんやおばあさんの生まれ変わりと信じられてきました。子どもは祖父母の生まれ変わりという観念は、古い民族社会で根強く残されてきました。


ここで注目すべきなのが、北陸と並ぶわが社の重要拠点である沖縄です。沖縄には「ファーカンダ」という方言があります。「孫」と「祖父母」をセットでとらえる呼称です。これは、親子、兄弟という密接な人間関係を表わすものと同様、子どもとお年寄りの密接度の重要性を唱えているものと考えられます。超高齢化社会に向けて、増え続けるお年寄りたち。逆に減り続け、街から姿が消えつつある子どもたち。その両者を「ファーカンダ」という言葉がつなげているのです。「ファーカンダ」は「ファー(葉)」と「カンダ(蔓)」の合成語とされますが、それは、葉と蔓との関係のように、切っても切れない生命の連続性を示していると言えるでしょう。

ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー

 

わたしは、1992年に上梓した『ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー)において「幼老院」なるプランを提唱しました。それは、老人ホームあるいは養老院のような「老人施設」と幼稚園あるいは保育園のような「児童施設」を同じ施設内か同じ敷地内につくるプランでした。老人と子どもは相互補完的な関係にあるとされますが、おじいちゃん子やおばあちゃん子が多いように、もともと老人と子どもは「セックス」や「労働」といった生産的行為から自由な遊戯的存在同士だから相性がよいのです。


老人と子どもがドッキングすれば、高齢者は老人性痴呆症の進行を早める高齢者だけの集団生活よりも張りが出てくるし、生きがいも持つことができるでしょう。また子どもにしても、仕事や社交に忙しい父親や母親が教えてくれないさまざまな知識や人生の知恵を老人から学ぶことができるのではないかと訴えたわけです。



今日、児童施設と老人施設を合体させようとする動きが各所に見られます。それはとても望ましい試みであり、わが年来の主張とも一致します。しかし、そのハード面の整備だけでは足りません。ソフト面の開発と活用が緊急の課題となっていると思います。そうでなければ、生命と文化の連続性と活力が生まれてこないのです。

老福論〜人は老いるほど豊かになる』(成甲書房)

 

例えば、高齢者が折り紙を子どもたちとともに折ることや、縄のない方、昔の遊戯、昔話、体験談などを、子どもたちに興味を持たせるような工夫と取り合わせで推進していくこと。老人の知恵と生きがいを役割と生きがいをうまく演出し、実現することによって、子どもたちに「人は老いるほど豊かになる」ということを実感させます。子どもと老人の波長の共鳴度を高めることによって、社会にはハーモニーがもたらされます。「幼老院」というキーワードが象徴する世代間の文化伝承のお手伝いができるのは、わたしたち冠婚葬祭互助会だと確信しています。



2023年2月3日 一条真也