一条真也です。
わたしはこれまで多くの言葉を世に送り出してきましたが、サンレーもこれまで多くの言葉を世に送り出してきました。この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。今回は、「天下布礼」という言葉を取り上げることにします。
サンレー北九州本部総合朝礼にて
「天下布礼」とは、「創業守礼」とともに、サンレー創業時に佐久間進会長が掲げていたスローガンです。2008年、わたしが上海において再び社員の前で打ち出しました。わが社の創立40周年記念として、全国の社員を3班に分けて総勢600名の上海旅行を行いました。現在はコロナ禍でとても不可能ですが、当時でも「今時、こんな大人数の社員旅行は珍しい」と言われました。21世紀に入って、社員旅行どころか、歓送迎会や忘年会なども日本の会社から減っていました。会社というより社会全体が「人間嫌い」になっているような感がありました。
急速なIT化が社会の「人間嫌い」化に拍車をかけたのかもしれません。でも、わが社は冠婚葬祭を本業とする会社です。まさに人間を相手にするのが仕事であり、わたしたちが人間嫌いになることは許されないと考えました。それもあって、あえて大人数で中国の上海に旅行したのです。言うまでもなく、中国は孔子が生まれた国です。2500年前に孔子が説いた「礼」の精神こそ、「人間尊重」そのものだと思います。上海での創立記念式典で、わたしは社員の前で「天下布礼」の旗を掲げました。かつて織田信長は、武力によって天下を制圧するという「天下布武」の旗を掲げました。しかし、わたしたちは「天下布礼」です。武力で天下を制圧するのではなく、「人間尊重」の思想で世の中を良くしたいのです。
わたしは「天下布礼」を唱えています
わが社の小ミッションは「冠婚葬祭を通じて良い人間関係づくりのお手伝いをする」。冠婚葬祭ほど、人間関係を良くするものはありません。そして、わたしたちの理想はさらに大ミッションである「人間尊重」へと向かいます。太陽の光が万物に降り注ぐごとく、この世のすべての人々を尊重すること、それが「礼」の究極の精神です。だから、わたしは「礼」の精神が誕生した中国の地で「天下布礼」という言葉を持ち出したのです。上海での記念祝賀会では、「摩天楼そびゆる魔都の宴にて 天下布礼の旗を掲げん」という短歌を披露しました。まさか、その5年後に「礼の実践」を評価されて第2回「孔子文化賞」を授与されるとは夢にも思いませんでした。
天下、つまり社会に広く人間尊重思想を広めることが、わたしたちサンレーの使命です。わたしたちは、礼業という、この世で最も大切な仕事をさせていただいていると思っています。これからも冠婚葬祭を通じて、良い人間関係づくりのお手伝いをさせていただきたいです。また、わたしが大学で教壇に立つのも、講演活動を行うのも、本を書くのも、さらには庸軒として道歌を詠むのも、すべては「天下布礼」の一環であると考えています。
『論語と冠婚葬祭』(現代書林)
2022年5月20日、新しい「天下布礼」の書が刊行されました。『論語と冠婚葬祭』(現代書林)です。同書は、わが国における儒教研究の第一人者である大阪大学名誉教授の加地伸行先生との対談本です。わたしは長い間、「礼とは何か?」「なぜ、冠婚葬祭は必要か?」について考え続けてきましたが、加地先生との対談でついにその答えを得ることができました。本書は、冠婚葬祭互助会業界の同志たちをはじめ、冠婚葬祭に関わるすべての人々にとっての理論武装の書となるように思います。また、渋沢栄一の『論語と算盤』の副読本として読んでいただくのも良いかもしれません。これからも人間尊重思想としての「礼」を広め、その重要性を訴えてゆく覚悟です。
2022年5月28日 一条真也拝