一条真也です。
7月7日は「七夕」ですね。七夕は星に願いをかけるロマンティックな年中行事です。今から14年前、2010年の7月7日、わたしはある願いを星にかけました。
わたしが14年前にかけた願いとは、神道・儒教・仏教の日本三大宗教の第一人者と対談するというものでした。その目的は「日本人の心の秘密を明らかにすること」。ブログ「混ざり合った日本の私」に書いたように、日本人の「こころ」は神道・儒教・仏教の三本柱によって支えられているというのがわたしの考えです。そして三宗教には、それぞれに最高の入門書があります。神道は、『神道とは何か』鎌田東二著(PHP新書)。儒教は、『儒教とは何か』加地伸行著(中公新書)。そして仏教の最高の入門書がブログ『私だけの仏教』で紹介した本であります。
3年前の2021年7月7日はコロナ禍の真っ最中でしたが、わたしは、『儒教とは何か』の著者で、わが国における儒教研究の第一人者である加地伸行先生と対談させていただきました。ブログ「儒教講演」で紹介した2012年7月13日の初対面から9年後に、ついに長年の夢が叶いました。加地先生とわたしは、孔子、『論語』、『孝経』、儒教、三礼、拱手礼、祖先祭祀、葬送儀礼、天皇儀礼、孟子、吉田松陰、西郷隆盛、北一輝、三島由紀夫などのテーマを語り合いました。
『論語と冠婚葬祭』(現代書林)
また、加地先生とは「日本人で最も論語を理解した人物は誰か?」というテーマで聖徳太子、徳川家康、渋沢栄一、安岡正篤といった人々についても意見を交換させていただきました。そして、現代日本の家族葬に代表される「薄葬」を話題に葬儀の意義について語り合い、最後は「家族」の本質というものを考察しながら、無縁社会を乗り越える方策などを求めました。加地先生との会話の中から、「冠婚葬祭はなぜ必要か」という問いの答えも見つかりました。対談の内容は『論語と冠婚葬祭』(現代書林)にまとめられ、出版されました。
次に、2023年3月8日、わたしは『神道とは何か』の著者で、神道研究の第一人者である宗教哲学者の鎌田東二先生と「神道と日本人」をテーマに対談しました。これまでにも鎌田先生とは何度か対談やトークショーやパネルディスカッションなどで御一緒しています。最初は、『魂をデザインする』に収録されている1990年11月でした。そのときに初めて鎌田先生にお会いしたので、わたしたちの親交も33年になります。わたしたちは大いに意気投合し、義兄弟の契りを結びました。今回の対談は、三分の一世紀を共に生きてきたわたしたち魂の義兄弟の1つの総決算となりました。
『古事記と冠婚葬祭』(現代書林)
対談は、松柏園ホテルの貴賓室で行われました。対談は5部構成で、1「神道とは何か」、2「神道と冠婚葬祭」、3「現代社会と神道」、4「神話と儀礼」、5「注目すべき人々との出会い」となっています。最初の「1.神道とは何か」では、●「カミ」とは何か●日本人が畏れ敬ってきたものは何か●神道の起源(鎌田先生の縄文説、一般的な弥生説等)●神道での“まつり”と“いのり”の意味と役割●国学→日本民俗学→冠婚葬祭互助会●現代でも身近な神道的要素●現代サブカルチャーにも生きる神道的色彩(アニメ・漫画『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『鬼滅の刃』など)について語り合いました。その内容は、『古事記と冠婚葬祭』(現代書林)にまとめられ、出版されました。
「仏教」の第一人者・玄侑宗久先生と
そして、今年の5月29日、わたしは『私だけの仏教』の著者で、芥川賞作家で福聚寺住職である玄侑宗久先生と対談させていただきました。玄侑先生は日本で最も有名な僧侶であります。2006年12月24日のクリスマス・イヴでの初対面から18年後の対談実現でした。ついに長年の夢が叶い、感無量です。玄侑先生は、これまでに、瀬戸内寂聴、五木寛之、山田太一、養老孟司、中沢新一、佐藤優、日野原重明、木田元、山折哲雄、鎌田東二といった各界を代表する錚々たる方々と対談をしてこられました。そんな中に小生を加えていただき、まことに光栄でした。玄侑先生との対談からは、日本仏教および葬儀の未来も垣間見えた気がしました。
「七夕」といえば、ブログ『中途半端もありがたい』で紹介した対談集に収められた人類学者の中沢新一氏との対談「無常からの再出発」で、玄侑先生は七夕について興味深いお話をされています。玄侑先生と中沢氏は「東北の文化」について語り合っておられましたが、中沢氏が「東北の文化そのものが、死や再生のことをとても大切にしている。それに夏には死霊が戻ってくる。死者と生きている人間が一緒になるという、このふたつが東北の文化の重要なところでしょうね」と述べています。また、中沢氏が「仙台の七夕祭りは、死者の霊を呼ぶためのものだ」と玄侑先生がTV番組の中で発言していたことを紹介すると、玄侑先生は「旧暦では7月15日がお盆だったわけですね。江戸時代になって、それが13、14、15の3日間に拡張されますが、7月7日が七夕で、ちょうどお盆の1週間前なんですよ」と語っています。
七夕について、玄侑先生は「たまたま中国から星まつりが輸入されて、これが日本ではお盆のプレ行事になった。お盆に帰ってくる先祖を迎えるための目印に、七夕には竹を立てる習慣になっていくんです。星への願いごとを短冊に書きますけど、あれは星じゃなくて、先祖の神々なんです。日本では亡くなった人はまず先祖と呼ばれますね。しかし50年もたつとそれが祖霊神になり、そこから役割に応じていろんな神の名前で降りてくる。だから、先祖と神とがひとつながりなんですね。陸前高田に動く七夕という行事がありますが、あれはまさに死者を迎えるためのものですよね」と述べています。拙著『リメンバー・フェス』(オリーブの木)で、わたしは死者を迎える祭りのことを「リメンバー・フェス」と名付けましたが、じつは七夕も リメンバー・フェスだったのです!
14年前の七夕で星に祈った「神道・儒教・仏教の日本三大宗教の第一人者と対談する」という願いは、玄侑先生との対談実現によって叶いました。加地伸之先生との対談本『論語と冠婚葬祭』、鎌田東二先生との対談本『古事記と冠婚葬祭』に次ぐ第三弾となる対談本も現代書林から刊行予定です。神道・儒教・仏教は「日本人の心の三本柱」というのはわが持論ですが、ついにその三本柱が揃いました。まことに光栄です。神道・儒教・仏教の第一人者であるお三方との対談は、必ずや冠婚葬祭文化の振興に大きく寄与すると信じています。そして、今年の七夕に願う内容は「世界各地で続いている戦争が終結しますように」「能登半島地震の被災者の方々が安心して暮らせますように」「両親が健康で長生きできますように」、そして「日本人が冠婚葬祭を大切にしますように」です!
2024年7月7日 一条真也拝