福寿園

一条真也です。
「アジア冠婚葬祭業国際交流研究会」のミッションで中国に来ています。
視察最終日となる23日、ブログ「青浦殯儀館」で紹介した施設を視察した後、わたしたちは中国最大級の霊園である「福寿園」を訪問しました。


バスから見た福寿園の正門

「人文紀念公園」を謳っています

「人文紀念公園」の石碑の前で

福寿園賦」の石碑



福寿園は、上海の郊外にある青浦(セイホ、チン・プー)区に位置する中国初の大型公園墓地です。1995年に開園し、「人文紀念公園」を謳っています。23.3ha(ヘクタール)の広大な面積の霊園は多くの植栽と四季の花々に包まれ、あちらこちらで水の流れる水路や噴水も目にすることができます。広大な芝生のスペースがいたるところにあり、墓石を分譲する区画となっています。施設としては儀式ホール、レストラン、納骨堂、博物館などがあります。


入口には橋が・・・

池もあります

福寿園社員(経理部門)の研修風景

福寿園社員(元軍人)の研修風景



福寿園は、上海市と民間企業である福寿園国際集団との第三セクター方式で作られています。土地を上海市が提供し、建物その他を民間で作って、販売も民間が行うという方式です。福寿園国際集団は上海に本社を置く大手葬儀社で、1994年に設立されました。富裕層を中心に葬儀の運営、出棺、埋葬から墓地管理、共同墓地の運営など総合的にサービスを提供しています。2つの墓地と殯儀館(葬儀場)を持つ上海での事業が中核ですが、同社の墓地は「東洋で最も美しい霊園」と呼ばれています。


霊園のようす

霊園のようす

霊園のようす

霊園のようす



福寿園には多くの政治家や文化人の墓地があります。
いわゆる「超有名人ゾーン」で、上海市の歴代市長、公務員功労者、共産党創始者や、作家、音楽家、演劇人などがこのゾーンに眠っています。
それぞれの墓地には、故人の写真とともに銅像などが建てられています。
多くは夫婦単位で作られていますが、その膨大な数の銅像を見ていると、まるで「銅像都市」に迷い込んだような錯覚にとらわれます。


テレサ・テンの墓地

多くの夫婦が眠っています

まさに銅像都市です!



福寿園には、「生命教育と人文」という明確なテーマがあります。
「生命教育」とは短い人間の生命についての教育でその観点から肉体を医学に捧げた献体者や短くして生涯を終えた子供専用の墓域を設け、献体者や人名救助などで亡くなった人などは無料で埋葬しています。


霊園のようす

霊園のようす

霊園のようす

霊園のようす



「人文」とは「伝統や文化を伝えること」と定義されています。それに該当する伝統や文化に貢献した芸術家や文化人、政治家の墓が福寿園の「超有名人ゾーン」に設置されているのです。ここにお墓を建てられる基準は経済的な裕福さではなく、国家や社会への貢献度となっています。


霊園のようす



「子供墓地」として事故や病気で亡くなった子供の墓を1箇所に集中したうえで、納骨塔の内部に親たちが各々の子の記念品を展示できる1室「星星港」を提供しています。子を失った親同士は共に墓参りや展示室の手入れなどを通し次第にコミュニケーションをとり、グループを形成し相互に慰めあうことで悲しみから立ち直り、徐々に他人の悲しみに目を向けるようになり、社会活動に参加するようになった例もあります。


霊園のようす



「仲間墓地」という区画もあり、伝統的な血縁関係の一族の墓は1ヵ所に置かれる慣習に反して、ある集団のメンバーが死後、1つの区画に置かれるもので、福寿園では「上海ガン回復クラブ」の会員に無料で「IC林墓地」を区画したものがあげられます。有名人が亡くなったなどのニュースがあれば、福寿園から遺族にアプローチして、安く墓地を提供することもあるそうです。


壁葬

ガラス葬



園内は計画的に植樹され、管理されています。
伝統的な中国墓石は少なく、趣向を凝らした墓石が建ち、特に写真を入れたものや肖像を彫刻した墓石が多く見られる。また、故人の仕事を表した墓石などもあります。福寿園には専属の彫刻家がおり、「生命教育と人文」のテーマをそれぞれの感性で発展させ、墓石の彫刻やデザインに反映させていいます。
驚いたのは、レンガの壁やステンドグラスを墓標に見立てた「壁葬」、「ガラス葬」というものがあることです。これには仰天しました。ガラスなどは台風や強風・豪雨などで割れないのでしょうか?


樹木葬ゾーン

花葬ゾーン

土の中には遺灰が・・・

花葬ゾーンにて



樹木葬(植樹葬)の区画、さらには花葬(植花葬)の区画もあります。
国の方針で、貧しい人にも墓地が与えられるのですが、多くは花葬です。
1人につき800元(約1万円)ですが、貧しい人の場合は無料で提供されます。


納骨堂を望む

正面から見た納骨堂

納骨堂の入口



また納骨堂もあり、上海市で2番目に納骨塔を建てる許可を受けています。納骨塔を単なる遺骨を置く収納スペースにせず、部屋を工夫して特色ある室内墓として販売に成功しました。これは遺骨の収納区間と祭祀空間を分け、2つの空間を前後または上下2段に分けて2Kの家のように故人の住居のミニリビングのようなガラス張りの空間を設けています。遺族はさまざまな飾りつけをし、その部屋の鍵は遺族が管理しているため頻繁に訪れて手入れすることも可能です。


霊園のようす



上海の霊園事情ですが、非常に緊迫しています。上海市内の高級霊園の墓地販売価格は29万元(約497万円)前後で、これは同市内の超高級高層分譲住宅「湯臣一品」の1㎡当たりの単価17.7万元(約303万円)をはるかに上回っています。同市では、墓地の平均価格は9万元(約154万円)で、これは2015年の新築住宅の㎡単価の4倍強に相当します。最も低価格な霊園でさえ6万元(約103万円)となっています。


霊園のようす



市当局も、「上海市の墓地用地の広さは330万㎡で、2004年までにその60%が使用されている」と述べ、「数年内に上海市内の墓地用地が無くなってしまう」と発言しました。そのため土地資源の節約になる海葬を考慮に入れることを市民に促し、海葬を選択した場合の市からの補助金を高く設定することを明らかにしている。


墓のデザイン展示場



さらには、「墓地価格が高騰する中国上海で、一般のマンションを「墓用」に買って室内に遺骨や遺灰を安置する市民が増えている」(2016年4月)などのニュースなども報道されています。
2013年12月、中国政府は全国の党・政府幹部に対して、「華美な追悼行事を行なってはならない」とか、「幹部の墓は1㎡以下にせよ」などと命じていたことが分かりました。(党機関紙「人民日報」電子版)
これは「党員幹部の葬儀の改革に関する意見」として墓地の広さのほかにも党幹部が亡くなっても親族が集まる葬儀は別として、一般の人々が出席しての追悼会を開いてはならないことまで禁止事項が細かく記載されています。


生きた動物ゾーンもあり!



この他、通達では葬儀はすべて火葬にすべきで、土葬などの古い慣習を復活させてはならないとしています。中国各地で土葬が行なわれていることを示唆しているようです。土葬の場合、火葬よりも墓の面積が多くなり、その分、土地が必要となり、地価の上昇に拍車をかけるという懸念があります。これにより各地方政府は必ずしも墓が必要ではない「樹木葬」や「花葬」、海に骨をまく「海葬(散骨葬)」などを推奨しています。


東洋で最も美しい霊園にて



福寿園国際集団の経営理念は「生命尊重」です。会長さんによれば、人は200年生きるそうです。身体的には100年生きて、あとの100年は文化的に生きるとのこと。すなわち、残された人々の記憶の中に生きるというのです。素晴らしい「葬」の思想であると思いました。福寿園を訪れ、自分自身の墓についても想いを馳せたことは言うまでもありません。


唯葬論

唯葬論

*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2017年4月25日 一条真也