前田日明のトークがいい!

一条真也です。
最近、当ブログの記事の中で、プロレス関連記事のアクセスが多くなっています。コロナ禍で人に会う機会も減っていますが、たまに人に会うと、「プロレスや格闘技のブログ、いつも読んでます。楽しみにしています!」などと言われることも多くなりました。プロレスといっても、最近の人気レスラーのことは知らず、もっぱら昭和のプロレスをこよなく愛するわたしです。昭和のプロレスは、スルメみたいに噛めば噛むほど味があります。いま一番わたしが気に入っているのが、YouTubeでの前田日明の対談動画です。

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前田日明



前田日明といえば、アントニオ猪木の後継者的存在として「新格闘王」と呼ばれ、新日本プロレス、第1次UWF、第2次UWF、RINGSを舞台に圧倒的な存在感を示し続け、不良たちを集めたケンカ大会としてのアウトサイダーを成功させた人物です。若い頃から読書家だったという彼は含蓄のある言葉を使う人で、わたしは彼のファイトスタイルとともに言葉のファンでした。かのターザン山本は、「プロレスラーは肉体だけでなく、言葉でも戦うのだ」と述べ、その代表例として長州力前田日明の2人を挙げています。その長州と前田が対談したことがあります。2007年のことでしたが、先輩の長州が「アキラはギスギスしてた」とか「アキラは別の匂いを放っていた」とか一方的に喋るばかりで、後輩の前田はほとんど口を開くことができませんでした。なんと、キラー長州によって、前田のトーク力が完全に封殺されてしまったのです!





それから13年もの時間が経過し、前田はYouTuberになりました。自身のチャンネルでいろんなプロレスラーや格闘家と対談しましたが、今年の5月に「炎の飛龍」こと藤波辰爾との対談が実現。新日本プロレスの先輩・後輩である藤波と前田ですが、1986年6月12日、新日本プロレス大阪城ホールで激突した一戦は今も語り草になっています。前田は藤波をコーナーに追い詰め、ここで放った大車輪キックで藤波は大流血します。さらに、前田は掟破りの逆ドラゴンスープレックスで藤波を攻めます。最後は、前田のニールキックに藤波がレッグラリアートで切り返しを狙ったところ、相打ちダブルノックダウンで決着。藤波との凄絶な死闘を終えた前田は、「無人島に流れ着いたと思ったら仲間がいた」と口にしました。思い出すだけで今でも胸が熱くなる名勝負を繰り広げた2人ですが、2020年になって実現した対談では、前田が藤波をプロフェッショナルとしてリスペクトしていることがよくわかりました。最後に、前田が長州のことをちょっとディスったのもクスッと笑えました。





長州や藤波は前田の先輩に当たりますが、前田は後輩相手だとじつに素晴らしいトークを展開します。2000年に実現した武藤敬司や最近の蝶野正洋との対談もいいのですが、なんといっても今年7月に実現した船木誠勝との対談が最高! 前田と船木は新日本プロレスの先輩・後輩の関係ですが、第2次UWFで合流し、社会現象とまで呼ばれた爆発的ブームを起こしました。第2次UWF解散後は、前田がリングス、船木がパンクラスを旗揚げしますが、残念なことに両団体は犬猿の仲になってしまいます。ついには絶縁宣言まで出て、2人のファンとしても凄く辛い時期でした。二人が和解して、こうしてトークしている姿を見るだけで幸せな気分になります。レジェンド同士の対談というより、船木の質問がプロレスオタクのインタビューみたいにマニアックすぎて、前田の困る顔が微笑ましいですね。船木が大の前田ファンだということがわかりました。また、前田が「猪木が考える理想のプロレスを具現化したのがUWFなんだよな」と言う場面には、猪木へのリスペクトの強さが感じられました。船木が語る「スーパーUWF構想」には大興奮!そして、最後に船木が「これまで、色々とありがとうございました」と前田に感謝の言葉を述べるシーンには、グッときました。それを受けた前田は黙って頷いていましたが、胸にこみ上げるものがあったはずです。





現在、「格闘技界のカリスマ」として絶大な人気を誇っているのがRIZINのフェザー級王者である朝倉未来です。彼はアウトサイダーの出身であることは有名ですが、そのアウトサイダーを創設したのが前田です。つまり、未来は前田の弟子なのです。最初は単なるヤンチャな腕自慢だった未来が総合格闘技とYouTubeの2つのジャンルで才能を開花させたわけですが、そんな彼を前田は優しい視線で見つめます。また、久々に会った弟子と対談できることが嬉しくて仕方がないといった感じで、見ているこちらにまでその嬉しさ、喜びが伝わってきます。「水抜きは腎臓を悪くするぞ」とか「これからの総合は投げ技が危険になる」などのアドバイスも的確です。ただ、対談のタイトルが前田チャンネルでは「愛弟子・朝倉未来との対談が遂に実現!」となっているのに、未来のチャンネルでは「前田日明と対談してみた」となっているのは良くないですね。ここは、「前田日明」ではなくて「前田日明さん」でしょう! こんな「礼」の基本もわからないのでは、彼の未来も先が見えているように思います。YouTubeに熱を入れるのも結構ですが、プロが素人の喧嘩自慢を挑発してスパーリングでボコボコにしたり、あの逮捕された迷惑系YouTuberの「へずまりゅう」とまで絡んでいるのには失望しました。彼はもう一度、人としての基本をアキラ兄さんに教えてもらうべきです!





最後に紹介する対談は、「永島オヤジ」こと永島勝司です。元新日本プロレスリング株式会社取締役企画宣伝部長。1943年生まれ。島根県出身。専修大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。同社勤務時代には、上司との衝突により、整理部長から平社員へという「8階級降格」の経験を持つ。プロレス担当記者時代にアントニオ猪木と出会い、1988年に新日本プロレスリングに入社。渉外・企画チーフプロデューサーとして、旧ソ連北朝鮮でのプロレス興行や、「UWFインターナショナル全面戦争」などといった数々のヒット企画を生み出し、長州力をエースとする団体「WJ」を旗揚げした経験も持ちます。WJの崩壊によって莫大な借金を背負っているとされており、今年になってYouTuberになりました。わたしも初めて知ったのですが、新日時代は前田と特に親しかったそうです。さて、8月に実現したばかりの両者の対談では、高齢ゆえに記憶違いや事実誤認も多い永島オヤジを前田がそっとフォローする姿が印象的です。前田の本性が優しい人間であることがよくわかります。そして、新日本プロレス入門からUWFでの活躍、長州蹴撃事件、リングス旗揚げ、アウトサイダー開催まで、前田が自身の半生を時系列で語っているのが貴重な証言となっています。一時、猪木の差し金で新日本のプロレスラーたちが総合格闘技に挑戦して惨敗し続けましたが、それに対して「負けて当然」と語る前田のコメントも味わい深いです。



これからも、前田にはいろんなプロレスラーや格闘家と対談してほしいものです。特にリクエストしたいのは、アントニオ猪木と髙田延彦の2人です。UWF戦士として新日参戦自の前田は執拗に猪木に対戦を迫っていました。結局、両者の対戦は実現せず、多くのファンは「前田を怖れて、猪木が逃げた」と思ったものです。しかし、船木や永島オヤジとの対談で、前田が「あのとき、猪木さんと闘わなくて良かった。猪木さんもただ者じゃないから」と語ったのには驚きました。そして、さらに前田を見直しました。近い将来、YouTuber同士のコラボとして猪木との対談は実現するかもしれませんが、因縁の深い髙田の場合は難しいかもしれません。でも、あれだけ因縁のあった長州とも和解した前田ですから、なんとか髙田とも和解してほしいものです。もしかしたら、船木が間に入って、「スーパーUWF」をテーマに3人で鼎談するといいかもしれませんね。あるいは、髙田はRIZINの大幹部なので、同団体のエースである朝倉未来が間に入るとか。いずれにしろ、夢が膨らみます!



ところで、前田は一部では「滑舌が悪い」などと言われ、藤波や船木との対談では字幕を入れられたりしていますが、わたしは特に滑舌が悪いとは思えません。前田の言葉はすべて聞き取れますし、少々聞こえにくいときでも、言いたいことはわかります。プロレス界の「滑舌三銃士」(?)である長州・藤波・天龍の3人に比べれば(もっとも、前田を加えて「滑舌四天王」などと言う人もいるようですが)、大したことはありません。発音だけでなく、前田の言葉にはじつに含蓄があります。やはり、『論語』や小林秀雄の著作などをはじめ、たくさん本を読んでいて教養があるのだと思います。相手を思いやることができるのもトーク名人には不可欠ですが、前田は合格です。最後に、現在の前田は140キロぐらいあるような体格をしていますが、健康のためにも少し体重を落としたほうがいいですね。長生きして、これからも楽しい対談動画をたくさん見せていただきたいです!



 



2020年8月21日 一条真也