「イクサガミ」

一条真也です。3連休はどこにもいかずに、ずっと自宅で次回作『こども冠婚葬祭』昭文社)のゲラをチェックしていました。一息ついた24日の夜から、NETFLIXドラマ「イクサガミ」全6話を鑑賞しました。時は明治、時代遅れとなった侍たちが繰り広げるデスゲームを描いたエンターテインメント大作です。いやあ、最高に面白かったです!



その日、わたしは初めて「イクサガミ」の存在を知りました。NETFLIXの世界ランキング2位になったとかで、いま大変な話題だとネットで紹介されていたのです。ブログ「劇場版『チェンソーマン  レゼ篇』」にも書きましたが、わたしは「ブームを巻き起こしているものがあったら必ず一度は見ておくべき。社会現象にまでなるものには、どこか優れたものがあるし、『時代の気分』に応えている何かがある」ということを信条にしています。それで試しに1話だけ観ようと思ったのですが、あまりの面白さに全話を一気見しました。おかげで寝不足のまま東京出張した次第です。

 

Wikipedia「イクサガミ」の「あらすじ」には、「明治十一年二月、豊国新聞に『大金を得る機会を与える』との広告が掲載され、その三か月後、五月五日の未明に腕に覚えがある292人が京都・天龍寺に集まった。始まったのは、七つの掟が課せられた『蠱毒(こどく)』と呼ばれる奇妙な『遊び』。点数を集めながら、東海道を辿って東京を目指せという。参加者には木札が配られ、1枚につき1点を意味する。点数を稼ぐ手段はただ一つ、木札を奪い合うこと。手段は問わない。大金を必要としていた剣客・嵯峨愁二郎は、十二歳の少女・双葉と共に道を進んでいくが、強敵が次々現れる。金か、命か、誇りか。滅びゆく侍たちの死闘が始まる」と書かれています。

 

 

原作の『イクサガミ』は、今村翔吾氏による小説シリーズです。講談社より文庫オリジナルの長編小説として刊行。文庫オリジナルとして講談社文庫から刊行され、『天・地・人・神』の四部作で完結。のちに漫画、Webドラマなど幅広いメディアミックスがなされています。とにかく面白さを追求した王道時代小説です。執筆にあたり今村氏は、山田風太郎作品に代表される荒唐無稽な時代小説の系譜を意識しており、明治という時代を「武士の時代の終わり」と位置づけることで、近代化がもたらす価値観や武力の変容を物語の主題に据えたと述べています。

「イクサガミ」公式HPより

 

ネタバレになるので、あまりストーリーについて詳しく書くのは控えます。このドラマ、NHK大河ドラマもビックリの超豪華キャストです。メイン監督と脚本に多くの名作日本映画のメガホンを取った藤井道人が迎えられています。主人公・嵯峨愁二郎を演じた岡田准一はプロデューサーおよびアクションプランナーも兼任。彼のもとには、清原果耶、東出昌大伊藤英明二宮和也玉木宏早乙女太一ほか豪華キャストが集結しました。山田孝之や一ノ瀬ワタルといったNETFLIXの常連俳優も参加していますし、ブログ「男神」で紹介した日本映画で主演を務めた遠藤雄弥さんも出演しています。「男神」には恥ずかしながら小生もチョイ役で出ていますが、「イクサガミ」の超豪華俳優陣の中に遠藤さんの顔と名前を見つけたとき、すごく嬉しかったです。

 

物語の原案は、今村氏が講演後に編集者へ語った「侍たちが点数を奪い合いながら東海道を逆走する」という着想に基づくもので、これがシリーズ化の土台となりました。シリーズ執筆時から今村氏は映像化を強く意識しており、担当編集へ『NETFLIXと岡田准一でなければ実写化は難しい』と語り、実際に2022年末、NETFLIXによる映像化が決定し、藤井道人監督・岡田准一主演で制作が進められることが発表。日本国内では時代劇の観客が限定的になってきたことから、映像化にはリスクが伴うとされました。NETFLIXとしても日本オリジナル作品としての時代劇は初挑戦だったため不安は大きかったといいます。しかし、原作の持つ現代的テーマとデスゲーム要素、さらに原作の構造が映像向きであることを確認した上で、制作が決定されました



撮影では、日本全国に残る時代劇セットや街並みを活用し、約300人の出演者とスタッフを含む1000人規模で撮影が行われたそうです。原作の細部にわたるキャラクター設定や武具・衣装も忠実に再現し、アクションシーンはカメラワークを意識して構成されました。海外展開を前提としているため、字幕・吹き替えを多言語で用意し、俳優の口の動きに合わせる技術も導入。公開直前には原作者の今村氏自身も作品を確認し、「見たことがない映像」と評価しました。現在、今村氏は主要人物である愁二郎および貫地谷無骨の過去を描くスピンオフ作品の執筆を進めているそうです。

 

ETFLIXドラマ「イクサガミ」の最大の見どころは、岡田演じる主人公・嵯峨愁二郎の圧倒的なアクションです。愁二郎はかつて「人斬り刻舟」と呼ばれた剣豪で、長く剣を握ってきませんでしたが、コロリ(コレラ)の流行で貧しい生活を余儀なくされている家族や村の人たちを救うための金を得るため、再び刀を取ります。しかし、戦争のトラウマから序盤は刀を抜けません。この設定、じつは今村翔吾の原作ではがないそうですが、ドラマでは巧みに物語に組み込まれています。愁二郎が覚醒して真の力を取り戻す瞬間では、視聴者は強いカタルシスを味わうことができます。



「イクサガミ」を観て、わたしはいろんな日本映画の時代劇を連想しました。そう、このドラマは、さまざまな時代劇の名作のエッセンスが詰め込まれています。まずは、岡田准一演じる愁二郎が死線をさまよう冒頭の戊辰戦争のシーンを見て、ブログ「燃えよ剣」で紹介した2021年の日本映画を思い出しました。江戸時代末期、黒船来航と開国の要求を契機に、天皇中心の新政権樹立を目標とする討幕派と、幕府の権力回復と外国から日本を守ることを掲げた佐幕派の対立が表面化します。そんな中、武士になる夢をかなえようと、近藤勇鈴木亮平)や沖田総司(山田涼介)らと京都に向かった土方歳三岡田准一)は、徳川幕府の後ろ盾を得て芹沢鴨伊藤英明)を局長にした新撰組を結成します。討幕派勢力の制圧に奔走する土方は、お雪(柴咲コウ)という女性と運命の出会いを果たすのでした。



複数のレビュアーが指摘していますが、低く構える愁二郎の剣法は、黒澤明監督の名作時代劇椿三十郎(1962年)での主人公のそれを彷彿とさせます。同作は、凄腕の浪人が、上役の不正を暴こうと立ち上がった9人の若侍に助太刀する痛快アクション・エンターテインメントです。三船敏郎扮する三十郎は前作の「用心棒」(1961年)から通ずるキャラクターながらこちらのほうがより人間味が増し、ユーモアと知略が強調されています。薄暗い社殿で密議をこらしていた9人の若侍。上役を告発するも逆に窮地に陥っていました。それを図らずも聞いていた浪人は、権謀に疎い彼らに同情し一肌脱ぎます。ブログ「名優・仲代達矢、逝く!」で紹介したように今月13日に逝去した仲代達矢が扮する敵方の用心棒との壮絶な一騎打ちのシーンは圧巻でした。



「イクサガミ」に登場するデスゲームとしての「蟲毒」には、さまざまな武芸の達人が参戦しますが、わたしはブログ「無限の住人」で紹介した2017年の日本映画を思い浮かべました。監督・三池崇史、主演・木村拓哉で、国内外で高い評価を受ける沙村広明の人気コミックを実写映画化したアクションです。無為に生きる不死身の剣士・万次と、復讐のために彼を用心棒として雇った少女・凜が、壮絶な戦いに身を投じます。少女と共闘する万次の姿は「イクサガミ」の愁二郎を連想させますね。また、「イクサガミ」は岡田准一、二宮和成という旧ジャニーズ事務所出身の二大俳優の共演が話題となりましたが、ジャニーズ事務所が生んだ名優といえば、木村拓哉を忘れることはできません。キムタク扮する不死身の剣士が蟲毒に参戦して、岡田准一扮する愁二郎と死闘を演じる場面を想像しただけで、ワクワクします!



「イクサガミ」には、愁二郎の妹のように育ってきた女剣士・衣笠彩八が登場。今や日本映画界を代表する女優の1人なった清原果耶が演じています。愁二郎や彩八は「京八流」という最古剣術の奥義を継承する義兄弟でしたが、彼らは殺し合う宿命にありました。ここは、完全に日本映画「あずみ」(2003年)を連想してしまいました。同作は、小山ゆうの漫画を原作とします。江戸初期、戦争孤児10人が、徳川家の命で最強の刺客として育てられ、仲間同士で殺し合うという過酷な試練を経て、大名暗殺の指令を受ける物語です。主人公あずみ(上戸彩)は主君・加藤清正竹中直人)の仇をとろうとする井上勘兵衛に付け狙われる日々を送っていましたが、ひょんなことから豊臣方の大名・真田昌幸を狙うため、再び旅に出ることになりました。あずみの初恋の相手・なち(小栗旬)にそっくりな人物・銀角と出会ったあずみは、沢山の犠牲を払いながら、真田軍と絶体絶命の戦いを繰り広げるのでした。



「イクサガミ」の蟲毒には、アイヌの弓の名人・カムイコチャも参戦します。染谷将太が好演していますが、やはり、ブログ「ゴールデンカムイ」で紹介した2024年の日本映画を思い浮かべました。同作は「週刊ヤングジャンプ」にて連載され、アニメ化もされた野田サトルの漫画を実写化した作品です。明治時代後期の北海道。日露戦争に従軍した元陸軍兵・杉元佐一(山崎賢人)は、一獲千金を夢見て砂金を採っていた際、アイヌ民族から奪われた金塊のうわさを知る。金塊を奪った男は投獄されたとき、その隠し場所を示す入れ墨を24人の囚人の体に彫って彼らを脱獄させ、彼ら全員の入れ墨によって一つの暗号が構成されているのだという。あるとき、ヒグマに襲われた杉元はアイヌの少女(山田杏奈)に救われます。アシリパという名前の彼女は金塊を奪った男に父親を殺されており、父の敵を討つため、金塊を追う杉元と行動を共にし始めるのでした。

 

さらに多くの人が指摘していますが、「イクサガミ」の時代背景および物語はるろうに剣心シリーズによく似ています。1994~1999年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載され、テレビアニメ化もされて人気を博した和月伸宏の剣客漫画るろうに剣心 明治剣客浪漫譚を実写映画化したシリーズです。伝説の「人斬り抜刀斎」と名高い緋村剣心明治維新以後、殺さずの誓いをたて、決して人を斬ることのできない「逆刃刀」を携えて町から町へ流浪の旅を続ける姿を描きます。主人公・剣心役に佐藤健、ヒロイン・神谷薫役に武井咲。NHK大河ドラマ龍馬伝で知られる大友啓史監督がメガホンを取りました。



「イクサガミ」で岡田准一が扮する嵯峨愁二郎はかつて激動の幕末を薩摩藩の助っ人として活動していたことになっています。そのことから、わたしはアメリカ映画ラストサムライ(2003年)を思い出しました。明治維新直後の日本。政府は軍事力の近代化を図ろうと西洋式の戦術を取り入れることを決断。一方で前時代的な侍たちを根絶させようと企んでいた。やがて、政府と発展著しい日本市場を狙うアメリカ実業界との思惑が一致、政府軍指導のため南北戦争の英雄ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)が日本にやって来る。彼はさっそく西洋式の武器の使い方などを教え始めますが、あるとき、政府に反旗を翻す侍の一人である勝元盛次(渡辺謙)と出会います。そして、彼ら侍たちの揺るぎない信念に支えられた“サムライ魂”を感じ取った時、オールグレンは失いかけたかつての自分を思い出していくのでした。勝元のモデルは西郷隆盛とされていますし、同作のテーマは侍の滅亡を描く「イクサガミ」と完全に重なりますし、時代背景も同じです。

 

「イクサガミ」から連想されるのは時代劇だけではありません。同作はデスゲームの物語ですが、このジャンルでは日本に「カイジ」シリーズという人気作品があります。第1作のカイジ 人生逆転ゲーム」(2009年)は、累計1100万部を売り上げた福本伸行原作の人気コミックを実写映画化。自堕落な日々を送る青年が友人の借金の保証人になったために多額の負債を抱えてしまい、奇想天外なゲームに挑んで自力で人生を逆転していく姿を描きます。自堕落な日々を送る26歳のフリーター伊藤カイジ藤原竜也)は、友人の借金の保証人になったために多額の負債を抱えてしまいます。そんな彼に金融会社社長の遠藤(天海祐希)は、一夜にして大金を手にできる船に乗ることを勧めます。その船で奇想天外なゲームをするはめになったカイジは、人生を逆転するための命懸けの戦いに挑むのでした。



そして最後に、NETFLIXが生んだ大ヒットシリーズイカゲーム」を挙げないわけにはいきません。生活に困窮した人々が、多額の賞金をかけて昔ながらのゲームに命がけで挑む姿を描いたサバイバルドラマです。バツイチの父親で、高利貸しから追われているソン・ギフン(イ・ジョンジェは、地下鉄でスーツ姿の男性から大金が獲得できるゲームに招待されます。そのゲームでは、6つのゲームに参加し、それら全てをクリアしたものに高額の賞金が与えられるのだといいます。ゲーム「だるまさんがころんだ」が始まり、最初の脱落者が目の前で射殺され、その後も動いた参加者たちが次々と射殺されていきます。ゲームの参加者は456人で、1人脱落するごとに1億ウォンの賞金額が積み上げられていく、死のゲームでした。明らかに「イクサガミ」の蟲毒と通じていますね。



このように、さまざまな映画やドラマといった映像作品を次々と連想させる「イクサガミ」は稀代のエンターテインメント・コンプレックスといえます。作中のデスゲーム「蟲毒」は、数百人規模で展開する能力バトルとして構想され、さらに「京八流」の秘剣伝承、および明治政府内部の駅逓局と警察の対立を加えた三層構造で物語が設計されました。これらについて、原作者の今村氏は長編シリーズとしての持続性を確保する狙いがあったとしています。また作中ではガス灯・鉄道・電話など文明開化期の技術を取り入れつつ、銃火器がいかなる武芸をも凌駕するという時代性が強調されています。蟲毒の参加者が総勢292人いることから、今村は参加者の旅の工程表を作成したうえで登場人物たちの旅の進捗状況、一体誰がどこにいるのかスケジュール管理しながら執筆していたそうです。



わたしは「イクサガミ」全6話を一気見しましたが、第6話のラストで「第一章  完」の文字が大きく映されました。物語はまだ途中であり、愁二郎たちも目的地の東京に到達していないため、当然ながら続編となる第二章が制作されるのでしょう。国内外のNETFLIX配信ランキングでも上位に入っているため、打ち切りの心配も少ないと思われます。第一章から岡田准一阿部寛染谷将太横浜流星などの主役クラスが集結しており、続編の追加キャストにも注目です。わたしとしては、佐藤健鈴木亮平上戸彩杉咲花といった面々の参加に期待しています。でも一番観たいのは、やはりキムタクですね。木村拓哉岡田准一・二宮和成の旧ジャニーズ三大俳優が揃えば大きな話題となることは間違いないですし、北米や韓国でも大ヒットした鬼滅の刃に続いて、日本発のエンターテインメントが世界を席巻することでしょう。いずれにせよ、第二章が早く観たい!

 

*よろしければ、佐久間庸和ブログもお読み下さい!

 

2025年11月26日 一条真也