「アイミタガイ」

一条真也です。
2日の夜、日本映画「アイミタガイ」シネプレックス小倉で観ました。父の四十九日法要が無事に終わった夜に観たのですが、わたしの心境にドンピシャリのグリーフケア映画の名作で、泣けました。結婚式場と児童養護施設が主な舞台で、まさに、わたし向きの物語でしたね。92歳のピアニストを演じた草笛光子が素晴らしかったです!

 

ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「中條ていの小説を原作に、『日日是好日』などの黒木華が主演を務める群像ドラマ。亡くなった親友に携帯電話でメッセージを送り続けるウエディングプランナーの女性を中心に、さまざまな人たちの出会いの輪が広がる。監督は『彼女が好きなものは』やドラマ『こっち向いてよ向井くん』の演出などの草野翔吾。共演は中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵草笛光子など」

 

ヤフーの「あらすじ」は、「ウエディングプランナーの梓(黒木華)は亡くなった親友・叶海(藤間爽子)のスマートフォンにメッセージを送り続けていた。一方、叶海の両親の優作(田口トモロヲ)と朋子(西田尚美)は養護施設から娘宛てのカードを受け取る。そして、娘のスマートフォンにメッセージが届いていることに気づく」です。

 

映画のタイトルにもなっている「アイミタガイ」とは何か? 「相身互い」と書きますが、「相身互い身」を省略したものです。「同じ境遇や身分の者どうしは、互いに同情し助け合うべきであるということ。 また、そういう間柄のこと」をいいます。 特に「武士は相身互い」という言い方で、よく知られています。辞書を引くと、類語として「互助」があると出ていました。これまた、わたしにドンピシャリではないですか!

 

映画「アイミタガイ」の主人公は黒木華が演じるウエディングプランナーの梓で、その親友が藤間爽子が演じる叶海なのですが、叶海は海外でのバス転落事故で亡くなります。その四十九日の日に彼女の両親に、児童養護施設から亡くなった叶海宛にお礼のカードが届いたことがすべての発端でした。「すべての秘密が繋がる時、温かな涙が溢れ出す。」は映画のキャッチコピーですが、いろんな偶然が重なり合って、最後には大きな感動が待っています。

 

人の出会いは運命を大きく変えますが、その不思議な働きを「縁」と呼ぶのでしょう。わたしは、ブログ「ライフ・イットセルフ」で紹介した2018年のアメリカ映画を思い出しました。すべての出来事が必然的につながっており、仏教における「縁」を連想させる作品です。「無縁社会」という言葉がありますが、仏教の考えでは、この世はもともと「有縁社会」なのです。すべての物事や現象は、みなそれぞれ孤立したり、単独であるものは1つもありません。他と無関係では何も存在できないのです。すべてはバラバラであるのではなく、緻密な関わり合いをしているのです。この緻密な関わり合いを「縁」と言うのです。

 

 

「縁」の不思議さ、大切さを誰よりも説いたのが、かのブッダです。ブッダは生涯にわたって「苦」について考えました。そして行き着いたのが、「縁起の法」です。縁起とは「すべてのものは依存しあっている。しかもその関係はうつろいゆく」というものです。 モノでも現象でも、単独で存在しているものはないと、ブッダは位置づけました。この考えは、主に華厳経に代表される華厳思想で説かれています。拙著図解でわかる!ブッダの考え方(中経の文庫)でも紹介しましたが、「帝釈(たいしゃく)の網」という、華厳の縁起思想を巧みに表現した比喩があります。帝釈とは「帝釈天」のこと。もともとは「インドラ」というヒンドゥー教の神ですが、仏教に取り入れられ、仏法および仏教徒の守り神になりました。 その帝釈天が地球上に大きな網をかけたというのです。

 

『華厳経』『楞伽経』 (現代語訳大乗仏典)

『華厳経』『楞伽経』 (現代語訳大乗仏典)

 

 

地球をすっぽり覆うほどの巨大な網が下りてきたわけで、当然わたしたちの上に網はかかりました。1つ1つの網目が、わたしたち1人1人です。網目にはシャンデリアのミラーボールのようにキラキラ光る「宝珠」がぶら下がっています。つまり、人間はすべて網目の1つでミラーボールのような存在としたのです。この比喩には、きわめて重要な2つのメッセージがあります。1つは、「すべての存在は関わり合っている」ということ。もう1つは、個と全体の関係です。全体があるから個があるわけですが、それぞれの個が単に集合しただけでは全体になりません。個々の存在が互いに関わり合っている、その「関わり合いの総体」が全体であると仏教では考えるのです。網目の1つが欠けたら、それは網にはなりません。

 

結婚式場と児童養護施設の他に、もう1つ、この映画には、重要な役割を果たすものがありました。LINEです。LINEが普及してかなりの時間が経過していますが、このSNSのツールがこれほど人と人との縁に深く関わっていることを示した作品を他に知りません。「LINEは韓国に情報が流れるから使わない」などと言うような人もいますが、やはり現代人のコミュニケーションには絶大な影響を与えていることは明らかな事実です。あなたには、毎日のようにLINEを交換する相手、もしくは長い年数にわたってLINEを交換し続けている相手はいますか? いたとしたら、あなたとその人は深い縁で繋がっているのではないでしょうか。そのことを映画「アイミタガイ」は優しく教えてくれます。

 

2024年11月3日  一条真也