一条真也です。
久しぶりに『サーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著、 ラリー・C・スピアーズ編集、金井壽宏監修、金井真弓訳(英知出版)を読み返しました。もう12年も前、わたしが社長に就任した頃に読んで感銘を受け、『ハートフル・カンパニー』(三五館)でも紹介しました。
このたび、幹部社員に「リーダーシップ」について話す機会があり、読み返したのです。つねに新しい情報や知識を提供することも必要ですが、大事なことを繰り返し伝えることも社長の務めだと思っています。
「サーバントリーダーシップ」とは何か。それは、リーダーは部下の成功に奉仕すべきだ、とするリーダーシップ・モデルです。
言うまでもなく、「リーダーシップ」は「マネジメント」とならんで、会社が存続し発展するうえで欠かせないものです。両者にはっきりとした境目はありませんが、力を置くべき焦点は大きく違います。
企業の戦略・目標・行動の部分にマネジメント要素が強く、ミッション・バリュー・ビジョンの部分にリーダーシップの要素が強いとされています。リーダーシップとは、つまるところ「人を動かす」ということです。そして、人を動かすということは、その組織の行動の社会的な意義を確認し、行動規範を設定し、変化する目標を定める行為が基本にあるということです。
リーダーシップの目的が、変化すること、勇気を奮い立たせることに主眼を置くことに対して、マネジメントの主な目的は、すべての人ができるだけ簡単に楽に仕事をこなせるようにすることにあります。社員を教育し、日々の目標を設定し、行動計画を立て、モニタリングし、フィードバックし、再び教育し、目標を設定する循環を作ることなのです。そのために、マーケティングを行い、予算を立て、戦略を立て、戦術を考えるわけです。
「マネジメント」と「リーダーシップ」は経営の両輪であり、どちらが大きく欠けてもうまくいきません。そして決して誤解してはならないことは、リーダーシップは管理職の人間だけに必要なのではなく、社員全員が持つべきであるということ。
リーダーシップとは、人間の生き方そのものに関わっています。
名言ブログ「ドラッカー(2)」で「マネジメントとは、人に関わるものである」という言葉を紹介しましたが、リーダーシップもまた人に関わるものです。
組織の階層構造は人間がつくったものです。それは時としてリーダーシップのあり方を型にはめ、人が生まれながらに持っている貴重な才能を押し殺してしまうことがあります。けれどもそのような状況のもとでも、リーダーシップを発揮することは誰にでもできるのです。
では、どうすれば自分の可能性を引き出し、ひいては他人の可能性を引き出し、伸ばすことができるのでしょうか。それはこういう問いにつながります。
あなたの仕事は、人生を注ぎ込むに値するものでしょうか。これほど大事な問題を、あなたはどう考えているのでしょうか。これは人間としての根本的な問いであり、1人ひとりの人生に関わる問いでもあります。誰もが、人の役に立ちたいと心の底で思っています。自分の存在が他人のやる気をくじいているのか、それとも逆に活気づけているのかということに、無関心でいてよいのでしょうか。
リーダーシップの本質とは、意義あるビジネスを生み出すこと、さらに言えば意義ある人生を生み出すことにあります。「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」という言葉がありますが、変えられるのは自分だけであり、自分だけが自分を変えられるのです。自分の一番よいところを引き出すこと、自分に周りに、人々がのびのびと成長できるような環境をつくってあげること、これが真のリーダーシップです。果敢に行動を起こし、自ら先頭に立ち、後に続く人々を励まし、他人の一番よいところをほめてあげること。これが人生のあらゆる場面に役立つリーダーシップの要諦です。ビジネスの場面において、私たちは同僚、グループ会社の社員、顧客、取引先など、さまざまな人々に影響を与えています。だから私たち全員がリーダーシップを持てば、仕事も、地域社会も、国も、そして世界も変えることができるのです。
リーダーシップ実現のカギは、この人についていきたいと思わせるような人間になることです。この人についていけば、自分も成長できる、仕事が楽しくなると思わせることです。しかし、リーダーシップのあるべき姿はこれまで何度となく塗り替えられてきました。いずれもその時代の経済的・社会的状況に即したものです。それは大きく言って、軍隊システムを応用した結果生まれた管理・命令型リーダーシップから、仲間として協働するタイプのリーダーシップへと変化していく歴史でした。現在では、リーダーたる者は、コーチであり、先生であり、アドバイザーである一方、知識と権限を分かち与える義務を日々自覚する必要があります。こうした変化のおかげで、まさしく「顧客の時代」と呼ぶべき環境が整いました。実際、さまざまな場面で、顧客は企業にコントロールされる存在から解放されつつあります。
結婚式を間近に控えて「ゼクシィ」などを熟読するお客様のように、商品やサービスに対する深い知識を持つ顧客が増えています。いわば単なるカスタマーから「ナレッジ・カスタマー」へと変化しているのであり、当然、私たちサービスを提供する側は、さらに深いプロフェッショナルの知識を持つ「ナレッジ・ワーカー」とならなければなりません。「ナレッジ・カスタマー」に「ナレッジ・ワーカー」がサービスを提供する「顧客の時代」において、私たちは不思議なことに、めぐりめぐって古代の知恵にたどり着きます。逆説的に聞こえるかもしれませんが、「優れたリーダーは、自らに仕える者に仕える」という知恵です。
歴史上、天性のリーダーとされた人々の記録を見ると、そこから「リーダーの権力と権限は下の者から与えられる」という真理が導き出されてきます。そして、キリスト教神学が唱えた「サーバントリーダー(奉仕するリーダー)」というリーダーシップ・モデルが、文化が異なっても、さまざまな国の政治哲学に共通して見られるのです。サーバントリーダーシップという古代以来のモデルは、現在のビジネスの世界に復活しつつあります。なぜなら、資源依存型経済から知識主導型経済への変化が明らかとなったいま、価値のあるものとないものを選別し、価値あるものを供給できるのは誰かを決定する主導権を、顧客が握るようになったからです。そこでは、顧客と直接的に接する現場の人たちの存在が重要になってきます。このように、リーダーシップの核心は、いかに組織メンバーたちを従わせるかということから、いかに顧客接点に従事する人たちに貢献するかという方向へと移行してきているのです。
これまでも、顧客に満足をもたらしうるか否かが、究極的に企業の成功を左右してきました。けれどもいまでは、サーバントリーダーシップが成功の決定的要因になっています。いまやインターネットなどによって、顧客はこれまで知りえなかった情報を知り、地理的な束縛からも解放され、合理的で賢い判断を下せるようになりました。ビジネスの激しい競争で勝ち残るには、このようなナレッジ・カスタマーたちに「選ばれる」サービス・プロバイダ(提供者)にならなければなりません。そしてそのためには、ナレッジ・ワーカーである社員たちから「選ばれる」会社にならなければならないのです。
本書には、アメリカの地方代理店から世界第3位の旅行業大手へと急成長したローゼンブルース社の経営哲学が紹介されています。それは「顧客第二主義」という一見ショッキングなものです。では、何が第一なのかというと、社員です。「企業は顧客でなく社員を第一に考えるべきだ」という基本理念によって、同社はわずか30年で実に売上げを300倍にまで成長しました。「顧客はそれをどう感じているのか?」といぶかる人もいるでしょう。企業にとって社員が第一でも、社員にとってお客様はもちろん最優先です。
ローゼンブルース社は、社員を重視することによって、顧客サービスの分野で確固たる評判を築いたのです。
企業が社員の生活に及ぼす影響は計り知れません。だから、企業には社員に良い影響をもたらす責任があります。だが実際には、社員が毎晩、職場のストレスや不安、欲求不満を家に持ち帰るという現状があまりにも多すぎる。これが家庭内トラブルの原因となり、仕事にも影響を与える。ほとんどの企業は、よくあるこの悪循環をぜひとも避けたいはずですが、容易ではない。しかいローゼンブルース社は、アフタヌーンティー・パーティーやランチタイム学習といった数々の具体策をもってこの難問を解決したのです。
社長のハル・ローゼンブルースは言っています。「顧客を大切にする気持ちを引き出すために、社員を大切に扱い、社員の価値を認め、社員に力をつけさせるのだ。企業が社員を最優先すれば、効果は絶大である。社員は心から良いサービスを提供する気持ちになるからだ。ごまかしは効かない。うわべだけ真似ても駄目だ。ゼロから始めるしか方法はないのだ。これだけ前向きに取り組めば、注目され、噂が広まる。無理もない。人間としての生き方に合致しているからだ。もう誰も、家庭と仕事で異なる顔を使い分けなくていい。」
ローゼンブルース社の「社員第一主義」がサーバントリーダーシップに支えられているのは言うまでもありません。リーダーの仕事とはサービス業であり、リーダーは部下の成功に奉仕すべきなのです。 組織が成功するためには何が必要でしょうか。組織の成功とは、一度きりの成功ではなく、成功を続けることです。したがって、成功を続ける組織をつくることがリーダーの任務です。そして、成功を続ける組織とは、環境が変化しても即座に対応できる現場のリーダーを、サメの歯のようにつくり続けられる組織です。
そして、次のリーダーをつくり続けるためには、部下の成功を支援し、野球でいえば送りバントができるリーダーでなくてはなりません。「部下が主役」と常に意識して、部下に花を持たせなければなりません。ただし、最終責任はリーダーがとらなければなりません。このようなリーダーこそ、組織の末端に至るまで数多くの成功を生み続けることができるリーダーである、と考えるのが、サーバントリーダーシップの本質的な考え方なのです。
2001年10月1日に行ったわたしの社長就任スピーチでも言いましたが、会社で一番偉いのは社長ではありません。一番偉いのはお客様であり、次にお客様と接する現場の方々です。そして、会社の職務とは究極的に二種類しかありません。すなわち、顧客のために働くか、顧客に接する人たちのために働くか。言いかえれば、現場で働くか、現場のために働くか、です。
日本企業の現場の文化も個人主義や能力主義が進み、大きな変化を起こしつつあります。滅私奉公・集団主義・上司絶対の文化に支えられたトップダウンのみの経営は、うまく機能しなくなっています。それでは、組織のどの部分に一番焦点を当てるべきか。それは、「現場」です。
すべての答えは「現場」にあるのです。したがって、「現場」のリーダーの養成が、現在のように先行きの見えにくい時代の最重要課題だと言えるでしょう。また、この時代に必要不可欠な能力は何でしょうか。それは、「仮説」を立てて「検証」し、再び「仮説」を立てることのできる能力です。この「仮説」→「実験」→「成果」→「仮説」の循環をつくりあげることです。
現場はつらいものです。売上目標、顧客のクレーム、同僚との人間関係の対立などなど、戦略や戦術の理論だけでは解決できない問題があまりにも多すぎます。結果、ストレスをためて、現場で精神的に参ってしまう人々が後を絶ちません。不測の状況変化も起きます。こんな崖っぷちのつらい現場を何とか回していくのが、現場のリーダーの大きな役割なのです。
これまでは、上層部が決定した戦略・戦術に基づいて、やるべきことを実行することが現場リーダーの任務でした。上意下達・トップダウンの時代です。しかしながら、答えが現場にある現代は、現場のリーダー自らが、「仮説」→「実験」→「成果」→「仮説」の循環を担わなければなりません。
この仮説に基づいた成果を他のチームに広げていくことは、わが社の組織で言うならば、事業部長、本部長、そして社長の役割です。「ナレッジ・マネジメント」とか「組織学習」といわれるものは、本当はこのことを言うのです。
サーバントリーダーシップの考え方が社内に浸透し、具現化したとき、その会社はさらなる進化を遂げると確信します。
*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。
2013年6月9日 一条真也拝