「月刊終活」トップインタビュー 

一条真也です。
「月刊終活」6月号(鎌倉新書)が届きました。ブログ「『月刊終活』取材」で紹介したトップインタビューの記事が7ページにわたって掲載されています。

「月刊終活」2023年6月号

 

冒頭の見開きカラーページでは、鎌倉新書小林史生CEOとわたしのツーショット写真とともに、「これからの葬儀に欠かせないグリーフケア」「ウェルビーイング経営で目指すコンパッション企業」「株式会社サンレー代表取締役社長 佐久間庸和氏」と書かれています。また、「業界を牽引するトップに、事業成長の裏側やビジネスのポリシー、業界への思いなどを聞く『TOP Point of view ~トップインタビュー』。58回目の今回は、株式会社サンレー代表取締役社長佐久間庸和氏にご登場いただいた。愛する家族を亡くした方に寄り添うグリーフケアウェルビーイングをいち早く提唱、実行。お葬式のイノベーションを見据えながら、佐久間社長が描く未来展望とは」というリード文が書かれています。

「月刊終活」2023年6月号

 

インタビュー記事の本文は、「葬儀は新しい世界へ旅立つ『人生の卒業式』」の小見出しで以下のようなインタビュー内容が掲載されています。 
小林:葬儀とはなにか、改めて佐久間社長のお考えをお伺いできますでしょうか。
佐久間:人の死とは人生を卒業することであり、葬儀とは「人生の卒業式」です。卒業式は別れでもありますが、新しい世界への旅立ちでもあります。葬儀を何のためにするかというと、1つは亡くなった方の魂をケアするため、もう1つは後に残された遺族の心をケアするためです。 遺族の不安定な「こころ」を安定させるためには「かたち」が必要で、それが遺族にとってのお葬式という儀式なのです。
年齢を重ねると体が動かなくなってきたり、耳が遠くなってきたりと不安になります。還暦や古希などのお祝いがありますが、これは「祝い」であることが何よりも大切です。あなたは悲しい存在や不幸な存在ではない、祝われるべき存在ですよと確認できます。そして最も不安に感じるのが死です。死への不安を払拭するためには、同級生や知人・友人のお葬式に参列するのがいいと思っています。参列を重ねるうちに自然に死を受け入れ、死への不安を落ち着かせてくれるのです。愛する家族を亡くした遺族の方にとっても、惜別の不安や悲しみをうまく鎮めてくれる、安定させてくれる最たるものがお葬式だと考えています。
ある意味で、葬儀とは究極の自己表現の場です。最近見た葬儀の中であの人らしいお葬式だったなと思ったのはアントニオ猪木さんです。赤い闘魂タオルをみんなで巻いて、『炎のファイター 〜INOKI BOM-BA-YE〜』で送り出して、まるで千両役者のようでした。私はスポーツ選手や芸能人などがなぜ華やかで有名だったかと言うと、多くのファンの方々に支えられてきたからだと考えています。そのファンには亡くなった時に亡くなったことを知る権利があり、悲しむ権利があると思っています。最近では亡くなって数週間経ってから知らせたり、すでに身内で葬儀を済ませているケースが増えて残念です。猪木さんの訃報は亡くなられた日にすぐ発信されましたし、少年時代から猪木さんに大変思い入れがあった私も非常に悲しみました。
また、石原慎太郎さんも大変印象に残っています。コロナ禍ということもあり葬儀は家族葬でしたが、そのあとご家族が海で散骨をされました。弟の石原裕次郎さんが亡くなった時に、湘南の海への散骨を望んでいましたが、当時は墓埋法があって叶いませんでした。あの時、慎太郎さんがどう尽力しても叶わなかったことが、時を経て慎太郎さんが海に還ったと思うと大変感慨深く、慎太郎さんらしいなと思いました。こういうことが大切なのです。スーパースターではなくても、一人ひとりどなたにでもその方のストーリーや生き様があるのです。あの人らしいと言われるお葬式をして欲しいと思います。

「月刊終活」2023年6月号

 

また、「長年にわたるグリーフケアへの真摯な取り組み」の小見出しで、インタビュー内容が掲載されています。
小林グリーフケアの具体的な取り組みについて教えてください。
佐久間:当社ではグリーフケアの重要性を一貫して訴えてきました。そして業界でも資格認定制度が立ちあがり、グリーフケアへの意識が高まっています。「グリーフケアは商売とどう結びつくか」とか「売上が上がるのか」などの言葉を耳にしてきましたが、私はグリーフケアがなかったら葬儀というものが存続していかないと考えています。人が人を弔ったり、お送りするおもてなしの産業ですから、冠婚葬祭業ほど勉強やインテリジェンスが必要な仕事はありません。宗教知識だけではなく、花や器、料理に至るまで意識や作法など幅広い知識が求められるため、それを形にしたいと思いました。
ピーター・ドラッカーは「あらゆる産業は知識化していく」といっていますが、これは葬儀社にも当てはまります。国家試験や司法試験のような資格認定試験制度が必要だと思い、まずは厚生労働省認定葬祭ディレクター技能審査「1級葬祭ディレクター」の日本一になろうと考え、それは実現しました。しかし、試験内容を見たら幕張りや司会・接遇の技術と学科試験が中心で、これだけで葬儀の資格と言っていいのか、もっと大切なことがあるのではないかと感じました。そこで、抜け落ちてしまっていた心の部分をグリーフケアの資格認定制度として立ち上げたのです。現在、社内に142名の有資格者がいますが、100人以上の有資格者がいるのは当社だけです。また、全国で10名しかいない上級グリーフケア士も2名在籍しています。(2023年4月時点)
小林:葬儀に携わる者はエキスパートであるという前提に立ってらっしゃるのですね。
佐久間:業界に人材が集まらないという声も聞きますが、私は葬儀ほど素晴らしい仕事はないと思っています。私は命には続きがあると考えていますが、何回生まれ変わってもこの仕事がしたいですね。
小林グリーフケアが必要な方々を集められて会を開かれたりしているそうですね。
佐久間大阪府公益社さんの「ひだまりの会」で勉強させていただく機会があり、当社でも2010年にグリーフケアサポートのための会員制組織「月あかりの会」をスタートさせました。「月あかりの会」は当社で葬儀を行われた喪主やお子さまなどの遺族会で、イベントやセミナー、慰霊祭などの催しを行っています。現在のべ1万5,000人ほどの会員がいます。また、催しを行っていく中で生まれたのが「うさぎの会」で、自分たちの力でグリーフケアをしたいという方々が自発的に集まり、大切な方を亡くされた方同士で話したり、ふれあいながらグリーフケアを行っていく自助グループです。

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また、「ウェルビーイングの先にコンパッションがある」の小見出しで、インタビュー内容が掲載されています。
小林:「ウェルビーイング(Well-being)」という概念を経営理念として掲げられたきっかけはなんでしょうか。
佐久間:この数年、ウェルビーイングという言葉がバズワードのように非常に流行っていますが、当社では40年前に経営理念に取り入れた思想です。ウェルビーイングとは、身体的にも精神的にも社会的にも健康で良好な状態をいいますが、最初は身体的な健康だけが一人歩きしていました。約40年前に、現在の佐久間進代表取締役会長が九州大学名誉教授の池見酉次郎先生(故人)と日本心身医学協会を設立しましたが、池見先生より「これからは何もやる気が起こらずに自殺に至る恐ろしいうつ病という病気が増える」という話を聞きました。当時、まだ日本ではうつ病がそれほど認識されていなかったのですが、当社ではアメリカを参考にヨガやマインドフルネスなどを取り入れたり、心身医学を学んで、うつ病をいかに減らしていくかを考えていくようになりました。その伝統が現在のグリーフケアにも繋がっています。
われわれが何のためにグリーフケアをするかと言えば、自死を減らすのが一番の目的です。厚労省が毎年自死者数を発表していますが、葬儀に携わっていると実際にはそれよりもっと多いと感じています。自死の原因で最も多いのはうつ病で、そのうつ病発症の原因は配偶者との死別が多いのです。日本人の自死を減らすにはうつ病を減らさなければならないし、うつ病の発症を配偶者の死が引き起こすのであれば、ご遺族の最も近くで葬儀のお世話をしている我々に何かできないかと考えたわけです。そこで、各セレモニーホールにグリーフケア士を配置し、ご遺族の方たちに寄り添えたら、自死を減らすことができるのではないかと思い至りました。
最近のウェルビーイング・ブームはハッピーな印象が強く、それはそれで構わないのですが、何か大切なことが抜け落ちているような違和感がありました。何が抜け落ちているかと言えば、「死」や「死別」や「グリーフ」です。これらを含んだ上での健康でなければ意味はなく、まさにそういった考え方が『コンパッション(思いやり)』なのです。冠婚葬祭業はウェルビーイング産業であるとかコンパッション産業だとか言われていますが、「月あかりの会」や「うさぎの会」、当社が開催している囲碁大会や俳句コンクールなどがウェルビーイングでありコンパッションにあたると考えています。ウェルビーイングとは何かを40年間考え続けた答えがコンパッションということです。
小林:なるほど。そこから「コンパッション都市」のどのような点に注目されたのでしょうか。
佐久間アメリカでは「コンパッション都市」という共同体が増えています。配偶者を亡くしてお一人になった方、末期ガン宣告を受けた方などが同じ場所に集まり、老・病・死・死別の喪失を受け止め、支え合いながら生きていく町が生まれています。それを主導しているのが行政と葬儀社で、フューネラルカンパニーがコンパッション都市の中核になっているのです。コンパッション都市ではどのようなことが行われているかと言えば、やはりグリーフケアです。これまで当社がしてきたことと同じです。だから私は北九州市をコンパッション都市にしたいと考えています。
北九州市は日本の政令指定都市の中で最も高齢化が進行しています。日本は世界一高齢化が進んだ国ですから、 北九州市は世界一の高齢化都市ということです。コンパッション都市を作る上で大切なのは、コミュニティづくりです。「お葬式をする施設」よりも「お葬式もできる施設」が必要なのです。紫雲閣は友引の日に友引映画館という映画の上映イベントを開いたり、笑いの会を開いたり、碁を打ったり、俳句を詠んだりと、普段から足を運んでいただけるコミュニティホールとしても運営しています。ぜひ普段から紫雲閣に来ていただいて、たくさんの思い出を作って、なじみのある場所から旅立って行くというお葬式を実現したいと思っています。それはある意味では葬儀のイノベーションであり、セレモニーホールのアップデートとも言えるでしょう。

「月刊終活」2023年6月号

 

さらに、「思いやりから生まれるハートフル・サイクル」の小見出しで、インタビュー内容が掲載されています。
小林:貴社が掲げる、“CSHW”のハートフル・サイクルとはなんでしょうか。
佐久間:“CSHW”とはCompassion(思いやり)→Smile(笑顔)→Happy(幸せ)→Well-being(持続的幸福)を意味しています。お客様だけでなく社員にもハートフル・サイクルを提供していきたいと思っています。
今年、北九州市の成人式で振袖に墨汁をかけられるという事件が起こりました。当社の松柏園ホテルで振袖をお貸ししたお客様も被害にあい、成人式のあとに予定していた一人暮らしのおばあさまに晴れ着を見せに行くことができなくなってしまいました。私のところに振袖のクリーニング代などの弁償はどうしたらいいかという相談が来ましたが、災難にあわれた被害者なのだからクリーニング代などは頂かずに、新しい振袖をお貸しすることになりました。その対応に感動されたお客様がテレビの取材で話したところ、当社にも取材が殺到し、松柏園ホテルのホームページへのアクセスが1日で140倍になりました。また後日、ホテルで新しい振袖を試着している時に出会った方に、残念な事件があったけれども、これから振袖を着ておばあさまに会いに行くと話したところ、その方が大変感動されて、その場で結婚式の申し込みをいただきました。
一生に一度の成人式に心の傷が残ってしまうところを、当社のコンパッションが上書きをして良い思い出にしていただくことができました。それを見ていた周囲の方にも幸せになっていただきましたし、成人式の衣装は2年先まで予約でいっぱいになりました。無償で提供したコンパッションでお客様にスマイルになっていただき、その話が広がったことで、みんなのハッピーがウェルビーイングへと繋がっていったハートフル・サイクルのひとつの好例です。
また、当社では児童養護施設のお子さんに成人式や七五三の衣装を無償で提供しています。児童養護施設で20歳を迎えたお子さんは成人式にはあまり出席しないそうです。友達は晴れ着を着ていて、自分だけ私服で行くわけにもいきません。そういったお子さんのために何かできないかと、数年前から無償で晴れ着を提供することにしました。成人式というのは、社会や施設の先生に成人になったことを感謝しながら社会へ独り立ちしていくためのものです。七五三や成人式といった通過儀礼は「あなたがこの世に生まれたことは正しい」ということを伝える肯定の場であり、「あなたの成長をみんなが祝っているよ」ということを伝える場でもあると考えています。七五三や結婚式、葬儀などは全て人間尊重のための大切なセレモニーだと考えています。
実は当社の社名である「サンレー」には3つの思いが込められています。天地や万物を生み育むという神道の「産霊(むすび)」への畏敬の念を表す「産霊」、冠婚葬祭の基本である儀礼を讃える「讃礼」、そして太陽の光である「SUNRAY」という意味です。この「SUNRAY」には太陽のように常に明るく、健康で幸せな社会を目指すとともに、富める人にも貧しき人にも等しく冠婚葬祭を提供させていただきたいという願いが込められています。太陽は万物に等しく光を降り注ぎ、あらゆる生きとし生けるものに生存のためのエネルギーを与えています。それは他者を幸せにするというコンパッション、すなわち「思いやり」の精神そのものです。

「月刊終活」2023年6月号

 

そして、「新しい縁が生む葬儀のイノベーション」の小見出しで、インタビュー内容が掲載されています。
小林:最新の著書では“お葬式のアップデート”、”お葬式のイノベーション”とビジネスマンでも大変分かりやすいワードで表現されていますが、今後お葬式はどのような変化をしていくべきとお考えでしょうか。
佐久間:もちろんこれまでのような仏式などの葬儀も大切ですが、著書『永遠葬――想いは続く』で新しい葬儀のイノベーションとして提供したのが海洋葬や月面葬、宇宙葬です。月面葬や宇宙葬にはロマンがあってぜひ実現したいと考えています。エンディング産業展にも出展し、アメリカでいち早く宇宙葬を推進しているのがエリジウム・スペース社です。ハッブル望遠鏡を開発した元NASAの技術者でもあるトーマス・シベCEOが宇宙葬を始めたきっかけというのが、私の著書『ロマンティック・デス〜月を見よ、死を想え』を読んだからだそうです。お互いにご縁がつながり、来日したトーマス・シベCEOとお会いすることができました。
宇宙葬にはまだまだ困難なことも多いですが、実現に向けてこれからの展開に希望を持っています。海洋葬は当社の場合、全国にある当社のセレモニーホールで葬儀をされた方が、それぞれの節目に慰霊祭を行い、沖縄の海に散骨するものです。ただ、海洋葬、樹木葬宇宙葬、月面葬を私は永遠葬と名づけていますが、永遠葬が日本の葬儀のアップデートに繋がるとは思っていません。永遠葬はお葬式の代わりという位置づけではないからです。葬儀の大事な要素のひとつはどういう人が参列し、どう送られるかということで、今必要なのは参列者のイノベーションです。
残念ながら葬儀の参列者は減り、血縁や地縁が希薄化しているのは事実です。しかし、葬儀の参列者が少なくなって、このまま葬儀が廃れていいとは思いません。当社では新しい縁を作るために様々な取り組みを行っています。お葬式にどういう方が参列しているかをみると、カラオケ教室やゴルフなど趣味の会で一緒だった方が多く集まっています。私はこれを「好縁(こうえん)」と名づけ、これからも色々な縁を構築していきたいと考えています。
当社が開催している囲碁大会には全国から何千人も集まります。俳句コンクールも日本中から応募があります。他にも映画上映会や読書クラブなど、たくさんの縁を様々な方法で集めています。「縁のある人」とは相手が亡くなった時にお葬式に行く人で、そういった縁を新たに生みだしています。現在最大の縁となりそうなのが、悲縁(ひえん)で結ばれている「月あかりの会」「うさぎの会」のグリーフケアグループです。構成メンバーが亡くなると、みなさん必ず参列されます。元々悲しみを元に集まっている方々は、血縁や地縁を超える可能性のある大きな縁だと思っています。
小林:最後に、同じ業界のみなさんへのコメントをいただけますでしょうか。
佐久間:寺院が減ってきているとは言われますが、セレモニーホールがすべてその代わりになるとは思っていません。時代も変わり寺院の運営も大変ですが、その大変な部分や足りない部分をセレモニーホールや互助会、葬儀産業が補完し、供養産業全体を支えていけたらと思っています。当社はグリーフケアやコミュニティホールの運営などの役割を多く果たしていますが、宗教者には決してなれません。宗教家の方は、これからもぜひ宗教者としての誇りを持って進んでいただきたいと思っています。

 

2023年6月1日  一条真也