書肆ゲンシシャ

一条真也です。
別府に来ています。2日の夕方、わたしは以前から行ってみたかった場所を訪れました。 書肆ゲンシシャという古書店です。ゲンシシャは「幻視者」という意味で、全国的に有名なカルト書店です。

f:id:shins2m:20201002150130j:plain書肆ゲンシシャ

f:id:shins2m:20201003000216j:plain 書肆ゲンシシャ の前で

 

この書店の異界っぷりがいかに半端でないかを説明するのは難しいのですが、Wikipedia「書肆ゲンシシャ」には、「大分県別府市青山町7-58にある書店・出版社・カルチャーセンター。2016年2月に開店した」「驚異の部屋をテーマにした空間を展開している。死後写真の展覧会を開催している。また、隠された母の古写真を取り揃えていることでも知られている。死体・奇形・戦争・芸妓・遊郭・LGBT・別府に関する古写真を扱っている。直筆原稿や春画も取り扱っており、店内にて閲覧できる。ロゴは別府在住の99歳の元看板絵師、松尾常巳による。店主は日本マンガ学会に所属しており、知見を活かしマンガ図書館としても運営している」と書かれています。

f:id:shins2m:20201002152857j:plain書肆ゲンシシャの店内で

f:id:shins2m:20201002152358j:plain
店主の藤井慎二さんと

 

わたしは、もともと、たまたま目にした女優でファッションモデルの内田理央さんのYouTube動画でこの場所の存在を知り、興味を抱いたのですが、その後、「なにこの世界・・・未知との遭遇だらけ!驚異の陳列室『書肆ゲンシシャ』」というネット記事を読んで度肝を抜かれました。念願かなって同店を訪れたところ、店主の藤井慎二さんが歓迎して下さいました。東大で表象文化論を学ばれたという藤井さんはブログ「アスタルテ書房」を読まれて、わたしをご存じだったようです。「ここは死に関する、ありとあらゆるものを揃えています!」といきなり言われたので、仰天しました。

f:id:shins2m:20201002150643j:plain
死後写真の数々

f:id:shins2m:20201002150651j:plain
ヨーロッパの死後写真

f:id:shins2m:20201002150654j:plainヨーロッパの死後写真

f:id:shins2m:20201002150656j:plainヨーロッパの死後写真

f:id:shins2m:20201002151052j:plain
わが子の亡骸を抱く女性の写真

f:id:shins2m:20201002152205j:plain
子どもの死後写真

f:id:shins2m:20201002150958j:plain
壁にもたくさん死後写真が・・・・・・

藤井さんは丁寧に1点ずつ説明して下さいました。最初に見せられたのは、店中に展示されている「死後写真」です。その昔、ヨーロッパでは家族が亡くなった後、生きているように見立てて写真を撮る習慣がありました。グリーフケア・アートですね。まるで生きているように、目を開けている写真もあります。わたしは、ニコール・キッドマンが主演した心霊ホラー映画の傑作である「アザーズ」で、死後写真の存在を知りました。その実物がここには大量にあるのです。お値段はダゲレオタイプで撮影したものが1点で数万円、フィルムの写真が数千円とのことでした。アメリカの古い心霊写真も売られていました。

f:id:shins2m:20201002151026j:plain
少女人形の隣には・・・

f:id:shins2m:20201002150911j:plain生き人形が置かれていました

f:id:shins2m:20201002150920j:plain
生き人形の指には指輪が・・・



四谷シモンの弟子が作ったという少女人形の隣には、大きな市松人形が置かれていました。いわゆる「生き人形」です。若くして亡くなった女性の生前の姿を人形として再現し、指輪までつけています。普通は「不気味」とか「怖い」とか感じる人も多いでしょうが、わたしは「ああ、これもグリーフケア・アートだな・・・」と思いました。ヨーロッパの死後写真、アメリカの心霊写真、日本の生き人形・・・・・・世界中の人々が、愛する人を亡くした悲嘆を受け止めるために、さまざまなグリーフケア・アートを追い求めてきたのです。なんだか、人類そのものが愛しくなるような感情が沸き上がってきます。

f:id:shins2m:20201002153149j:plain
驚異の飾り棚

f:id:shins2m:20201002151933j:plain
藤井さんから説明を受けました

f:id:shins2m:20201002151903j:plain
美女の目が動く時計

f:id:shins2m:20201002152016j:plain
人骨で作られたラッパなど

f:id:shins2m:20201002152149j:plain
尼僧のデスマスク

f:id:shins2m:20201002152118j:plain
「人体科学展」で展示された人間の脳

f:id:shins2m:20201002153222j:plain
この写真の裏には、猫のホルマリン漬けが!



それから、藤井さんは大きな飾り棚の中のある驚異の品々について説明して下さいました。たとえば、大正時代の壁掛け時計。鏡の中に時計と美女の顔があります。ゼンマイを巻いて時計を動かすと、時計と一緒に美女の視線が動くのです。また、人間の太ももの骨を使用して作られた人骨ラッパとか、中国の纏足の靴とか、パプアニューギニアの首長族の首輪とか、第一次世界大戦で弾除けに使われた金属製の聖書とか、毒薬入れとか、遺体に身につけさせる死後宝石とか、尼僧のデスマスクとか、悪名高い「人体科学展」で実際に展示された人間の脳とか、女装した赤塚不二夫の写真の裏には猫のホルマリン漬け! もう凄すぎる!

f:id:shins2m:20201002152235j:plain
これが人皮装丁本だ!

f:id:shins2m:20201002151621j:plain
「死」や「怪異」に関するさまざまな本

f:id:shins2m:20201003012306j:plain
藤井さんから本の説明を受けました

f:id:shins2m:20201002152527j:plain
「奇形見世物」の写真を拝見しました

f:id:shins2m:20201002153056j:plain
この日に購入した書籍たち



きわめつけは、人間の皮膚で作られた本です。これは、わたしも初めて見ました。その他にも、藤井さんが棚の下から「死」や「怪異」に関するさまざまな古書を出して下さいましたが、自分でも驚いたのはそれらの多くをすでにわたしが所有していることでした。なんなんだ、俺! もしかして変人? 藤井さんは珍しい絵葉書や写真なども見せて下さいましたが、死体や奇形に関するものが多かったです。もう店ごと買いたいぐらいでしたが、とりあえず、今日のところは洋書の心霊写真集、死体写真集、それに『怖い絵展』の図録を購入しました。 

f:id:shins2m:20201003005026j:plain妖しいゲンシシャのポストカード  

 

親切に説明して下さった藤井さんには拙著を送る約束をしました。この日は満月なので、アスタルテ書房の亡き店主にも献本した『ロマンティック・デス〜月を見よ、死を想え』(幻冬舎文庫)、それから『唯葬論』(サンガ文庫)、『死を乗り越える読書ガイド』(現代書林)などをお送りしたいです。藤井さん、これからもよろしくお願いします!

 

2020年10月3日 一条真也