一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「汗」です。



「天才とは、1%の霊感と99%の汗のことである」とは、あまりにも有名な発明王エジソンの言葉です。白熱電球、蓄音機、活動写真その他数多くの画期的な発明をなしとげたエジソンは万人が認める天才であったにもかかわらず、努力を重んじました。彼はひとたび実験に取りかかれば、文字通り寝食を忘れ、時間を超越してそれに没頭しました。



「成功の秘訣は?」と訊かれて、エジソンは「時計を見ないことだ」と答えたといいます。それゆえに夜が来て暗くなり実験に支障が出るのを非常に嫌い、それが電灯を発明する大きな原因になったとも言われています。知恵遅れの子と思われ、小学校を退学させられたエジソンが発明王と呼ばれるまでになったのは、やはりそうした努力に次ぐ努力の結果でしょう。



あの松下幸之助なども経営の天才であったと思われていますが、彼ほど努力の重要性を説き続けた人はいません。彼は言いました。能力は60点でもいい。しかし誰にも負けない熱意がなければいけない。そして、何よりも努力をすることが大切である、と。以前、某社長が「知恵ある者は知恵を出せ、知恵なき者は汗を出せ、それもできない者は去れ」と社員たちに言っていたことがあります。松下はその言葉を聞いて、「あかんな、潰れるな」とつぶやき、それから、「本当は、まず汗を出せ、汗の中から知恵を出せ、それができない者は去れと、こう言わんといかんのや。知恵があっても、まず汗を出しなさい。本当の知恵はその汗の中から生まれてくるものですよ、ということやな」と言いました。



その会社は数年すると、やはり潰れてしまったといいます。もともと知恵のある人でも、その知恵がそのまま世の中で通用するかといえば、実際には難しいと言えるでしょう。学者や評論家の意見が現実には通じず、机上の空論だと感じることがよくあるように、その知恵は社会の荒波で揉まれなければいけないのです。最初に「知恵を出せ」と言ってしまっては、社員は机の前に座って、とにかく知恵を搾り出そうとします。しかしそんな知恵は、社会の波に揉まれていないから、本物ではありません。松下幸之助は、「塩の辛さ、砂糖の甘さというものは、何十回、何百回と言葉で教えられても、本当にはわからんやろ。なめてみて、初めてわかるものや」とよく言っていたそうです。



「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助は、「汗をかいてこそ、本物の知恵が生まれ、人を説得することができる。感動させることができる。動かすことができる。だから迷わずに、とにかく努力をすることである」と言いたかったのではないでしょうか。なお、「汗」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2023年5月2日 一条真也