「エアガール」

一条真也です。
20日の21時からテレビ朝日系列で放映されたスペシャルドラマ「エアガール」を観ました。新型コロナ禍で大打撃を被っている航空業界ですが、このドラマはJALの略称で親しまれる日本のナショナルフラッグキャリア日本航空の誕生物語を、史実をベースに描いています。

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「エアガール」のタイトルバック

 

戦後初のキャビンアテンダント=エアガールとなった佐野小鞠を演じるのは、CA役は初めてという広瀬すず。東京・下町の町工場の娘に生まれた小鞠をはじめ、元華族令嬢の相原翠(山崎紘菜)、元陸軍中将の娘の伊原雅美(藤野涼子)、流暢な英語を話す志田多美子(中田クルミ)、最年少エアガールの川村陽子(伊原六花)たちが健気に奮闘する様子と、レトロかわいい制服姿が見どころのドラマでした。あいかわらず、広瀬すずがキュートだった!



小鞠の家族はみんな飛行機好きでしたが、大好きな兄は神風特攻隊で死に、母はアメリカの戦闘機による東京大空襲で死にました。大切な家族を飛行機に奪われても、小鞠は飛行機で空を飛ぶ夢を諦めませんでした。彼女の心の支えになったのは、兄の生前の「小鞠は女なのに、本当に飛行機が好きだなあ」という言葉であり、兄の戦友であったパイロット志望の青年・三島優輝(坂口健太郎)でした。三島も自分の代わりにゼロ戦に搭乗して散った小鞠の兄を心の支えにしていました。このドラマは生者の活躍は死者への供養にもなるという唯葬論的ドラマでした。

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死者に支えられて生きた二人

 

また、このドラマはグリーフケアの物語でもありました。
この3月は11日に「東日本大震災」、25日に「地下鉄サリン事件」という大きな悲しみが発生した日があります。思えば、太平洋戦争における敗戦とは、日本人にとって史上最も大きな悲嘆の体験でした。家族を失い、家を失い、誇りを失った日本人が「せめて日本の空だけでも取り戻したい」と願った日本初の民間航空機の就航は、日本人にとってのグリーフケアでもあったのです。



グリーフケアといえば、子どもの頃からCAに憧れていたのに、コロナで夢が経たれた子たちがどんな想いでこのドラマを観たのかと思うと泣けて仕方がありませんでした。彼女のたちのグリーフを想像するとたまりません。CAになりたい人というのは「空が好き」とともに「人間が好き」な人だと思います。どうか、その「人間が好き」という心を忘れずに、新しい道を探して頑張ってほしいです。

 

決定版 おもてなし入門

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  • 作者:一条 真也
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それから、「おもてなし」のキーワードで盛り上がった東京五輪が海外観客受け入れを断念しましたが、「エアガール」で描かれた日本最初の国内便のフライトはまさに「おもてなし」の真剣勝負であったことがわかりました。新橋の料亭で修行していた小鞠の配膳スキルは一流であり、機内でのサービスにも生かされていました。やはり、一流の「おもてなし」は「人間が好き」に支えられているのです。医療・介護・冠婚葬祭といったエッセンシャル・ワークに従事する人たちも、みんな「人間が好き」な人たちだと思います。どうでもいい仕事であるブルシット・ジョブに従事する人は「お金が好き」なのでしょうか?



終戦直後、日本の航空産業はアメリカに完全に支配されており、日本人は操縦も整備もすることはできませんでした。佐野小鞠(エアガール)の実在モデルとなったCA(客室乗務員)は誰?」というネット記事には、「1945年当時の日本はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下に置かれ、GHQ指導の下、様々な改革がトップダウンで行われていました。農地解放や女性選挙権、財閥解体など様々な政策が実施されていく中、GHQは日本の航空産業にも厳しい規制を設けます。太平洋戦争の当初、日本のゼロ戦を前になすすべもなく、甚大な被害を被っていたアメリカにとって、日本の飛行機開発はまさに『脅威』そのもの」と書かれています。



また、記事には「これまで通り航空機の研究・開発を続けさせていたら、またアメリカをはじめ世界を脅かすことになりかねない強い危機感をいだいていました。そのために、日本に残っていた飛行機を吐き払うだけではなく、航空機の生産工場や設備を破壊。ジブリ映画『風立ちぬ』のモデルとなった中島飛行機(自社での一貫生産を可能とする高い技術力を備え、第二次世界大戦終戦までは東洋最大、世界有数の航空機メーカー)も解体されました」とも書かれています。ちなみに、解体後の中島飛行機は、現在の自動車メーカー「SUBALU」や工具メーカー「マキタ」、「富士重工業」などに継承されていきます。

そして記事には、「GHQは、さらに第2時世界大戦中は、年間2万5千機もの航空機を生産・管理していた『運輸省航空局』も解体しし、徹底的に日本の航空産業をつぶしにかかりました。現代の日本が航空機産業において世界でも大きく後れを取っているのも、この時のGHQによる厳しい規制が遺恨を残しているようです。しかし、1950年になると『朝鮮戦争』勃発によりGHQによる日本の航空産業への規制がみなされていきます。ソ連のバックアップを受ける北朝鮮側の猛攻により、劣勢を余儀なくされた韓国を支援するために、日本の優れた航空技術を朝鮮戦争の後方支援に使おうと画策します。アメリカで軍用機を製造して朝鮮半島に送るよりも、軍用機の整備や補修を日本の企業に委託したほうが圧倒的に効率が良いからです」と書かれています。

 

日本航空一期生 (中公文庫)

日本航空一期生 (中公文庫)

 

 

GHQは民間企業での航空会社の設立を認め、戦後初となる日本の航空会社「日本航空株式会社(後のJAL)」が誕生。日本人の乗員によるフライトは終戦から6年後に実施されました。「エアガール」の原作である中丸美繪著『日本航空一期生』には、以下のように書かれています。
「1951年10月25日、羽田空港は朝もやに包まれていた。午前7時43分、国内線定期空路の第1便が1号滑走路にむけて、ゆっくりとタクシングをはじめた。東京から大阪を経由して福岡をめざす『もく星号』である。機体の両翼には鮮やかな赤い日の丸が描かれていた。そして、胴体には赤線二本と『日本航空』の文字がある」

f:id:shins2m:20210320221712j:plain110月25日は次女の誕生日 

 

この10月25日というのは、次女の誕生日です。東京にいる次女は現在、コロナ禍の中で就活を頑張っています。なんとか「エアガール」の主人公である小鞠のように、自分が志望している仕事をさせてあげたいと願っています。それから、親としては、この苦労を必ず今後の人生に活かしてほしいと願わずにはいられません。明日22日で誕生日を迎える長女は妹の挑戦を献身的にサポートしてあげています。男女雇用均等法などと言っても、まだまだこの国は女性が不利な立場にあります。それは東京五輪の「女性蔑視」的体質にも表れています。この感動的なドラマを観終わって、わたしは「どうか、二人の娘たちが幸せになりますように」と思いました。

 

2021年3月21日 一条真也