死を乗り越える宮沢賢治の言葉

 

わたしくしという現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です。
宮沢賢治

 

一条真也です。
言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、詩人、童話作家として知られる宮沢賢治(1896年~1933年)の言葉です。賢治は、岩手県の花巻出身。盛岡高等農林学校卒。代表作『銀河鉄道の夜』は英訳、仏訳もされています。他にも『注文の多い料理店』『風の又三郎』など多数。

 

 

わたしは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が大好きです。宮沢賢治とは、文学者というよりも異界を見ることのできた幻視者だったのではないでしょうか。彼の作品の多くは、科学的だともいわれます。ここで取り上げた言葉も、じつに宮澤賢治らしい表現です。文学者は自分を何かにたとえることがあります。雨だったり、風だったり、海にたとえる人もいます。



冒頭の言葉は賢治が生前に出版した唯一の詩集である『春と修羅』の「序」に出て来る有名なくだりです。全文は以下のようになります。

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い証明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の 
ひとつの青い証明です 
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

 

 

これらの謎に満ちた言葉は、あまりにも難解だとされてきました。わたしは、『涙は世界で一番小さな海』(三五館)でその謎に挑戦しました。たとえば、賢治が霊能力者であったことを頭に置いて読むならば、目から鱗が落ちるかのように、その意味が立ち上がってきます。神秘学の世界では、人間とは複合体です。すなわち、肉体とエーテル体とアストラル体と自我とから成り立っている存在が人間なのです。このことは、ルドルフ・シュタイナーが講演の度に毎回繰り返していい続けたことでもありました。それほど人間にとって重要な事実であり、神秘学の基本中の基本だからです。つまり、人間とはまさに透明な幽霊の複合体なのです!



そして自我とは、「幽霊の複合体」でありながらも、統一原理として厳然と灯る主体に他なりません。賢治は、このことを自分の体験によって実感していたのです。ちなみに、複合体の一つである「アストラル体」とは「幽体」とも呼ばれます。臨死体験などでの「幽体離脱」を「アストラル・トリップ」ともいいます。そして、どうやら賢治は人生のさまざまな場面でアストラル・トリップを繰り返していたようです。それにしても、「青い照明」とは、なんと美しい言葉でしょう。彼の才能を垣間見る一言です。そして死生観も伝わってきます。



賢治は、仏教、特に法華経に傾倒。信仰と農民生活に根ざした創作を行っていたといえます。父が「何か言っておくことはないか」と尋ねると、賢治は「国訳の妙法蓮華経を一千部つくってください」「私の一生の仕事はこのお経をあなたの御手許に届け、そしてあなたが仏さまの心に触れてあなたが一番よい正しい道に入られますようにということを書いておいてください」と語ったといいます。


生前に出版された彼の著書は二冊。童話集『注文の多い料理店』と詩集『春と修羅』だけでした。あまりに短いその生涯は、一瞬輝く青い光だった気がします。なお、この宮沢賢治の言葉は『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)に掲載されています。

 

 

2022年7月27日 一条真也