精神集約型産業

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一条真也です。
わたしは、これまで多くの言葉を世に送り出してきました。この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。今回は、「精神集約型産業」という言葉を取り上げることにします。

 

 

いち早く社会の「知識化」を唱えた人こそ、経営学ピーター・ドラッカーでした。ドラッカーは、「すべての産業は知識化する」と予言しました。そして、ドラッカーが多くの著書で一貫して唱えてきたのが「知識社会」の到来でした。7000年前、人類は技能を発見しました。その後、技能が道具を生み、才能のない普通の者に優れた仕事をさせ、世代を超えていく進歩を可能にしました。技能が労働の分業をもたらし、経済的な成果を可能にしたのです。紀元前2000年には、地中海東部の灌漑文明が、社会、政治、経済のための機関と、職業と、つい200年前までそのまま使い続けることになった道具のほとんどを生み出しました。まさに技能の発見が文明をつくり出したのです。そして今日、再び人類は大きな発展を遂げました。仕事に知識を使いはじめたのです。ドラッカーは、「仕事の基盤が知識に移った」と述べています。

 

 

ここで言う「知識」とは、仕事の基になる専門知識のことです。専門知識の上に成り立つ職業といえば、医師や弁護士や公認会計士やコンピュータ・プログラマーなどがすぐ思い浮かびますが、じつは冠婚葬祭業なども知識産業であると、わたしは思っています。例えば、「葬祭ディレクター」という資格制度があります。これは、葬祭業界に働く人にとって必要な知識や技能のレベルを審査し、認定する制度です。葬祭業界に働く人々の、より一層の知識・技能の向上を図ることと併せて、社会的地位の向上を図ることを目的とします。葬祭ディレクター技能審査は、平成8年3月に厚生労働省(当時、労働省)の認定を受けた制度です。 試験は、葬祭ディレクター技能審査協会(平成7年設立)が実施し、葬祭ディレクター(1級、2級)の認定については葬祭ディレクター技能審査協会が行っています。

 

この試験用に使う『葬儀概論』という電話帳のように分厚いテキストを見ると、たいていの人は非常に驚きます。想像以上に内容が高度で、かつ範囲が広いのです。仏教の各宗派の教義・作法はもちろん、宗教全般、儀礼全般に医療、法律、税務といった分野まで含まれています。「これはもう大変な知識産業ですね」と言われます。その1級ディレクターの人数および合格率が、わが社は日本でもトップクラスということで、非常に誇りに思っています。冠婚葬祭業界には、「ブライダル・プロデューサー」という資格もあります。さらには、料理、衣装、写真、司会・・・と当社のあらゆる仕事は高度な専門知識に基づく知識産業であると認識しています。そして、プロフェッショナルとしての専門知識を備えた知識労働者たちが、価値の創造としてのイノベーションを呼び込むのだと思っています。 

 

 

ドラッカーも『創造する経営者』の中で、「知識労働者は、すべて起業家として行動しなければならない。知識が中心の資源となった今日においては、トップマネジメントだけで成功をもたらすことはできない」(上田惇生訳)と述べています。ただし、ドラッカーのいう「知識労働者」の中にサービス業従事者は含まれていません。彼は、ともに継続学習が必要であるとしながらも「知識労働者」と「サービス労働者」を区別しています。『ポスト資本主義社会』で次のように述べています。
知識労働者とサービス労働者の生産性向上には、継続学習を組み込むことが必要である。知識は、その絶えざる変化のゆえに、知識労働者に対し継続学習を要求する。サービス労働者に対しても、継続的な自己改善努力としての継続学習を要求する。」(上田惇生訳)

 

しかし、わたしはドラッカーを心の底からリスペクトしながらも、サービス労働者を知識労働者の仲間入れさせることに挑戦してきました。これからも、アマチュアであるお客様のはるか先を行くプロフェショナルとしての高い専門知識を身につけるべく、わが社は学習する組織「ラーニング・オーガニゼーション」をめざしたいと思っています。実際、冠婚葬祭業は典型的な労働集約型産業と見られていましたが、わたしはサンレーの知識集約型産業への転換を企みました。まず、サービス業としてはきわめて珍しく、かつ取得が困難をきわめた「ISO9001」に挑戦し、1999年3月に取得することができました。また、「1級葬祭ディレクター試験」の合格者数が2005年10月に全国トップとなりました。

 

労働集約型産業から知識集約型産業への転換を果たしたわけですが、サンレーはホスピタリティ・サービス業であり、単に知識だけを集約していればいいという業種ではありません。「頭でっかち」では意味がなく、あくまでもお客様に高品質のサービスを提供しなければならないのです。ということで、さらには「思いやり」「感謝」「感動」「癒し」といったポジティブな心の働きが集約された精神集約型産業への進化をめざしています。精神集約型産業は、「人が人を相手に働く社会」と米国の未来学者ダニエル・ベルが喝破した「脱工業化社会」における花形産業となるものであり、人を幸福にするハートビジネスそのものです。新時代のハートフル・エッセンシャルワークとしての「グリーフケア士」の資格認定制度が今年6月から開始されましたが、取得者数で日本一を目指します。

 

2021年7月25日 一条真也拝