出版の志

一条真也です。
昨夜、ジュンク堂書店福岡店で行われた魚住りえさんのトークショーに参加しました。ブログ「魚住りえ講演会」で紹介したように、今年の1月19日、わたしが会長を務める全国冠婚葬祭互助会連盟(全互連)で、魚住さんに「人の心をつかむ話し方」について講演していただきました。魚住さんの講演は口や顔の運動指導を含めた非常に実践的なレクチャーで、楽しみながら大変勉強になりました。互助会の社長さんたちも大喜びでした。


トークショーの終了後、魚住りえさんと



昨夜のトークショーでは、地元の福岡での開催とあって、司会を務めた水田めぐみさんをわたしが紹介させていただきました。水田さんは「ロス・インディオス&シルヴィア」のシルヴィア似の長身の美女で、小柄でキュートな魚住さんとのマッチングが素敵でした。(微笑)
魚住さんは『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)を昨年上梓されましたが、すでに12万部を突破するベストセラーになっています。トークショーは、この本を読んだ方々が直接、魚住さんに質問をするという内容でした。この春からケーブルTVのアナウンサーとなる女性や、将来アナウンサーになりたいという女子高生なども参加して、とても温かくて感動的なトークショーでした。それから、わたしは笑顔のままで話すのは難しいと思っていたのですが、それは完全な誤解で、口角を上げた表情すなわち笑顔のほうが滑舌が良くなるということを知りました。
これは大収穫。接客業であるわが社のみなさんにも教えなければ!


最後に魚住さんから参加者へのメッセージがありました。
この本を魚住さんが書かれたのは、社会に貢献したかったからだそうです。自分がアナウンサーという職を得て、そこで学んだことや経験してきたことを書くことによって、多くの人の役に立ちたいと思ったそうです。魚住さんは、吃音で悩む1人のビジネスマンのためにこの本を書かれたと言われていました。魚住さんの本を読んで魚住メソッドを体得したその方はスピーチもプレゼンもうまく行くようになり、ビジネスも順調だそうです。
わたしは、満席となった会場の最後列でこの話を聴いて感動しました。
魚住さんの本がベストセラーになったのは、もちろん彼女の知名度の高さもあるでしょうが、その内容のクオリティの高さにあります。そして、何よりもその根底には「この本で人を幸せにしたい!」という志があったのです。



日本経済新聞電子版に連載中の「一条真也の人生の修め方」に書いたコラム「すべては世のため人のため 夢から志へ」で、わたしは、志というのは何よりも「無私」であってこそ、その呼び名に値するのであると強調しました。吉田松陰の言葉に「志なき者は、虫(無志)である」というのがありますが、これをもじれば、「志ある者は、無私である」と言えるでしょう。
平たく言えば、「自分が幸せになりたい」というのは夢であり、「世の多くの人々を幸せにしたい」というのが志です。夢は私、志は公に通じているのです。自分ではなく、世の多くの人々。「幸せになりたい」ではなく「幸せにしたい」、この違いが重要なのです。真の志は、あくまでも世のため人のために立てるものなのです。そして、「志」に通じている「夢」ほど多くの人々が応援してくれるために叶いやすいのではないでしょうか。
わたしは、「魚住りえには志がある!」と思いました。



わたしにも、日本人の離婚件数や自殺者数や孤独死の数を減らしたい、あるいは無縁社会を乗り越えて有縁社会を再生したい、さらには「死」を「不幸」と呼ばない社会を呼び込みたいという志があります。
わたしは冠婚葬祭業を営んでいますが、けっして本業に直結した本しか書かないわけではありません。本業を通じて、気づいたこと、世の人々に伝えたいことを書きたいと思っております。もともと、本を書いて出版するという行為は志がなくてはできない行為ではないでしょうか。なぜなら、本ほど、すごいものはありません。自分でも本を書くたびに思い知るのは、本というメディアが人間の「こころ」に与える影響力の大きさです。



子ども時代に読んだ偉人伝の影響で、冒険家や発明家になる人がいます。1冊の本から勇気を与えられ、新しい人生にチャレンジする人がいます。1冊の本を読んで、自殺を思いとどまる人もいます。不治の病に苦しみながら、1冊の本で心安らかになる人もいます。そして、愛する人を亡くした悲しみを1冊の本が癒してくれることもあるでしょう。本ほど、「こころ」に影響を与え、人間を幸福にしてきたメディアは存在しません。そして、わたしは読んで幸福になれる本こそ、本当の意味で「ためになる本」であると思います。



その意味で、魚住さんの書かれた『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』は正真正銘の「ためになる本」です。トークショーに参加したケーブルTVの女子アナウンサーやアナウンサー志望の女子高生にとっても大いに「ためになる本」だったはずです。
わたしも、ぜひ「ためになる本」が書きたいです。
見本が出たばかりの拙著『死ぬまでにやっておきたい50のこと』(イースト・プレス)も、どうか、多くの方々を幸福にしてくれますように!


死ぬまでにやっておきたい50のこと

死ぬまでにやっておきたい50のこと

魚住さんのイベント終了後は、打ち上げ会が開かれ、わたしも参加させていただきました。同席されたジュンク堂書店福岡店の細井店長はわたしのことを知っておられて感激しました。細井店長に『死ぬまでにやっておきたい50のこと』の見本をお渡しすると、「良い場所に並べさせていただきます」と言っていただき、さらに感激! 細井店長、ありがとうございます!



東洋経済新報社の方々とも大いに語り合いました。魚住さんの本をはじめ、多くのベストセラーを連発されているスター編集者の中里有吾さんとは出版談義を交わしました。中里さんもわたしの本を読んでおられて嬉しかったです。魚住さんも、読んで下さったそうです。みなさんと最近の出版業界についての話などをしていて、ふと悟ったことがあります。
それは、本の出版に関して問われるべきは「売れるか売れないか」ではなく「読まれるか読まれないか」であるということです。



出版不況などと言われますが、本当の良書は必ず人の心をとらえ、多くの読者を得ます。 「売らんがため」に他社のベストセラーの二匹目のドジョウを狙って、企画の猿真似をする出版社は必ず行き詰まります。本は「売らんがために出す」ものではなく、「伝えずにはおれない」という止むに止まれぬ想いで執筆され、出版されるべきです。わたしは、そう思います。
読者にしても「羊頭狗肉」のような売れ筋系ばかりを読むのではなく、もっと「自分が買わねば誰が買う!」という気概をもって「真に価値ある書籍」に向き合ってほしいものです。アマゾンのレビューにも「読んでもいない」のに書かれた「読んだふり似非レビュー」が多く、一読書人として怒りを通り越して悲しい気分になります。いまや巨大企業に成長したアマゾンも、こんな輩がベストレビュアーの上位を占めているという現状を放任せず、何とかしていただきたいですね。


アマゾンといえば、昨夜ジュンク堂福岡店で購入した「週刊 東洋経済」の最新号の特集がまさに「アマゾン 12兆円の巨大経済圏」でした。日本でも売り上げ1兆円を突破したアマゾンのパワーには圧倒されます。
「週刊 東洋経済」は、日本最古の伝統ある雑誌です。
その2010年12月25日・11年1月1日合併号に登場したことがあります。
「社会・暮らし」の大予測として、「葬式はいる? いらない?」というテーマで見開きページが組まれ、宗教学者島田裕巳氏と一緒に登場したのです。島田氏は「今の仏式葬式は無意味だ 一層簡素化が進むだろう」というタイトル。わたしは「葬式は『人らしさ』の証明 死を弔わぬ文化は日本の恥」というタイトル。それぞれが、著書の内容をベースに持論を語りました。


「週刊 東洋経済」2010年12/25−1/1号より



あれから5年以上が経過しました。いま、ある出版社から島田裕巳氏とわたしの対談本の企画が進行しています。島田氏とは以前もNHKの討論番組で「葬儀」をテーマに意見交換したことがありますが、意見が違うからといって、いがみ合う必要などありません。意見の違う相手を人間として尊重した上で、どうすれば現代の日本における「葬儀」をもっと良くできるかを考え、そのアップデートの方法について議論することが大切です。わたし自身、島田氏との対談を楽しみにしています。そして、この対談本は高い志をもって出版させていただきたいと思っています。
ということで、魚住りえさんのトークショーおよび打ち上げ会に参加して、出版の志について考えることができました。素晴らしい機会を与えていただいた魚住さんに心より感謝いたします。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2016年3月10日 一条真也