グリーフケア士テキスト

一条真也です。
わたしは、一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会のグリーフケアPT座長として、グリーフケア資格認定制度の発足に取り組んでいます。このたび、グリーフケア士になるための初のテキストである『グリーフケアの理論と実際Ⅰ』が完成しました。

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グリーフケアの理論と実践Ⅰ』の表紙

 

172ページありますが、ついに資格認定制度のテキストが完成し、感無量です。これで、グリーフケアの時代の到来が近づいたように思いました。このテキストは、上智大学グリーフケア研究所島薗進先生の監修、同研究所の客員研究員の粟津賢太先生の著書です。わたしも、校正の段階で何度もチェックをさせていただきました。

f:id:shins2m:20210614232525j:plainグリーフケアの理論と実践Ⅰ』より

 

巻頭には「刊行に寄せて」があり、全互協の山下会長、冠婚葬祭文化振興財団の金森理事長の挨拶があります。わたしも、「グリーフケア士が社会から感謝され、評価される時代のために」という題名で以下の挨拶文を書きました。
「ここに、グリーフケア士のためのテキストが完成したことを心より嬉しく思います。『グリーフケア』という言葉は現代では日常的に使われるほど浸透してきた言葉ですが、その言葉の意味を真に理解し、実践されている方は少ないのではないでしょうか。これから多死社会を迎えると言われる中で、死別を含んださまざまな喪失と悲嘆の経験が増えていくと考えられ、そのケアのためのグリーフケアの普及と実践は、日本人の『こころの未来』にとっての最重要課題と位置づけられています。これまで地縁や血縁といった縁で結ばれていた社会を構成する共同体がさまざまな社会変化により希薄化・弱体化する中で、共同体がもっていたグリーフケアの仕組みは機能不全を起こしつつあります。この機能不全は社会の存続と存在自体を危うくする危機的な状況でもあります。そのためにグリーフケアの役割を担ってきた共同体に代わり、グリーフケアを専門的に理解し実践する存在が求められています。その意味でグリーフケアの理解と実践のための明確な指針となる『グリーフケア士』という資格が誕生したことは、この危機的状況にある社会の存続と日本人の『こころの未来』のために必要とされ求められていた結果であり、必然でもあると考えます。どうか、多くの方々に資格認定制度を利用していただき、グリーフケアの知識を深め、実践していただければと思います。そして何よりも、今後の社会におけるインフラであり、必要不可欠なエッセンシャルワークとしてのグリーフケアを実践していく方々が、感謝され、評価される存在となる時代が訪れることを心から願っております」

 

このテキストの「目次」は、以下の通りです。
「序文」島薗進
「刊行に寄せて」山下裕史・佐久間庸和・金森茂明
第1単元 死別と悲嘆
構成と学習目標
Section1-1 グリーフケアという言葉
Section1-2 グリーフとはなにか
Section1-3 悲嘆と心身相関
Section1-4 多死社会の到来
Section1-5 死を悼む動物たち
Section1-6 ライフサイクル論
Section1-7 老年的超越とスピリチュアリティ
第2単元 グリーフケアの理論と歴史
構成と学習目標
Section2-1 グリーフワーク
Section2-2 グリーフ・プロセスの理論モデル
Section2-3 継続する絆:新たな理論モデル
第3単元 儀礼と葬制論
構成と学習目標
Section3-1 儀礼とは何か
Section3-2 通過儀礼と社会的地位の移動
Section3-3 葬送儀礼と共同体
Section3-4 儀礼のサイクル
Section3-5 共同体の空間構造と時間構造
第4単元 死を忘れた社会
構成と学習目標
Section4-1 村落共同体の解体
Section4-2 死を忘れた社会
Section4-3 共感と同苦の共同体
Section4-4 脱医療化するケアのコミュニティ
第5単元 さまざまな喪失と傾聴
構成と学習目標
Section5-1 さまざまな死別
Section5-2 日本における大事故・事件・災害とグリーフケアの展開
Section5-3 あいまいな喪失とネットワーク
Section5-4 傾聴と物語
第6単元 ケアの代償とセルフケア
構成と学習目標
Section6-1 最も自殺率の高い職業
Section6-2 バーンアウトとは
Section6-3 バーンアウトの症状
Section6-4 感情労働と共感疲労
Section6-5 予防システムとセルフケア
第7単元(付論) 
グリーフケア士の行動指針
ガイドライン
学習目標
グリーフケア士のガイドライン
グリーフケア士の第1の責任
グリーフケア士の第2の責任
傾聴について
セルフケア
困った時のために
「精神保険福祉センター・一覧」
「あとがき」
「参考文献」
「索引」

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「ふくおか経済」2021年1月号

 

グリーフケア資格者認定制度は、葬儀の施行に加え、サポートやケアなどのスキルを持った専門職(グリーフケア士)の育成が非常に重要になってきたため、創設されました。この資格認定制度を行う意義として、グリーフケアが葬儀施行以外にも医療の現場を始め様々な現場で必要とされるものであり、グリーフケア士の育成を行うことでグリーフを抱える「悲嘆者」が日常の生活の中でケアされる健全で心ゆたかな社会を構築していくこととなります。また、この制度は、わたしが客員教授を務める 上智大学グリーフケア研究所による監修のもと、葬儀業界関係者だけを対象とせず、多くの方が受験できるようにしています。

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「ふくおか経済」2020年12月号

 

資格認定の対象者としては、①互助会事業者等に勤務している方②職務を通してグリーフケアの実践が必要な方(医師、看護師、介護スタッフ等)③悲嘆を抱えた方に寄り添いケアを行う方(遺族会患者会)④グリーフケアに関心の高い方となり、広く門戸を開き、資格として認定することで人材を育成していくものです。

 

グリーフケア士の役割は人生の様々な節目において経験する〈ひと・もの・こと〉の深い喪失に際して、
・丁寧に想い起こし、感謝し、祝福し、決別を十分嘆くための特別な場を整える(文化・伝統・宗教資源)
・グリーフを大切に憶え続ける心の準備を促す
 (ケア資源)

・グリーフを経験した自分を見守ってくれるコミュニティーの再構築を目指す(地域資源)こととなります。
そしてグリーフケア士とは、その役割を果たすために、「悲嘆者」と誠実に向き合い、ライフサイクルの中で起こるグリーフの諸相を理解し、儀礼と傾聴を通して、悲嘆を抱えた方に寄り添いケアを実現する専門職です。グリーフケア士に認定された方には、その上位の資格である上級グリーフケア士の受験や、さらには高度なグリーフケアの能力を獲得するために上智大学グリーフケア研究所の「グリーフケア人材養成講座」の受講を推奨されており、そこではグリーフケアのマネジメント(指導・育成・管理)能力を会得することができます。

 

グリーフケア士の資格試験は全国の試験会場にてインターネット経由で配信する試験形式(CBT方式)により、すべての曜日(祝日及び年末年始休業等を除く。2021年3月末時点での試験会場数は287会場)で受験することができ、試験結果の評価判定に基づいて資格の認定が行われます合格者には、認定の証として資格認定証(カード)が交付し登録されます。また、資格を所得すれば終わりではなく、知識やスキルの向上、新たな情報の提供のため、登録者へのフォローを実施していくことも決まっており。具体的には、セミナーやワークの実施、定期的な機関紙の発行(年に一回)等などが検討されています。時代のニーズに答えるために、この資格認定制度はスタートします。グリーフケア士の皆様には、社会において必要不可欠な存在となるべく、そして共によりよい社会をつくっていく存在となっていただきたいと願っています。

 

2021年6月15日 一条真也