重要性高まる「グリーフケア」

一条真也です。
冠婚葬祭業界のオピニオン誌「月刊フューネラルビジネス」2024年12月号が届きました。特集「重要性高まる『グリーフケア』」冒頭に、わたしのコメントが掲載されました。グリーフケア資格認定制度を運営する一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団の理事長コメントです。


「フューネラルビジネス」2024年12月号の表紙

「フューネラルビジネス」2024年12月号より

 

グリーフケアは、2011年の東日本大震災を契機に国内でも注目を集めるようになりました。 そして今年の能登半島地震においてその重要性は高まりました。このグリーフケアはもともと、 1960年頃にアメリカではじまったとされています。 日本では、人が亡くなったときだけに必要とされる療法として広まっていますが、アメリカでは職を失ったり、失恋したり、所有物をなくす、あるいは環境や役割、自尊心の喪失(孤立感、名誉を失うなど)など、幅広い療法として普及しています。
日本人の自死者数は年間2万人以上いるのですが、自死のいちばん多い原因として鬱があげられます。 さらに、どういうときに鬱になりやすくなるのかをまとめたところ、圧倒的に多かったのが配偶者の死、次いで子どもの死、近しい人の死でした。そう考えると、葬儀のときに鬱の危険をもつ人のいちばん近くにいるのが、われわれ葬祭事業者です。 そのスタッフがどういう言葉をかけ、 どう振る舞うかで、鬱を防げるのではないかと考えました。
私がグリーフケアの存在を知ったのは、30年ほど前、 ヨーロッパの葬祭企業を視察したときです。ヨーロッパの葬儀場には、さまざまなブックレットが置いてあり、 そのなかの1つに遺族へのメッセージを集めた小冊子がありました。 キリスト教文化圏ですから聖書の引用がほとんどでしたが、 小冊子には“子を亡くした親” や “親を亡くした子”など、 亡くなった人や残された人の違いによって細分化されており、この考え方の素晴らしさに深く感銘を受けたのがグリーフケアに注力するきっかけとなりました。これを日本風にアレンジできないかと、愛する人を亡くした遺族に投げかける言葉として、2007年に愛する人を亡くした人へ(現代書林)を上梓しました。 当時はまだグリーフケアを理解していただけている方が少なかったのを覚えております。ただし、お亡くなりになられた(株)ラックの前社長の柴山文夫氏は「悲嘆に暮れる人を癒すのは葬祭事業者の責務であり、グリーフケアは今後ますます重要になっていく。 しかも働くスタッフの誇りにもなる」と応援していただきました。そこで当社サンレーでは10年に遺族の会 「月あかりの会」を発足させ、連動して集いの場所「ムーンギャラリー」を開設しました。グリーフケアには、 同じ思いの人たちが集まれる場を提供してあげることがいちばん大切で、同じように大切な方を亡くされた方々と安心して安全に語り合うことが重要なのです。月あかりの会には、当社で葬儀をされた方を中心に参加していただき、アロマテラピーやカウンセリング、ヒーリングミュージックなど「癒し」のお手伝いをしております。合同慰霊祭や体操、カラオケなどのカルチャー教室をはじめ、セミナーや講演会などを企画・実施する「学び」。バスハイクなど、旅行やレクリエーションを通し、和やかに楽しむ「遊び」を行なっています。
また、現在私が理事長を務める一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団には、21年6月に創設した「グリーフケア士」 という資格制度があるのですが、 グリーフケア士は1,000人を超え、 さらに上級グリーフケア士は32人が取得しており、感慨深いものがございます。
さらに、自著愛する人を亡くした人へ』(PHP文庫)を原案とする映画君の忘れ方が来年1月17日に全国公開されることになりました。 坂東龍汰さん演じる放送作家の青年には、西野七瀬さん演じる結婚間近の彼女がいました。ところが、亡くなってしまい、悲嘆に暮れているなかで、グリーフケアと出合い、立ち直っていくというストーリーです。一般の方々はもちろん、葬祭業界の方々にも鑑賞していただきたい映画で、グリーフケアの重要性を認識していただくきっかけになればと思っております。
ところで、 日本でいちばんグリーフケアを実践されているのは天皇陛下ではないかと思っております。 陛下は災害があると、すぐに被災地に向かわれ、膝を突き合わせて、被災者の話を傾聴されている。悲しみに暮れる被災者にとって、これほど励みになることはないでしょう。冠婚葬祭業はサービス業ではありますが、“ケア産業”“文化産業”としての位置づけにしなければなりません。そのためにはグリーフケアにしっかりと取り組んでいただくことが必要とされますので、今後も普及に努めてまいります。



2024年11月27日  一条真也