天皇陛下と儀式

一条真也です。
いま、わたしは「大和魂」について考え続けています。そして、「天皇制」と「大相撲」の初期設定とアップデートについて具体的に考えています。
まずは「天皇制」について。1日に開催された皇室会議では、天皇陛下が2019年4月30日に退位される日程が固まりました。平成は再来年の4月末で終わります。翌5月1日から改元となります。


今朝の新聞各紙の一面



じつに200年ぶりの天皇の退位となりますが、安倍晋三首相は会議を踏まえ「天皇陛下のご退位と皇太子殿下のご即位が国民の祝福の中でつつがなく行われるよう全力を尽くしていく」との談話を発表しました。政府は退位や即位の儀式のほか、新元号制定に関する準備を本格化します。


2016年7月13日、NHKは、天皇陛下が生前にその位を皇太子殿下に譲る「生前退位」の意向があることを宮内庁の関係者に示し、数年以内の退位を希望しているということを伝えました。それ以来、わたしは「生前退位」に伴う儀式について調べてきました。


今上天皇の即位は1989年1月でした。
前年秋から続いた昭和天皇の病状悪化による自粛ムードが社会に停滞感を漂わせていました。昭和天皇崩御を経て、皇室の服喪期間があり、官房長官を委員長とした「即位の礼準備委員会」が発足したのは89年9月。90年11月12日〜15日、今上天皇が即位を宣言したのです。その後、国内外の代表らが祝福する「即位礼正殿の儀」、祝宴を開く「饗宴の儀」などの即位に関連する儀式が行われました。


日本経済新聞」2017年12月2日朝刊



今回の皇位継承に際しても儀式に関する専門家が集められるそうですが、わたしにも『儀式論』(弘文堂)という著書があるように、儀式に関してはあらゆる視点から研究してきました。皇位継承に関する儀式は最大の感心事で、膨大な文献を読んできました。誠に不遜ながら、何かわたしにお役に立てることがあれば、政府や宮内庁関係の方々はいつでも御連絡下さい。


儀式論』(弘文堂)



儀式論』にも書きましたが、「わたしたちは、いつから人間になったのか。そして、いつまで人間でいられるのか」という根源的な問いの答えは、すべて儀式という営みの中にあります。わたしは、人間は神話と儀式を必要としていると考えています。社会と人生が合理性のみになったら、人間の心は悲鳴を上げてしまうでしょう。そして、天皇陛下ほど「神話」と「儀式」をその存在で体現されている方はおられません。


天皇陛下は神話的存在です。なんといっても日本人のアイデンティティの根拠は、神話と歴史がつながっていることです。神話により日本人は、現在の天皇家の祖先が天照大神につながることを知っています。『日本書紀』の一書によれば、天照大神は天を支配し、月読尊は海を支配し、須佐之男命は地を支配したとされています。天照大神はいまも伊勢神宮に祀られており、その子孫が皇室です。


また、天皇陛下は儀式的存在です。代々の天皇陛下は、自ら稲を栽培され、収穫が終わると新嘗祭神嘗祭で、今年の収穫のご報告をされます。新嘗は、新しくできた米を嘗(な)めるお祭。神嘗は、神々が新穀を嘗(な)めるお祭りです。天皇陛下が即位後初めて行う新嘗祭だけは、「大嘗祭(だいじょうさい)」と呼び、その儀式は遠く神代の昔から毎年続いています。ちなみに、伊勢神宮の20年に1度の式年遷宮は、20年に1度の周期で行う大神嘗(かんなめ)祭でもあるのです。


改めて考えてみれば、天皇陛下ほど儀式と切っても切れない深い関係にある方もおられないでしょう。天皇陛下の行事の中には「祭祀」がありますが、これは「皇室祭祀」とも呼ばれるものです。これには新嘗祭など重要な「大祭」と、それよりも重要度が落ちる「小祭」があり、大祭の場合には、天皇陛下が神主の役割を果たされます。また、日本国憲法では、天皇の国事行事として「儀式を行ふこと」が定められています。1952年の閣議決定によれば、それに相当する唯一の儀式が「新年祝賀の儀」です。 


儀式には、宗教的なものと世俗的なものがありますが、政教分離の原則がある以上、国事行為として天皇陛下が行われる儀式は後者に限られます。天皇陛下が実際に行われる儀式としては、首相や最高裁長官の「親任式」、大綬章や文化勲章の「親授式」、「信任状捧呈式」などがあります。 信任状捧呈式とは、着任した海外の大使(特命全権大使)や公使(特命全権公使)が、派遣元の元首からの信任状を提出する儀式で、これだけでも1年間に30回から40回くらいあるといいます。まさに、天皇陛下は世界最強の儀式的存在であると言えるでしょう。


日本人にとって天皇陛下は、2600年にわたってこの国を、そして日本人を形作るのに欠かせない「扇の要」でした。天皇陛下は、無私になられて日々国民の安寧と世界の平和を祈ってこられました。国民を第一に、そしてご自分は二の次と考えられ、国民のことをお気にかけられてこられました。
ブログ「祈る人」にも書きましたが、偉大なブッダ、イエスといった「人類の教師」とされた聖人にはじまって、ガンディー、マザー・テレサダライ・ラマなど、人々の幸福を祈り続けた人はたくさんいます。
しかし、日本という国が生まれて以来、ずっと日本人の幸福を祈り続けている「祈る人」の一族があることを忘れてはなりません。
最後に、次の道歌を披露したいと思います。


聖人は仏陀孔子ソクラテス 
   イエス・キリスト天皇陛下(庸軒)


2017年12月2日 一条真也