「怪物」

一条真也です。
日本映画「怪物」シネプレックス小倉で観ました。カンヌ映画祭脚本賞を取ったそうですが、「この映画の脚本のどこがいいの?」と思ってしまうほど、つまらなかったです。父親を亡くした母子家庭の少年と、父親から虐待される父子家庭の少年の物語です。2つのグリーフが交錯しているわけですが、そこに深みは感じられませんでした。タイトルも内容に合っていないと思いました。


ヤフー映画の「解説」では、「『万引き家族』などの是枝裕和が監督を務め、脚本を『花束みたいな恋をした』などの坂元裕二、音楽を坂本龍一が担当したサスペンス。けんかをした子供たちの食い違う主張をきっかけに、社会やメディアを巻き込む騒動が起こる。『万引き家族』などの安藤サクラや『友罪』などの永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、田中裕子などが出演する」と書かれています。

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「息子を愛するシングルマザーや生徒思いの教師、元気な子供たちなどが暮らす、大きな湖のある郊外の町。どこにでもあるような子供同士のけんかが、互いの主張の食い違いから周囲を巻き込み、メディアで取り上げられる。そしてある嵐の朝、子供たちが突然姿を消してしまう」

 

なんというか、この映画、嫌なシーンの連続でした。担任教師から一人息子が体罰を受けたと思ったシングルマザーが小学校に乗り込む場面があるのですが、そのときの教師たちの対応が特に嫌でしたね。じつは、わたしは以前、北九州市教育委員会の委員になってほしいとの依頼を受けたことがあります。そのときは多忙を理由にお断りしたのですが、気の短いわたしが教師たちのノラリクラリとした対応を前にしたら絶対にキレていたと思うので断って正解でした。そのときは父兄担当の教育委員を依頼されましたが、モンスターペアレントも苦手なので、やはり断って正解でした。教育の現場というのは一筋縄ではいきません。現在、わたしは母校である福岡県立小倉高校の評議委員の代表を務めていますが、「先生方とコミュニケーションを円滑にするのは、なかなか難しいな」と感じています。


「怪物」には2人の少年が登場しますが、1人は学校でいじめられています。もう1人はいじめられっ子とプライベートでは仲が良く、山奥に放置されている古い列車の車両を秘密基地に改造したります。天井から星のオブジェが吊るされた列車の車両は、まるで宇宙を走る「銀河鉄道」のようでした。そして、夢中で遊ぶ2人の姿はジョバンニとカンパネルラを連想させました。でも、彼らは学校では親友であることを隠します。親友がいじめられても無視します。わたしが小学生の頃、クラスでいじめがありました。そのとき、担任の先生が「いじめを見て見ぬふりをするクラスメイトも同罪だ」と怒っていたことを思い出しました。そわたしは、現在日本中を騒がしている故ジャニー喜多川氏の性加害問題も同じだと思いました。ジャニーズ事務所所属のタレントは性加害の事実を知っていたようですが、それに対して沈黙し、後輩のジュニアたちを犠牲にした行為はジャニー氏と同罪という見方があります。


ネタバレにならないように注意しながら書きますが、この「怪物」のテーマそのものがジャニー氏の性加害に深い関係がありました。映画の中で何度か「怪物だ~れだ?」という声が流れますが、もしジャニーズ事務所の合宿所で同じ声が流れたら、ジャニーズJR.の少年たちはきっと「ジャニーさん!」と答えたことでしょう。それを想像したら、たまらない気持ちになりました。「怪物」に出演した子役人の演技は素晴らしいものでしたが、ブログ「TAR/ター」ブログ「MEMORY メモリー」ブログ「EO イーオー」ブログ「ウーマン・トーキング 私たちの選択」で紹介した映画などなど、最近は何の映画を観てもジャニー氏の性加害問題を連想してしまう事実に愕然としました。このままでは、わたしのシネマライフは確実に歪んでしまいます。困ったものです。


「怪物」はカンヌ映画祭コンペティション部門に選出されましたが、ブログ「ベイビー・ブローカー」で紹介した2022年の韓国映画から2年連続、7回目(カンヌ国際映画祭への出品自体は9回目)となります。「ベイビー・ブローカー」ではエキュメニカル審査員賞、そして主演のソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞。これまで、「誰も知らない」(2004年)で主演を務めた柳楽優弥が最優秀男優賞、 ブログ「そして父になる」で紹介した2013年の作品で審査員賞、 ブログ「万引き家族」で紹介した2018年の作品では最高賞であるパルム・ドールに輝いています。「怪物」はコンペなど主要部門の授賞式前に発表される独立賞のクィア・パルム賞と脚本賞を受賞しました。しかしながら、いかにもカンヌ好みの社会派テーマに寄せた「怪物」のオチにはガッカリしました。「そこまでして、カンヌで受賞したいの?」と思いました。

 

2023年6月4日  一条真也