『“黄金の虎"と“爆弾小僧"と“暗闇の虎"』

“黄金の虎"と“爆弾小僧"と“暗闇の虎" (G SPIRITS BOOK)

一条真也です。
『“黄金の虎”と“爆弾小僧”と“暗闇の虎”』新井宏著(辰巳出版)を読みました。著者はフリーランスのライターとして、「週刊プロレス」(ベースボール・マガジン社)、「Gスピリッツ」(辰巳出版)など古今東西にわたり、国内外、男子・女子を問わず記事を執筆中。サムライTV解説、ネット記事、ムック本なども手がけているとか。

f:id:shins2m:20210621163505j:plain
本書の帯

 

カバー表紙には、本書で取り上げられる3人のプロレスラーの写真が使われ、帯には「金曜夜8時の新日本プロレスを彩った3人の物語」「タイガーマスク ダイナマイト・キッド ブラック・タイガー」と書かれています。

f:id:shins2m:20210621163524j:plain
本書の帯の裏

 

カバー裏表紙には、引退後の佐山(タイガーマスク)とキッド、佐山とマーク・ロコ(ブラック・タイガー)が談笑している写真が使われ、帯の裏には「『出会い』『引退』『再会』『別れ』――。日本とイギリスで紡がれた最高にして永遠のライバルストーリー」と書かれています。

 

本書の「目次」は、以下の通りです。
プロローグ
「金曜夜8時のトライアングル」
 第1章 東洋から来たマーシャルアーティスト
 第2章 衝撃の〝センセーショナル〟サミー・リー登場
 第3章 ダイナマイト・キッドと
     ブラック・タイガーの関係

 第4章 屈辱―タイガーマスクの日本デビュー戦
 第5章 絶頂―1982年夏の新日本プロレス
 第6章 引退―「さよならタイガーマスク
 第7章 〝爆弾小僧〟と〝黄金の虎〟の再会
 第8章 〝暗闇の虎〟と〝黄金の虎〟の再会
 第9章  2018年12月5日、
      ダイナマイト・キッドが永眠

第10章  2020年7月31日、
                    マーク・ロコが永眠

第11章  初代タイガーマスクの復活ロード
エピローグ
「1980年12月17日、
    ロイヤル・アルバート・ホール」
「あとがき」

 

プロローグ「金曜夜8時のトライアングル」で、プロレス界に革命を起こしたとされるタイガーマスクの好敵手として知られたダイナマイト・キッドとブラック・タイガーの2人がともにイギリスから海を渡り日本にやって来たとして、著者は「両者とも初来日が国際プロレス(ブラックは素顔の“ローラーボールマーク・ロコ)で、一度参戦した後、新日本プロレスに転出、レギュラー外国人として何度も来日するようになった。いずれもイングランド北部の出身で、現地ではマンチェスターを拠点としていた。実はタイガーマスクvsブラック・タイガーの闘いが日本で展開される数年前、キッドとブラックは母国で激しい抗争を繰り広げていた。佐山聡タイガーマスクに変身する前にイギリスで『サミー・リー』として大ブームを巻き起こしていたが、キッドvsブラック、いやキッドvsロコという黄金カードがサミー・リー旋風に先駆け、人気を集めていたのである」と書いています。


また、著者は「キッドは2018年12月5日(享年60)、ロコは2020年7月31日(享年69)に永眠。タイガーマスク、ダイナマイト・キッド、ブラック・タイガーが日本で一同に揃う夢が実現することはなかった。かなったとしたら、当事者同士はもちろん、いったいどれだけのファンが喜んでくれただろう。だからこそ、昭和の新日本プロレス全盛時に空前のタイガーマスク・ブームを創り上げたこの3人のトライアングルについて、まとめてみたいと思った」と書いています。


第3章「ダイナマイト・キッドとブラック・タイガーの関係」では、阿修羅・原の対戦相手として国際プロレスがキッドに続いて招聘したのは、イギリス・マットでキッドの好敵手だった“ローラーボールマーク・ロコであったとして、著者は「キッドはミスター・ヒトを介してカルガリーから来日した。が、ロコは本人の話によるとカール・ゴッチのブッキング。その前には新日本プロレス参戦の話もあったというが、半ばゴッチの命令で父ジム・ハジーが参戦した国際プロレスを選んだのだという」と述べます。1979年9月、ロコは國際の「ダイナマイト・シリーズ」に参戦。キッドが原からベルト争奪に失敗したことを聞きつけ来襲というのが来日時の触れ込みでした。キッドと同様に、ロコもシリーズ途中からの「特別参加」でしたが、後に両者は主戦場を新日本プロレスに移し、タイガーマスクのライバルとなるのでした。


第7章「“爆弾小僧”と“黄金の虎”の再会」では、1988年末にWWFを離れ、全日本プロレスに主戦場を移したダイナマイト・キッドについて、著者は「当時のWWFは筋肉隆々のマッチョレスラー全盛時代。身体の小さいキッドはステロイド系の過剰摂取に加え、肉体のダメージから痛み止めを常に打つ状態でリングに上がっていた。身体を大きくするために薬物を使い、リングではじぶんよりずっと大きなレスラーに全身でぶつかっていく。これを毎晩繰り返し、さらに長距離の移動が肉体的にも精神的にも大きくのしかかった。カルガリーにいる家族にも会えない毎日が続く」と述べています。


続けて、ステロイドは精神にも害を与え、攻撃的な性格に変えてしまうことを指摘し、著者は「それゆえロッカールームでの悪ふざけにも拍車がかかった。過激なイタズラがレスラー仲間の怒りを買い、たびたび問題を起こすようになる。それでも、リング上での人気は絶大だった。とくに全日本では体格の近い相手、たとえばマレンコ・ブラザーズとは名勝負を作り出し、スタン・ハンセンやテリー・ゴディら自分たちより大きなレスラーへ果敢にぶつかっていく姿が共感を呼んだ。全身全霊のファイトは、まさしく日本人好みだった」と述べています。


ダイナマイト・キッドやブラック・タイガーと熱闘を繰り広げたタイガーマスクは1983年に電撃引退、佐山はタイガー・ジムをオープンし、理想の格闘技である「シューティング」の実現に向けて動き出します。その後、UWFを経て、シューティングを「修斗」として完成するも離脱。プロレス界に復帰しながら「掣圏道」(のちに「掣圏真陰流」と改称)、「須麻比」といった新しい格闘技や武道の創設に励んできました。佐山聡は間違いなく、日本の総合格闘技の発展に大きな役割を果たしましたが、現状を見ると、彼の理想が実現されているとは言い難いです。


では、佐山自身にとってタイガーマスクとしての2年4ヵ月は何だったのか。そして、ライバルたちとの闘いをどう振り返るのか。本書の第11章「初代タイガーマスクの復活ロード」の最後には、佐山の「ダイナマイト・キッド、ブラック・タイガー、さらに小林邦昭もいますし、ライバルがいてこそ、やはりタイガーマスクが光っていたと思います。彼らが思う存分に僕を動かしてくれたのかなと。縛りつけられないで、自由にできた。その点は幸せだったなと思います。タイガーマスクとは、新日本が作り出したプロレスの結晶だと思うんですね。それを思う存分に活かしてくれたのがライバルたちだと思います。そのライバルたちと思う存分、自由に闘えたから、ああいう試合ができたんですね。切っても切れない人たち、ライバルたちがボクを思いっ切り動かしてくれました」と語っています。


最後に、本書にはダイナマイト・キッド、マーク・ロコの晩年の様子も詳しく紹介されています。佐山が、キッドが60歳の若さでこの世を去る直前に見舞いに訪れ、2人が涙ながらに再会を喜び合うシーンは感動的です。著者はキッド、ロコの両者の葬儀に参列しており、そのレポートはイギリスの葬儀の実情として興味深く読みました。佐山聡は健在ですが、狭心症で生死を彷徨いました。いずれも「つわものどもが夢の跡」といった印象ですが、どうか初代タイガーマスクとして多くのプロレスファンに夢を与え、スーパー・タイガーとして日本の総合格闘技の礎を築いた佐山聡氏にはいつまで元気でいていただきたいです。

 

 

2021年8月31日 一条真也

「毎日新聞」に『心ゆたかな読書』が紹介されました

一条真也です。
毎日新聞」2021年8月28日朝刊に拙著『心ゆたかな読書』(現代書林)の紹介記事が掲載されました。表紙の写真には、「佐久間さんの新著。まえがきには『よい本は心のごちそうです』『どんどん本を読んで、心を太らせてみませんか?』とある」と書かれています。

f:id:shins2m:20210830102838j:plain毎日新聞」2021年8月28日朝刊 

 

「『心ゆたかな読書』出版 サンレー社長 佐久間さん 書評コラムを1冊に」の見出しで、こう書かれています。
「読書家として知られ一条真也ペンネームで活躍する冠婚葬祭業サンレー小倉北区)社長、佐久間庸和さん(58)=写真=が、新著『心ゆたかな読書』(現代書林)を出版した。北九州都市圏などで発行する情報誌『サンデー新聞』に13年間にわたって連載した書評コラムをまとめた。孔子の教えを記した『論語』から、アニメや映画が大ヒットした『鬼滅の刃』まで計150編。ビジネス書や歴史書哲学書、児童書、小説とジャンルは幅広い。宮沢賢治銀河鉄道の夜』を、主人公が『ほんとうの幸福』に気付くまでの臨死体験の物語と紹介するなど、グリーフケア(悲嘆からの回復)をライフワークとする佐久間さんならではの視点が随所に見られる。読書の秋を前に格好のブックガイド。六四判315ページ、1760円。ブックセンタークエスト小倉本店やネット書店などで販売中」

 

 

2021年8月30日 一条真也

『証言 初代タイガーマスク』

証言 初代タイガーマスク 40年目の真実

 

一条真也です。
『証言 初代タイガーマスク 40年目の真実』佐山聡+髙田延彦+藤原喜明グラン浜田ほか著(宝島社)を読みました。宝島社の昭和プロレス証言シリーズ最新刊ですが、本書の約3ヵ月前に刊行された『“黄金の虎”と“爆弾小僧”と“暗闇の虎”』新井宏著(辰巳出版)の内容と重なる部分が多く、目新しい情報は少なかったです。

f:id:shins2m:20210719110911j:plain
本書の帯

 

カバー表紙には、ブラックタイガーにローリング・ソバットを決めている初代タイガーマスクの写真が使われ、帯には「佐山聡が語り尽くす虎の仮面に秘した理想と葛藤と秘密」「最後の告白!」「M・コステロ戦」「ショウジ・コンチャ」「新日本クーデター事件」「A・猪木監禁事件」「電撃引退の真相」「梶原一騎前田日明」「虎の素顔を知る8人が明かす『熱狂の裏側』」と書かれています。

f:id:shins2m:20210719110930j:plain
本書の帯の裏

 

帯の裏には、「『お前を格闘技第1号の選手にする』――アントニオ猪木との約束を胸に1981年4月、23歳の青年は虎の仮面を被った。新日本のため、猪木のために、四次元プロレスという名の『ストロングスタイル』を貫き、青年は国民的スターとなった。彼が多くの人々を魅了できたのは、華麗な空中殺法があったからでも、人気漫画の主人公だったからでもない。佐山聡が『本物』だったからだ――」と書かれています。さらにカバー前そでには、「初代タイガーマスク新日本プロレスの叡智、猪木イズムの結晶」とあります。

 

「はじめに」ターザン山本
初代タイガーマスク
佐山聡

タイガーマスクがプロレス界をダメにすると思って、やめました
証言 髙田延彦
プロレスラーとしての土台をつくった佐山からの“金言”
証言 藤原喜明
俺と佐山の試合が輝いたのは本物の“美しいアート”だったから
証言 新間寿
問題の元凶が猪木さんだとしても、猪木さんを悪者にはできない
証言 グラン浜田
佐山は最初、“島流し”でメキシコに送られてきたという感じだった
証言 藤波辰爾
タイガーマスクに“食われてしまった”ヘビー級転向当初の藤波
証言 山崎一夫
佐山さんは、前田さん、髙田さんとは“志”が近いと思っていた
証言 藤原敏男
街中でキレてるのを何回も見てるけど、警察官が10人いても敵わない
証言 佐山聖斗
初代タイガーマスク1957―2021完全詳細年表」


「はじめに」で、ターザン山本はこう述べています。
「ダイナマイト・キッドとのデビュー戦。あの試合の衝撃は一言でいえる。それは、リングに“モダニズム”を持ち込んだことだ。新日本プロレスが“ストロングスタイル”という思想性をアピールしていた時、現代風、新感覚主義のプロレスを形として、フォルムとして表現してみせた。この佐山聡モダニズムはその後、プロレスラーを目指す少年たちに絶大な影響を与えた。従来の伝統的プロレス観、価値観を一掃してみせた。理屈よりも形としての美を優先させる。佐山の本能がそうさせたのだ。彼は小さな、偉大な革命児である。猪木イズムが生んだ突然変異ともいえる」


初代タイガーマスク 佐山聡」の「闘いに命を張っていたダイナマイト・キッド」では、デビュー戦では粗末なマスクを失笑されながらもタイガーマスクとして闘い続けた佐山が、「タイガーマスクが嫌だったわけじゃないんです。ダイナマイト(・キッド)との試合なんかは、彼の圧力がとにかくすごかったから、僕も毎回必死で闘っていましたからね。僕はダイナマイトと闘いながら、『こいつは命張ってな』と感じる瞬間が何度もありました。常に捨身というか、『レスラー生命が長くなくても構わない』という覚悟が伝わってくるんですよ。たとえば、彼の得意技ダイビング・ヘッドバッドだって、あそこまで遠くに飛ぶ必要はないんです。あんな飛距離で飛んだら、確実に自分のヒザにもダメージを負う。でも、観客を沸かせるためならそこまでやるのが、彼でしたね」と語っています。


また、佐山はキッドについて、「やられっぷりもすごいですし、攻撃もひとつひとつのパンチ、キックがすごいですよね。長州さんもひとつひとつのキックやストンピングがすごいんですけど、それに通じるところがありますね。だからダイナマイトとの試合は一瞬でも気を抜いたら終わりなんです。そういう緊張感が常にありました。ただ、その緊張感が心地よかったんですよ。誰とどんな試合をしたかって意外と憶えていないものなんですけど、僕もタイガーマスクとしてのデビュー戦と、マディソン・スクエア・ガーデンでやった、ダイナマイトとの2試合だけは、脳裏に浮かんできますからね」と語ります。


ストロングスタイルの空洞化」では、タイガーマスクの日本人の宿敵であった小林邦昭との戦いを振り返りながら、佐山は「僕らが若手時代、猪木さんがよく『どんなに素晴らしい試合よりも、街のケンカのほうがおもしろい』って言ってたんですよ。要は感情剥き出しのケンカこそが、人の目を惹きつけるっていうことですよね。それで僕と小林さんは若手時代、お互いライバル心があったから、本当にケンカに見えるような気迫剥き出しの試合をしていたんですけど、タイガーマスクになってからも、その気迫を出しながら、ストロングスタイルの試合ができたんですよね。それは小林さんに対するリスペクトがあるからですよね」と語るのでした。


「証言 髙田延彦」の「強くなるための練習をおろそかにするなよ」では、新日本プロレスと第1次UWFで佐山の後輩だった髙田が、「本人は憶えていないだろうけどさ、ある日、佐山さんがボソっと『お前が今やってるスパーリングは、試合より大事なんだよ。絶対に続けろよ』って。その時は真意がわからず『なんで?』ってスーっと消えたのよ。しばらく経ってからだね。理解できたのは。それはもちろん試合を軽視するということではなく、日々の苦しいスパーリングこそが己のペースを作り上げるということだと、俺は捉えたんだよ。佐山さんと言葉を交わした回数なんて、少ないはずなんだけど、そのひと言は俺の記憶に残っている。山本小鉄さんに繰り返し言われた『プロレスラーは絶対になめられちゃいけないんだ』という言葉ともリンクするし、自分が目指すプロレスラー像をつくるうえで、重要なヒントを与えてくれた」と語っています。


「証言 藤原喜明」の「佐山より美しい技を出すヤツはいない」では、“関節技の鬼”と呼ばれる藤原が、「『関節技は地味だ』なんて言うヤツがいるけど、俺はまったくそんなふうには思わないんだ。関節技は面白いし、美しいアートだよ。UWFで、俺と佐山(スーパー・タイガー)の試合があれだけ沸いたのは、それが観客にも伝わったから。見よう見まねのニセモノじゃ、こうはならない。これはプロレスにかぎらず、どんなスポーツでもそう。本物は美しいんだよ。柔道の一本背負いが決まったら、美しいだろ。レスリングのタックルだって美しいし、ボクシングのカウンターの一発だって美しい。剣道の一本だって、野球のホームランだってそう。本物は、素人が見たって『美しい』と感じるから、みんな魅了されるんだよ。だから佐山のタイガーマスクがあれだけ人気が出たっていうのも、簡単に言えば、本物だったということだ。今は蹴りにしても、飛び技にしても使うヤツはいっぱいいるけど、佐山より美しく技を出すヤツはいないだろう。佐山のタイガーマスクは、本物だったからこそ美しい、美しいからあれだけみんなが魅了されたんだよ」と語っています。


「証言 藤波辰爾」の「基本はストロングスタイル」では、タイガーマスク以前にジュニアヘビー級のブームを日本に巻き起こした藤波が、「今の選手の動きの速さと、佐山の動きの速さのいちばんの違いは、佐山の場合、すべて理にかなった動きなんですよ。闘いに必要のない動きはしない。それと彼は他の格闘技の技術を採り入れたり、すごく研究熱心。マーシャルアーツやキックボクシングの技術も身につけたり、彼の動きは“本物”なんですよ。それでいて加齢だから、漫画のイメージを損なわず、それ以上の驚きをお客さんに提供していた。だからこそ、あれだけ多くの人から支持を集めたんだろうし、我々レスラーでも、タイガーマスクの試合を見ていると、リングの闘いに引き込まれてしまうぐらいだったからね。それこそが、猪木さんがよく言っていた『プロレスは闘いなんだ』ということ。たしかに、今のプロレスは技術が進歩しているし、技も高度になっている。でも、“闘い”を失ってしまったらダメ。タイガーマスクの試合がいま見ても面白いのは、空中殺法がすごいだけじゃない。しっかりとした“闘い”を見せていたから。そういう意味でタイガーマスクの試合は、猪木さんの試合とは少し違うけど、新日本のストロングスタイルを体現していたと思いますよ」と語っています。


「証言 藤原敏男」の「佐山はキレたら怖い」では、日本キック史上最強とも言われている藤原が、「佐山の場合、目白ジムで身につけた蹴りと、プロレスの試合で使う蹴りをしっかり使い分けてるんだよ。相手にダメージを与える時はスネで蹴るんだけど、プロレスの試合では、当たった時に相手にダメージを与えないように足の甲で蹴っている。足の甲で蹴ると、バシーンっておとはすごいから、観客は強烈な蹴りだと思うんだけど、佐山は蹴りの力を逃がしてるんだよね。その辺がうまいなあと思ったな。で、相手が反則技や変なことをやってきた時は、プロレスの試合でもキックボクシングの蹴りでボーンとやるからね。あれは観ててわかるよ。『あっ、頭を蹴った。あれは本気でやってるな』って。(笑)誰との試合だったかな、相手の顔面をおもいっきり蹴っ飛ばしててさ。『あれ、キレてるな。完全におもいっきりやってるな』って思ったことがあった。佐山はキレたら怖いから。俺は街中でキレてるのを何回も見てるけど、あんなの警察官が10人いても敵わないよ(笑)」と語るのでした。


本書を読むと、カバー前そでにある「初代タイガーマスク新日本プロレスの叡智、猪木イズムの結晶」という言葉の意味がよくわかります。見せるプロレスの頂点をきわめた初代タイガーマスクの根本には、猪木が追求してきたストロング・スタイルがあったのです。それにしても、タイガーマスクがあのまま引退せずに新日マットに残っていたら、プロレス界はどうなっていたでしょうか? 当然、UWFは存在せず、後の修斗も生まれなかったでしょう。ということは総合格闘技そのものが日本に根付かず、PRIDEもRIZINも生まれなかったかもしれません。歴史に「if」は禁物ですが、猪木が言う「佐山は惜しい存在」という言葉の意味も少しわかるような気がします。

 

 

2021年8月30日 一条真也

「鳩の撃退法」 

一条真也です。
28日、前日公開の日本映画「鳩の撃退法」をシネプレックス小倉で観ました。10館あるシネコンのうち3番目に大きなシアターでしたが、かなり観客が入っていました。ブログ「オールド」で紹介した前夜鑑賞の映画は結末がビミョーでしたが、この「鳩の撃退法」も同じくビミョーでした。正直、あまり面白いとは思いませんでしたね。


ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『ジャンプ』などの原作で知られる直木賞作家・佐藤正午のベストセラー小説を映画化。直木賞受賞作家が執筆する新作小説をめぐり、虚構と現実、過去と現在が複雑に交錯していく。『ホテル ビーナス』などのタカハタ秀太が監督を務め、『見えない目撃者』などの藤井清美と共に脚本を担当。主人公の謎めいた作家を『太陽は動かない』シリーズなどの藤原竜也、彼に翻弄される編集者を『哀愁しんでれら』などの土屋太鳳が演じるほか、風間俊介西野七瀬豊川悦司らが共演する」

f:id:shins2m:20210610194617j:plain

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
直木賞受賞経験のある作家・津田伸一(藤原竜也)は、担当編集者の鳥飼なほみ(土屋太鳳)に執筆途中の新作小説を読ませていた。津田の体験を基にしたという新作に魅了される鳥飼だったが、大量の偽札や一家失踪事件、裏社会のドンといった話を聞くうちに、それが小説の中だけの話とは思えず困惑する。鳥飼は津田の話を頼りに、その新作が本当にフィクションなのか検証していく」

 

 

佐藤正午氏の小説といえば、ブログ『月の満ち欠け』で紹介した第157回直木賞受賞作があります。「生まれ変わり」というオカルト的に受け取られがちなスピリチュアルなテーマをガチンコで描いた小説ですが、冒頭部分から著者の筆力を感じました。この映画の原作である『鳩の撃退法』は未読です。夢枕獏京極夏彦奥泉光筒井康隆といった錚々たる選考委員たちから圧倒的な評価を受けた、第6回山田風太郎賞受賞作とのことなので、きっと傑作なのでしょう。でも、小説では傑作でも映画化は駄作だったというのは珍しいことではありません。


映画「鳩の撃退法」に関しては、何度も予告編を観ていましたので、創作と現実の境界があいまいな世界を描いた物語だと知っていました。わたしはブログ「キャラクター」で紹介した日本映画を思い浮かべていたのですが、ちょっと違いました。映画としては、「キャラクター」の方がずっと面白かったです。映画のオープニングロゴの直後に「dentsu」というクレジットがスクリーンに映りましたが、電通の製作だったのですね。同社が手掛けた東京五輪の開閉会式の完成度の低さに比べればまだましですが、原作小説が圧倒的な支持を受けているとするなら、その映画化のクオリティは高いとは言えないでしょう。


主演の藤原竜也はわたしのお気に入りの俳優ですが、なにしろ映画そのもののクオリティが高くないので、演技派の彼を使うには惜しいように思えました。編集者役の土屋太鳳、BARのマスター役の風間俊介、理髪店主役のリリー・フランキー、裏社会のドン役の豊川悦司も、みんな良い味を出していました。あと、カフェのウェイトレスを演じた西野七瀬は店での制服姿はあまり可愛くないのですが、私服姿は可愛かったです。わたしは彼女がわりと好きなのですが、その使い方も中途半端のように感じました。


細かいストーリーについて書くとネタバレになってしまいますが、スレスレの線で言うなら、この物語では偽札が重要な役割を果たします。1万円札の偽札が3枚あるのですが、その3万円分の偽札を誰が持っていて、誰に渡して、誰がどこで使って・・・・・・というふうに偽札の流通ルートを辿る行為が、新型コロナウイルスの感染経路を後追いしているような気分になりました。あと、この映画の舞台が北陸(おそらく富山)で、金沢でおなじみの「8番らーめん」などの地元店がよく登場するところが個人的には興味深かったです。最後に、原作を読めばわかるのかもしれませんが、映画を観ただけではタイトルの「鳩の撃退法」の意味がイマイチよくわかりませんでした。

 

2021年8月29日 一条真也

「オールド」 

一条真也です。
27日から公開されたホラー映画「オールド」をシネプレックス小倉のレイトショーで観ました。M・ナイト・シャマラン監督の最新作ですが、彼の映画は当たり外れが大きいことで知られています。彼自身は、「ホラーは作っていない。ダークな映画だ。ホラーには物語の行き着く先がある。だが私の映画は観客を日常の向こう側へと誘う」と語っています。正直言って、この映画はこれまでのシャマラン作品のように展開が速くてハラハラドキドキするのですが、これまたいつものようにオチがビミョーでしたね。


ヤフー映画の「解説」には、「『シックス・センス』『スプリット』などのM・ナイト・シャマラン監督によるサバイバルスリラー。バカンスで秘境のビーチを訪れた一家が、異常な速さで時間が進む奇妙な現象に見舞われる。謎めいたビーチから脱出すべく奮闘する一家の父を『モーターサイクル・ダイアリーズ』などのガエル・ガルシア・ベルナルが演じ、『ファントム・スレッド』などのヴィッキー・クリープス、『ライ麦畑で出会ったら』などのアレックス・ウルフのほか、トーマシン・マッケンジー、エリザ・スカンレンらが共演する」と書かれています。

f:id:shins2m:20210821004439j:plain

 

ヤフー映画の「解説」は、以下の通りです。
「バカンスを過ごすため美しいビーチを訪れ、それぞれに楽しいひと時を過ごすキャパ一家。そのうち息子のトレントの姿が見えなくなり、捜してみると彼は6歳の子供から青年(アレックス・ウルフ)へと成長した姿で現れ、11歳の娘マドックスも大人の女性(トーマシン・マッケンジー)に変貌していた。不可解な事態に困惑する一家は、それぞれが急速に年老いていることに気付く。しかしビーチから逃げようとすると意識を失なってしまい、彼らは謎めいた空間から脱出できなくなる」


夫婦と2人の子どもたちの4人家族がバカンスで訪れたリゾート地。ホテルに到着すると、支配人が笑顔で「ようこそ、楽園へ!」と迎え、特製のウェルカムドリンクが差し出される・・・・・・極上の時間の始まりです。現在は世界的なコロナ禍でリゾート地でのバカンスを過ごせる人も少ないでしょうが、この映画のオープニングを観て、わたしは、かつて家族でハワイや沖縄のリゾートホテルを訪れたときのことを思い出しました。そのときはビーチでも遊びました。今から振り返っても、最高に幸せな思い出の1つと言えるでしょう。


リゾート地のプライベート・ビーチとは、まさに「この世の楽園」です。でも、じつは死と隣り合った空間でもあります。なぜなら、ビーチの眼前に広がる海はいつでも人間の生命を絶つことができる力を持っているからです。断崖もまた死に近い場所です。頂上から、あるいは登っている途中に落ちれば、いとも簡単に生を終えることができるからです。海と断崖という2つの「死に近い場所」に挟まれたビーチで、映画「オールド」の登場人物たちは狂った時間の中に放り込まれます。そこでは信じられない出来事が次から次に起こるのでした。


「オールド」は不条理なホラー映画でありながら、スリリングなサバイバル・サスペンス映画でもあります。ビーチつながりということで、わたしはアレックス・ガーランドの小説の映画化である「ザ・ビーチ」(2000年)を連想しました。映画史に燦然と輝く「タイタニック」(1997年)で一世を風靡したレオナルド・ディカプリオが、100本以上のオファーを蹴ってまで、次回の主演作に決めた異色作です。バンコクを旅するリチャード(ディカプリオ)は、安宿でダフィと名乗る奇妙な男から"伝説のビーチ"の話を耳にします。そこは美しすぎるほどに美しく、全ての日常から解放される夢の楽園といいます。その翌日、1枚の地図を残しつつダフィは変死。リチャードは地図のコピーを手にし"伝説のビーチ"を目指しますが、それは狂気に満ちた世界のはじまりでした。


「オールド」はM・ナイト・シャマラン監督の最新作です。もともと、わたしはシャマランの「シックス・センス」(1999年)が大好きで、映画館での鑑賞のみならず、DVDでも何度も観ました。ブルース・ウィリス演じる精神科医のマルコムは、かつて担当していた患者の凶弾に倒れます。リハビリを果たした彼は、複雑な症状を抱えたコールという少年の治療に取り掛かるのですが、コールには死者を見る能力としての「シックス・センス(第六感)が備わっているのでした。マルコムはコールを治療しながら、自身の心も癒されていくのを感じますが、最後には予想もつかない真実が待ち受けていました。サスペンス・スリラー映画の最高傑作であるのみならず、コールの死者への接し方にはオカルトを超えた仏教的な世界観さえ感じました。この映画を観たとき、わたしは「シャマランは天才だ!」と思いました。


シャマランが脚本・監督を務めた「シックス・センス」が商業的にも大成功で、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされました。その後、「アンブレイカブル」(2000年)、「サイン」(2002年)も興行的には成功し、「シックス・センス」ほどではないにしろ、それなりに面白かったです。しかし、「ヴィレッジ」(2004年)あたりから様子がおかしくなってきて、「レディ・イン・ザ・ウォーター」(2006年)では最悪の事態が待っていました。この映画は興行的にも大失敗で、製作費も回収できませんでした。また評論家にも酷評され、さらにシャマランは第27回ゴールデンラズベリー賞で最低監督賞と最低助演男優賞を受賞したのです。


「ハプニング」(2008年)は興行的に成功しましたが、批評家には不評。続く「エアベンダー」(2010年)では、シャマランはこれまでのオリジナル脚本ではなく脚色を担当しました。その結果、興行収入は全世界で3億ドルを超えましたが、批評家支持率は過去最低の6%を記録し、第31回ゴールデンラズベリー賞では最低作品賞、最低監督賞、最低脚本賞を含む5部門を受賞しています。そして、ジェイデン・スミスとウィル・スミス主演の「アフター・アース」(2013年)では初めてデジタルでの映画撮影を行いました。人類が放棄して1000年が経過した地球を舞台に、屈強な兵士とその息子が決死のサバイバルを展開する物語です。さらに「ヴィジット」(2016年)を発表します。休暇を利用して祖父母の待つペンシルバニア州メイソンビルへと出発した姉弟の恐怖体験を描きました。ホラー映画として、なかなか好評でした。しかし、ブログ「スプリット」で紹介した2017年の映画はどうしようもない駄作でしたね。


わたしはシャマランの映画をほとんど観ていますが、毎回、奇妙な出来事がノンストップで起きて、最後はその謎が解き明かされるのですが、「?」というオチが少なくありません。彼の作品には、必ず「どんでん返し」が用意されています。「シックス・センス」のときはそれが大成功し、映画史に残る印象的なラストシーンが生まれました。しかし、その後のシャマランは「シックス・センス」の成功体験の呪縛にかかったようで、どうも「ドンデン返しを用意しなければ!」という強迫観念にとらわれているような気がします。それがまた、スベることが多いのです。「サイン」や「ヴィレッジ」のどんでん返しも賛否両論でしたが、わたしにはギリギリ許せるレベルでした。しかし、「スプリット」のドンデン返しはいただけません。「それが、どうした?」という感じで白けきってしまい、まったく驚きもしませんでしたね。



そして、「オールド」です。この映画にもシャマラン流のドンデン返しが用意されています。正直言って、「スプリット」に比べればまだマシかもしれませんが、「なるほど、そうだったのか!」と納得できるようなラストとは言い難かったです。ネタバレにならないように注意しながら書くと、この映画でリゾートホテルの客室にチェックインしたとき、ガエル・ガルシア演じる一家の父親が、そのホテルを所有しているのが某製薬会社であることに気づくシーンがあります。その後の一連の奇妙な出来事はそのことと深く関わっていたのです。製薬会社といえば、コロナ禍の現在、ワクチンを製造しているモデルナやファイザーアストラゼネカといった製薬会社の名前を聞かない日がありませんが、それらの会社が邪悪な陰謀に関わっていたとしたら、これほど怖いことはありませんね。


最後に、この映画を観ていて、非常に印象的だったシーンがありました。映画の舞台となった人智を超えた不思議なビーチでは、30分が1年に相当します。6歳だった少女はどんどん成長して大人の女性になっていくのですが、「私、まだプロムも経験していないのに・・・」とつぶやくのです。プロムとは、「プロムナード」の略称です。アメリカの高校生活における最大のイベントで、卒業を目前にした高校生のために開かれるダンスパーティーで、ハリウッド映画や海外ドラマではおなじみですね。少女はこのプロムに参加もしていないのに、どんどん加齢していく我が身を嘆いたのです。このシーンを観たわたしは、心に衝撃を受けました。そして、現在のコロナ禍の日本における子どもたちや若者たちのことを考えてしまいました。

儀式論』(弘文堂)

 

たとえば小学生ならば、新型コロナウイルスの感染拡大による休校や緊急事態宣言によって運動会もできません。中学や高校に入学しても、入学式もない、文化祭も体育祭もない、修学旅行もない、そして卒業式もない。大学に入学しても入学式も新歓コンパもない・・・・・・これは映画の中のフィクションではなく、いま現実の話です。拙著『儀式論』(弘文堂)では、社会学者エミール・デュルケムの「さまざまな時限を区分して、初めて時間なるものを考察してみることができる」という言葉にならって、わたしは「儀式を行うことによって、人間は初めて人生を認識できる」と述べました。儀式とは世界における時間の初期設定であり、時間を区切ることです。それは時間を肯定することであり、ひいては人生を肯定することなのです。さまざまな儀式がなければ、人間は時間も人生も認識することはできません。まさに「儀式なくして人生なし」です。あらゆるセレモニーが行われないまま、子どもたちが大人になること・・・・・・これこそが最大の不条理であり、恐怖であり、ホラーそのものではないかと思いました。

 

2021年8月28日 一条真也

『日本人はもっと幸せになっていいはずだ』

日本人はもっと幸せになっていいはずだ

 

一条真也です。
『日本人はもっと幸せになっていいはずだ』前田日明著(サイゾー)を紹介いたします。プロレスおよび格闘技の世界におけるレジェンドが日本人の怒りを的確に代弁した問題提起の書であり、一刻も早く日本国民が自国防衛に立ち上がるための熱き啓蒙の書です。


著者は、1959年大阪府生まれ。幼少期より、少林寺拳法や空手を習いました。1977年に新日本プロレスに入団。その体格と格闘センスの高さから将来を嘱望され、移籍した第一次UWFに至るまであらゆるリングで伝説の戦いを繰り広げました。新日本プロレスに復帰後はアンドレ・ザ・ジャイアントらと名勝負を行い、「新格闘王」と呼ばれました。第二次UWFを旗揚げすると、社化現象とまで言われるほどのムーブメントを巻き起こしました。UWF解散後は総合格闘技団体RINGSを創設し、総合格闘技ブームを牽引。引退後はHERO’Sスーパーバイザーを務め、現在はThe Outsiderをプロデュース。読書家、刀剣鑑定家、骨董収集家としての側面も持つ。

f:id:shins2m:20210621163618j:plain
本書の帯

 

カバー表紙には著者が愛用の葉巻に火をつける写真が使われ、帯には「慟哭!前田日明」「南海トラフ地震対策もせず、国土も守らず、自衛隊員も見殺し」「どこまで国民を軽視するのか!」「日本が憎くて言ってるわけではない。今の日本は国と国民の思いが大きくズレているように思えるのだ」と書かれています。

f:id:shins2m:20210621163642j:plain
本書の帯の裏

 

帯の裏には、「はじめに」の文が引用されています。
「日本に生まれてすでに60年以上が過ぎた。日本と日本人について、ことさら考えなければならない環境の中で生きてきた年月だった。日本人であることが当たり前ではなかったからこそ、日本についてずっと考えてきた、ということだ。前田日明・日本人。一朝有事の際には躊躇なく銃を手にして、この国のために戦うだろう。しかし、この国はどうだろうか? 願わくば、日本人一人ひとりの思いに応えてくれる国になってほしい」

 

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
第1部 日本へ
第1章 自虐史観

第2章 国を守る
第3章 日本の法律が日本を守っていない
第4章 日本国は日本人の資産を守らない
第5章 不甲斐ない日本のリーダーたち
第6章 日本人はもっと幸せになっていい
第2部 対談編
京都大学大学院教授・藤井聡vs前田日明

『正論』元編集長・上島嘉郎vs前田日明
安倍晋三 アメリカ議会演説「希望の同名」全文】
平成27年4月29日、米連邦議会上下両院合同会議にて
「おわりに」


「はじめに」の冒頭を、著者は「なぜ、プロレスラーの前田日明が日本ついての本を書こうしているのか? たぶん、多くの人が疑問に思っているんじゃないかと思う。答えは簡単で日本に対して憤っていることがあるからだ。日本という国の考え方、やり方に怒りを抑えることができない。例えば、地震対策についてだ。南海トラフ地震は2000年代の最初の時点で30年の間に70%の確率で起こると言われていた。しかし、日本政府はいまだにしっかりした対策をとっていない。それどころか、地震対策予算、国土強靭化予算を削ってすらいる」と書きだしています。


第1部「日本へ」の第1章「自虐史観」の「国民は虫けら」では、著者は以下のように述べています。
「知っている人は知っていると思うが、靖国神社には多くの花嫁人形がある。『特攻で散っていった自分の息子は嫁もおらんと童貞のまま死んでいって可哀想だ。せめてあの世できれいなお嫁さんと結ばれてほしい』といって親たちが奉納したものだ。それが何百体もある。そうやって親たちはみんな息子の死を無理やり納得していたのだ。祖国のために死んだのだから、と。ところが、その祖国は国民のことなど虫けら扱いだった。だから、人々は怒ったのだ。『国のために戦った父や兄や弟になんてことをしてくれたんだ』『こんな日本なんて早く潰れたらいい』自虐史観はここから始まった。その根本には日本が国民に対してあまりにもひどいことをしていた事実があり、日本人が日本を恨む土壌があったからだ。左翼や共産主義はその土壌に乗っかったのだ」


また、「日本人は誰も責任を取らない」では、著者は敬愛するゼロ戦パイロットの故坂井三郎の言葉を紹介しながら、「こんなことを言うのは畏れ多いけれども、天皇陛下も一回、国民に謝罪すればよかったと思う。『稚拙な軍略で死なせてしまった』と謝れば日本も変わったかもしれない。坂井さんはこんなことも言っていた。『前田くん、日本人はよく、戦前は良かったっていうけれど、実際の日本人は戦前も戦後もなにも変わっていないよ。なにが変わらなかったかわかるか? 日本人は誰も責任を取らない。それが日本人の最大の欠点だ』俺は坂井さんに『天皇陛下玉音放送を聞いてどう思いましたか?』と聞いたことがある。そしたら『死んでいった人間が可哀想だ』と、そればっかりだった」と述べています。


「戦争と反省」では、著者は「最低限、国としてやるべきことがある。それが戦没者の遺骨の収集だ」と喝破し、「大東亜戦争で戦死された英霊の方々は約310万柱。そのうち海外戦没者が240万柱と言われているが、2020年の時点で約112万柱の遺骨が未収容のままになっている。このうち海外遺骨が約30万はしら、相手国の事情により収容が困難な遺骨が23万柱、収容可能な遺骨は59万柱という数字が厚生労働省のホームページに出ている。最終的にはすべての遺骨を収容するのは言うまでもないが、収容可能だとわかっている50万はしらの英霊をいつまで放っておくつもりなのか」と述べます。


すでに75年が経っています。戦没者はいまでも戦地だった中国、ロシア、東南アジア、南方諸島などに眠ったままなのだとして、著者は「祖国のために散っていった彼ら英霊たちを“帰国”させるのは国としての急務じゃないのか? ところが、日本政府は、遺骨の収集にまったく積極的ではない。発見された遺骨の7割以上は帰国した兵士や引揚者が持ち帰ったものや、遺族や民間団体が手弁当で発掘したものなのだ。国の事業による収容は34万人分しかないという」と述べます。


2016年3月、議員立法で「戦没者遺骨収集推進法」が成立しました。ここで初めて遺骨収集は「国の責務」ということが決まったわけですが、著者は「国の責務と決まる? 遺骨収集は最初から国の責務じゃないのか? それでは聞くがそれまでの遺骨収集事業はなんだったのか? 国が好意で探してあげているボランティアという位置づけだったとでもいうつもりなのか。祖国のために死んだ人たちの遺骨を探すのはどこの国でも、国の責務なのに、この国ではお手伝いをしている感覚だったのだ。だから、遺族たちが手弁当で探すしかなかったし、遅々として進まなかったのだ。『戦没者遺骨収集推進法』ができて以降は遺骨収集関連全体で17億円、2019年には23億円、2020年には29億円とやっと多少まともな予算がつくようになったが、本来これでは全然足りない」と述べます。


第6章「日本人はもっと幸せになっていい」の「日本人の和を尊ぶ心を利用する、この国のトップたち」では、日本人の頭の中には自分だけが贅沢したいとか、自分さえ良ければいいという感覚はとても少ないと指摘し、著者は「コロナ禍の現在も積極的にマスクを付けているが、このマスクにどれほどの効力があるのか疑問だし、はっきり言えば、効果がないという科学的検証は何度も出ている。しかし、日本人はマスクを付けることを痛がらない。その理由は自分の煩わしさよりも他人に嫌な思いをさせたくないという気持ちがあるからだ。この共同体の意識が和の心であり、これこそが日本人の強さであり、拠り所だ。しかし、日本のトップたちはそれを利用している。和の心を利用して、政治家たちは自分たちの利権につなげている。コロナ対策のマスクに260億円もかけるなど、愚の骨頂としか思えない」と述べます。


また、著者は「政治家や官僚たちにとって260億などどうせハシタ金なのだろう。だけど、それだけの金を上手に使えば、日本人の暮らしはもっとよくなる。若い者たちの奨学金ぐらい、その金で肩代わりしてやれるだろう。少なくとも基金にして上手に運用すれば絶対に可能なはずだ。心の底から思う。日本人はもっと幸せになっていい。最低限、自分が働いて勝ち取った地位にふさわしい社会サービスというものを受けられるようにしなければならない。そういう日本でなければ絶対にいけないと、いま強く思っている」とも述べるのでした。


第2部「対談編」では、地震の専門家である京都大学大学院教授で元内閣官房参与藤井聡氏との対談「30メートル超の津波が到来!? 南海トラフ亡国対談」の中で、著者は「自分がなんでこんなに南海トラフを心配しているのかというと、子供たちがいるからですよ。自分、歳いってから子供ができたんで、彼らが30代、40代になったら間違いなく生きていないんですね。彼らが結婚する頃でヘタしたら90歳前後になっちゃうんで、それを考えた時にこのまま日本はどうなっていくんだろうか。その間に南海トラフが起きてどうしようもない国になって、そんな中で食うや食わずに苦労してっていう人生じゃ可哀想ですよ。だから、自分がまだ元気なうちにできる限り、いい日本にしていきたいんです」と述べています。この著者のストレートな本音は、読んでいて心に響きますね。


続いて、ジャーナリストで元「正論」(産経新聞社)編集長の上島嘉郎氏との対談「なぜ日本には反日メディアが蔓延るのか?」の中で、著者は「自分が思うのは、いまからでもいいから日本政府は国民に謝罪するべきだったんじゃないかということです。理想を言えば、天皇陛下が『すまなかった』と謝ってくれたら救われた気がします。いろいろお立場もあったと思いますが、そうしてもらえたら、もっと日本人は一丸となれたかもしれない。ただ、勘違いしてほしくないのは、自分は天皇陛下を批判する気はないんですよ。逆に、誰がなんと言おうと皇室を守ります。命を懸けて守りますね。その理由はいまの上皇陛下が『私たちの先祖には百済の王がいます』と語ってくれたからです」


その著者の発言に対して、上島氏は「平成13年12月18日、『天皇陛下お誕生日に際し』の記者会見ですね。『韓国に対してどう思うか』という質問に、陛下は、日本と韓国との人々の間には、古くから交流があり、様々な文化や技術が伝えられたと述べられ、『私自身としては、桓武天皇の生母が百済武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに、韓国とのつかりを感じています』とのお答えになった」と述べます。それを受けて、さらに著者は「そのお言葉は自分の中で凄く感じるものがあるんですよ。ただし、その言葉尻を捉えて、『ほら見ろ、皇室は半島から来たんだ』どうのこうのと変な方向につなげていくヤツらとは一緒にしてほしくないですけどね。そうじゃなくて、アジアというものの捉え方の話でしょ」と述べるのでした。上島氏も指摘していますが、著者が意識する「アジア的な一体感」こそ、日本を占領した当時のアメリカにとって不都合だったのです。


本書を読んで、わたしは著者の日本を憂う真心に強い感銘を受けました。在日二世であることをカミングアウトしている著者ですが、天皇陛下への想いを含めて、ここまで日本を愛し、日本の未来を心配している人は少ないと思います。また、気ままな放談などではなく、日々多くの本を読んでいる読書家の著者だからこその骨太の思想が、わたしのハートにヒットしました。ただ本書は紛れもない名著ですが、編集のスタイルにはいくつか疑問が残りました。もっとしっかり編集されていれば、もっと多くの読者を得たと思います。著者はYouTubeチャンネルも運営されていますが、その純真な人間性、豊かな教養に基いた番組をいつも楽しく拝聴しています。わたしは新日本プロレスの時代から著者の大ファンでした。いつかお目にかかり、いろいろな話をさせていただきたいものです。

 

2021年8月27日 一条真也

3P都市・東京を脱出!

一条真也です。
現在の東京は新型コロナウイルスの感染大爆発で、完全にパンデミック状態です。それなのに大規模国際競技大会であるパラリンピックを開催するということで、これは普通はありえません。大いなる矛盾です。わたしは、東京をパンデミック×パラリンピックパラドックス(Pandemic×Paralimpics=Paradox)の「3P都市」と呼んでいます。26日、ようやくその危険きわまりない矛盾都市を脱出しました。


f:id:shins2m:20210826174235j:plain今朝の朝食はルームサービスで 

 

今回の東京出張は日比谷のホテルに宿泊しましたが、その周辺の飲食店の多くで酒が提供されていることに驚きました。新橋の居酒屋などはほぼフル営業状態と言ってもいいような印象でした。一方、ホテルの場合は徹底したルールの遵守が求められ、酒の提供がアウトなのはもちろん、ホテル内飲食店の営業そのものも自粛されている始末。本当に不便でした。わたしは「コロナ禍では、街の飲食店に比べて、ホテルや結婚式場は圧倒的に不利だな」と実感しました。朝、ルームサービスでアメリカン・ブレックファーストを食べました。ホテル内の和食店が閉店中で、朝は洋食しか食べれないのです。こんなことも初めてです。

f:id:shins2m:20210826121817j:plain
羽田空港のようす

f:id:shins2m:20210826121948j:plain
羽田空港にて
 

朝食後、しばらく客室でオンラインの仕事をしてからチェックアウトしましたが、外はものすごく暑い! 今日の東京は久々の猛暑日で、気温は35度以上あるそうです。羽田空港に着いたら、いつもよりも人が少ないように感じました。ちょうど昼時だったので、食事できる場所を探しましたが、いつもは行列ができている2階の吉野家が空いていたので、「たまには牛丼でも食べるか!」と入店。

f:id:shins2m:20210826122734j:plain昼に牛丼を食べていたら・・・ 

 

牛丼の頭の大盛り(肉が大盛りで、ご飯は普通)とお新香と味噌汁を食べていたら、突然、空港内に放送が鳴り響いて、「新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身です!」と尾身会長の声が流れてきたので、ビックリしました。内容は「会食は4人以内で・・・」などの新型コロナウイルス感染防止対策についてのメッセージ放送でしたが、こんなことは初めてなのでたいそう驚き、口の中の牛丼を吹き出しそうになりました。尾身会長といえば、25日の衆院厚生労働委員会において、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が再来日したことについて批判しました。わたしはこれまで「尾身さんは頼りないなあ」と思っていたのですが、このときのブチ切れ会見で大いに見直しました。いやあ、溜飲が下がりましたね!


尾身会長はブチ切れ気味に「やっぱり国民にお願いしているのだったら、オリンピックのリーダー、バッハ会長、なんでわざわざ来るのかと。そこでは、そういうことをなぜ、普通のコモンセンス(常識)なら(判断が)できるはずなんですね、もう1回来たから。銀座も1回行ったんでしょうと。これは私は専門家の会議というよりも一般庶民としてそう思います。実はパラリンピックは、一生懸命やった人にやってもらいたいという気持ちは多くの人があるんですけど、なぜわざわざバッハ会長がもう1回、そんなのオンラインでできるじゃないですかというような気分が多分。一つの例ですけど、そういうふうに私は強く思います」と述べ、会場では拍手も起こりました。それを聴きながら天を仰ぐ三原じゅん子副大臣の怖いほどの険しい表情も印象的でした。かの「極道の妻たち」シリーズで主役を張った岩下志麻さんもビックリのド迫力です!

f:id:shins2m:20210826133843j:plain閑散とした羽田空港のようす

f:id:shins2m:20210826135823j:plain
機内のようす

食後は検査場を通り、ラウンジで書き物をしてから、搭乗口に向かいました。ラウンジも含めて羽田空港内はやはり人が少ないように感じました。その後、スターフライヤー81便に搭乗。機内では、いつものように読書をしました。今日は、『これからの天皇制――令和からその先へ』(春秋社)という本を読みました。

 

 

同書は、令和になって新しい天皇陛下が即位されたことをきっかけに、これまでの天皇制を振り返り、新しい時代の天皇制について考えた本です。上智大学グリーフケア研究所島薗進所長をはじめとした6名の講師によって行われた講義をまとめたものであり、銘々が独自の観点から天皇制という制度にアプローチし、未来の天皇制を論じています。「これからの世界を、私たちはどう生きるか」「日本人のアイデンティティとは何か」「そして、“天皇制”とは」についての核心に迫った内容で、わたしは「こういう考え方もあるのか」と思いながら読みました。

f:id:shins2m:20210826154428j:plainPCR無料・予約不要! 

 

北九州空港に到着して荷物をピックアップすると、出口の前に人がいて、「PCR検査が無料で受けられます。予約は要りません。東京からお戻りの方は、どうぞお受け下さい!」と呼びかけていたので、これまた驚きました。羽田空港での尾身会長の放送といい、北九州空港での無料PCR検査といい、これまでになかった新しい動きです。わたしは、「日本の感染状況は想像以上に悪いのかもしれない」と思いました。ちなみに本日の東京都の新規感染者は4704人でした。現在入院している感染者のうち、重症者は276人となっています。新たに11人の死亡も発表されていますが、なんとなく「本当はもっと多いのではないか?」という疑念が沸々と湧いてきました。正直言って、東京にはしばらく行きたくありません!


2021年8月26日 一条真也