世に生を得るは事を成すにあり(坂本龍馬)

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一条真也です。
言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、幕末の志士・坂本龍馬の言葉です。
わたしは、ハートフル・リーダーとしての龍馬について『龍馬とカエサル〜ハートフル・リーダーシップの研究』(三五館)で詳しく書きました。


霊山歴史館で龍馬と記念撮影

 

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

 

龍馬は日本史の、カエサルは世界史の、それぞれ「人気ランキング」の首位を指定席としています。2人は大変な人気者なのです。そのバックボーンには、司馬遼太郎塩野七生といった国民的人気作家の存在も大きく影響しています。
司馬遼太郎の膨大な作品群は多くの日本人に読まれていますが、その中でも最も売れた作品が『竜馬がゆく』です。わたしが生まれた1963年に初版単行本が出版されて以来、単行本・文庫本合わせて累計2200万部以上が売れたといいます。
この作品が書かれる前の坂本龍馬は、それほどの有名人ではありませんでした。わたしも含めて現在の日本人のほとんどは、龍馬に明るく愛嬌のあるイメージを抱いていますが、それはずばり、この作品の影響なのです。

 

竜馬がゆく (新装版) 文庫 全8巻 完結セット (文春文庫)

竜馬がゆく (新装版) 文庫 全8巻 完結セット (文春文庫)

 

タイトルを「龍馬」ではなく「竜馬」とした理由については、司馬遼太郎自身が「自分は自分の竜馬を書きたい」「龍の字は画数が多い」などと語ったといいます。吉川英治の『宮本武蔵』が決して等身大の武蔵を描いたわけではないように、司馬遼太郎も自らの理想の人間像としての竜馬を描いたのです。しかし、『竜馬がゆく』には、日本人が理想とするリーダー像があますところなく魅力的に描かれています。

 

龍馬は「世に生を得るは事を成すにあり」との言葉を残しました。
これは、「志」というものの本質を語った言葉であると思います。
「志」は「死」や「詩」と深く結びついています。いずれも「シ」と読みますね。
日本人は辞世の歌や句を詠むことによって、「死」と「詩」を結びつけました。死に際して詩歌を詠むとは、おのれの死を単なる生物学上の死に終わらせず、形而上の死に高めようというロマンティシズムの表われではないでしょうか。

 

葉隠 (講談社学術文庫)

葉隠 (講談社学術文庫)

 

 

そして、「死」と「志」も深く結びついていました。死を意識し覚悟して、はじめて人はおのれの生きる意味を知ります。有名な龍馬の「世に生を得るは事を成すにあり」こそは、死と志の関係を解き明かした言葉にほかなりません。また、山本常朝の『葉隠』には「武士道といふは死ぬ事と見つけたり」という句があります。これは、武士道とは死の道徳であるというような単純な意味ではありません。武士としての理想の生をいかにして実現するかを追求した、生の哲学箴言なのです。


龍馬の写真の前で日本刀を持つ

 

このように、もともと日本人の精神世界において「死」と「詩」と「志」は不可分の関係にあったのです。龍馬の言葉に触れると、その生き様とあわせて、「何のために生きるのか」といったことを考えずにはおれません。なお、この龍馬の名言は『ロマンティック・デス〜月を見よ、死を想え』(幻冬舎文庫)の「文庫版あとがき」にも登場します。
「令和」への改元まで、あと3日です。

 

ロマンティック・デス―月を見よ、死を想え (幻冬舎文庫)

ロマンティック・デス―月を見よ、死を想え (幻冬舎文庫)

 

2019年4月28日 一条真也