「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」

一条真也です。
東京に来ています。打ち合わせの合間を縫って、TOHOシネマズシャンテで映画「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」を観ました。ずっと観たかった作品ですが、北九州では上映されていませんでした。

 

ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
イラク戦争のさなかに真実を追い続けた実在のジャーナリストたちを描く実録ドラマ。ジョージ・W・ブッシュ政権下で奔走した記者たちを、『スリー・ビルボード』などのウディ・ハレルソン、『X-MEN』シリーズなどのジェームズ・マースデン、『ハリソン・フォード 逃亡者』などのトミー・リー・ジョーンズが演じるほか、ジェシカ・ビールミラ・ジョヴォヴィッチらが共演。ウディ主演作『LBJケネディの意志を継いだ男』などのロブ・ライナーがメガホンを取った」

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ヤフー映画の「あらすじ」は以下の通りです。
「2002年、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領は大量破壊兵器の保持を理由にイラク侵攻に踏み切ろうとしていた。アメリカ中のメディアが政府の情報を前提に報道する中、地方新聞社を傘下に持つナイト・リッダー社ワシントン支局の記者ジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)は、その情報に疑念を抱き真実を報道するため取材を進める」

 

この映画は、9・11後のアメリカにおいて、不確実な情報を口実にイラク戦争へ突き進むブッシュ政権に対して孤独な戦いを挑んだ記者たちの実話です。2003年12月、米戦略研究所はジェフリー・レコード教授の論文を発表しました。それによれば、ブッシュ政権の戦略がアメリカを「終わりのない戦い」の中に置いたと糾弾しているそうです。レコード教授は、アメリカの対テロ戦には、いつか限界が訪れると指摘しています。オバマ大統領は財政上の裏付けのないイラク侵攻の幕を引きました。

 

でも、戦争立国であるアメリカの戦いは決して終わりません。ブログ「ハート・ロッカー」で紹介した映画は、このアメリカの焦燥感をテーマとしています。テロ撲滅のために始められたイラク侵攻が、むしろテロ撲滅の邪魔になっていることを見事に暴き出しました。アメリカは敵がいないと存続できない国家なのでしょうか? それにしても、戦争をしないと存続できないとは何と貧しい国でしょうか。

 

「豊かさ」とはまさに戦争とは反対の次元にあるものだと思います。さまざまな戦争映画を観ながら、わたしは「戦争根絶のためには、ヒューマニズムに訴えるだけでなく、人類社会に『戦争をすれば損をする』というシステムを浸透させるべきではないか」などと考えます。損得勘定で動くのは経済ですが、「戦争をすれば貧しくなる」を進めて「戦争をしなければ豊かになる」という方向に持っていくことが必要です。そこで「戦争」の反対概念になるのが「観光」であり、さらには「もてなし」が最大のキーワードになります。

 

アラビアン・ナイト (福音館古典童話シリーズ)

アラビアン・ナイト (福音館古典童話シリーズ)

 

 

 わたしは子どもの頃から『アラビアンナイト』の物語が大好きで、舞台となるバクダッドをいつか訪れるのが夢でした。バクダッドはイラクの首都です。日本人が観光で訪れるなどもはや不可能です。また、わたしは大いなる「死」の文化が栄えたエジプトを訪問する計画が何度もあったのですが、そのたびにテロが起こって家族や社員の反対に遭い、いまだに、この目でピラミッドを見ていません。このように考えると、「戦争」と「観光」が正反対であることがよくわかります。もともと「戦争」とは相手国を滅ぼそうという営みであり、「観光」とは相手国の素晴らしさ(光)を観ようという営みです。まさに正反対なのです。

 

また、ジャーナリストのあり方を問う「記者たち 衝撃と畏怖の真実」を観ながら、わたしはブログ「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で紹介した映画を思い出しました。「ペンタゴン・ペーパーズ」は1971年当時のアメリカにおける最高権力者であったニクソン大統領と新聞メディアが闘う物語です。もちろん実話に基づいています。スピルバーグ監督が、本作の製作を思いついたのは、トランプ政権誕生の瞬間だそうです。結果、彼はわずか1年でこの映画を完成させました。当然ながら、過去の出来事を描きながらも、現在の政治に対する抑止力としてのメディアへのエールとなっています。

 

ペンタゴン・ペーパーズ」の核心は、アメリカ政府がベトナム戦争について真実を隠していたということです。ベトナム戦争では、多くのアメリカ人兵士が死にました。当時の新聞メディアが、そして米国民がどうしても許せなかったのは、そこに無念の死を遂げた死者たちへの想いがあったからではないでしょうか。「記者たち 衝撃と畏怖の真実」にも、アメリカがイラクに戦争を仕掛けるとき、ある人物が「戦没者の慰霊碑に行ってみるといい。毎日、誰かが故人を想って涙を流している」と言うシーンが出てきます。いつの時代でも、戦争とは巨大な「グリーフ」の発生装置であることを忘れてはなりません。

 

奇しくも、わたしが「記者たち 衝撃と畏怖の真実」を観た日、ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジが英国の保釈条件に違反した容疑でエクアドル大使館内で逮捕されたニュースが話題になりました。アサンジ容疑者は米国の要請に基づき再逮捕されました。これにより、同容疑者は米国からの身柄引き渡しに直面することになりそうですが、ウィキリークスは、アサンジ容疑者が米国の前陸軍情報分析官チェルシー・マンニングがウィキリークスに漏らした機密情報を公にしたという共謀罪で、米国の引き渡し令状に基づいて逮捕されたとツイートしています。

 

米司法省は、アサンジ容疑者が米国の機密コンピューターに侵入しようと企てた疑いがあることを声明で明らかにしました。検察は、SIPRNETとして知られる米国政府機密ネットワークにマンニングがログオンするのに必要なパスワードを入手するのをアサンジ容疑者がほう助したとしています。ジャーナリストは機密情報の出版に関して、米国憲法修正第一項の言論の自由保護のもとにほぼカバーされており、犯罪ではありません。しかし、アサンジ容疑者はまた、機密のネットワークから情報を漏洩するようマンニングを「積極的にそそのかした」としても告発されています。司法省は、アサンジ容疑者に最大5年の服役刑が科される可能性があるとしていますが、これを「言論の自由の重大な侵害」と見る人々も多いようです。

 

日本はもうすぐ「令和」の時代を迎えますが、「平成」は平和でしたが、「昭和」の時代は戦争による大きな悲劇に見舞われました。生物学者つまり科学者であった昭和天皇は、先の戦争の敗因について、「余りに精神に重きを置き過ぎて科学の力を軽視したこと」と述べられましたが、たしかに戦争ほど非科学的なこともないかもしれません。その精神を受け継がれた今上天皇もとことん平和を追及された方でした。新時代も戦争のない平和な日本であることを願うばかりです。
「令和」への改元まで、あと18日です。

 

 

2019年4月13日 一条真也