一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「仕」です。



鉄道ガード下の居酒屋などで、酔ったサラリーマンがチューハイか何かを片手に後輩にクダを巻いています。「どうせ俺たちなんか、会社の歯車だからよー!」との言葉が聞こえます。まことにありふれた光景ですが、このような光景にふれると、わたしはいつも腹が立ってきます。会社員が会社の歯車なのは当たり前の話ではないですか。部下だって上司だって、いや社長だって会社の歯車です。



仕事であれスポーツであれ、組織を構成する個々人は、すべて歯車なのです。大リーグのイチローも、サッカーの本田圭佑も、みんなチームの歯車でした。でも、彼らは単なる伝達歯車ではなく、チームを動かす駆動歯車でした。わたしは毎年の入社式の際に新入社員に向けて、「あなた方は会社の歯車です。でも、自ら会社を動かすような歯車になって下さい」と訴えかけます。会社人は、組織の歯車であることを強く自覚し、歯車に徹することによって、会社のなかで光り輝くのです。

 

 

そして、上司とは部下に仕える歯車です。少し前から、「サーバント・リーダーシップ」という言葉をよく聞くようになりました。上司は部下の成功に奉仕すべきだとするリーダーシップ・モデルです。古代から「優れたリーダーは、自らに仕える者に仕える」という知恵は存在しました。歴史上、天性のリーダーとされた人々の記録を見ると、そこから「リーダーの権力と権限は下の者から与えられる」という真理が導き出されてきます。

 

 

「顧客の時代」である現代、顧客と直接的に接する現場スタッフの存在が重要になってきます。すると、リーダーシップの核心は、いかに組織メンバーたちを自分に従わせるかということから、いかに顧客接点に従事する人々に貢献するかという方向へと移行するのです。アメリカの地方代理店から世界第三位の旅行会社へと急成長したローゼンブルース社は「顧客第2主義」という一見ショッキングな経営理念を持っています。では、何が第一かというと、社員です。「企業は顧客でなく、社員を第一に考えるべきだ」という基本理念によって、同社はわずか30年で実に売上げ300倍にまで成長したのです。


「顧客はそれをどう感じているのか?」といぶかる人もいるでしょう。企業にとって社員が第一でも、社員にとってお客様はもちろん最優先です。ローゼンブルース社は、アフタヌーン・パーティーやランチタイム学習といった社員を重視する数々の具体策をもって、顧客サービスにおいて確固たる評判を築きました。リーダーの仕事とはサービス業であり、上司は部下の成功に奉仕すべきなのです。なお、「仕」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

龍馬とカエサル

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2023年1月25日 一条真也