ウェルビーイング&コンパッション

一条真也です。
17日の早朝から松柏園ホテルの神殿で恒例の月次祭が行われました。わが社は「礼の社」ですので、何よりも儀式を重んじるのです。新型コロナウイルスの新規感染者もずいぶん減少してきましたが、全員マスクを着けてソーシャルディスタンスを十分に配慮しました。


月次祭のようす


まだまだ感染対策への配慮を!


拍手を打つ佐久間会長


わたしも柏手を打ちました

 

皇産霊神社の瀬津神職によって神事が執り行われましたが、祭主であるサンレーグループ佐久間進会長に続いて、わたしが玉串奉奠を行いました。一同、会社の発展と社員の健康・幸福、それに新型コロナウイルスの感染拡大が終息することを祈念しました。わたしと一緒に参加者たちも二礼二拍手一礼しました。儀式によって「かたち」を合わせると、「こころ」が1つになる気がします。

「天道塾」の最初は、もちろん一同礼!

冒頭、挨拶する佐久間会長

 

月次祭に続いて、同ホテルのバンケット「グランフローラ」で天道塾が開催されました。冒頭、佐久間会長が登壇して挨拶をしました。会長は、「最近、『ウェルビーイング』という言葉をよく聞くようになりました。わが社が37年前から使ってる言葉です。慶應義塾大学の前野隆司さんという先生の『ウェルビーイング』という本を読みましたが、明治維新から太平洋戦争の終戦までに77年の時間が流れています。その終戦から77年後が2022年でした。昨年は『ウェルビーイング元年』などと呼ばれているようですが、大きな時代の変革を感じます。今日は、ウェルビーイングとコンパッションについて、社長がこれから1時間、大事なことを話しますので、しっかり聴いて下さい」と語ってから降壇しました。


コバルトブルーのマスク姿で登壇


マスクを外しました

 

それから、わたしが登壇しました。今日の持ち時間は1時間です。コバルトブルーの不織布マスクをつけたわたしは、最初に「今年に入って、 サンレーグループは絶好調です! 北九州市の振り袖墨汁事件での松柏園ホテルのコンパッション対応は日本中に感動の嵐を巻き起こしましたし、 紫雲閣も北九州・大分・宮崎で過去最高記録を出すなど、勢いが止まりません。『陽はまた昇る』という祈りが実現したかのような実感がありますが、今日はさらに サンレーグループが明るい未来を拓いていくための話をしたいと思います」と述べました。

最初に「WCとは何でしょうか?」と問いかけ


WCという陰陽の「産霊(むすび)」を!

 

次に「WC」という言葉を見せて、「これは、どういう意味だかわかりますか? トイレでもワールドカップでもありません。Wはウェルビーイングで、Cはコンパッションです」と言いました。このところ、コンパッションについての話をしてきたのですが、世間ではウェルビーイングが大きな話題になっています。わたしは、これまでウェルビーイングを超えるものがコンパッションであると考えていましたが、この2つは矛盾しないコンセプトであり、それどころか2つが合体してこそ、わたしたちが目指す互助共生社会が実現できることに気づきました。「ウェルビーイングが陽なら、コンパッションは陰。そして、陰陽を合体させることを産霊(むすび)といいます」と述べました。

ウェルビーイングとは何か

SDGsからウェルビーイング

 

ウェルビーイング(well−being)」が時代のキーワードになっています。「SDGs(Sustainable Development Goals)」は世界的に有名ですが、これは「持続可能な開発目標」という意味で、国連で採択された「未来のかたち」です。SDGsは健康と福祉、産業と技術革新、海の豊かさを守るなど経済・社会・環境にまたがる17の目標があり、2015年の国連総会で全加盟国が合意しました。そして、2030年までにそのような社会を実現することを目指しています。SDGsは、2030年までという期間限定なのです。それ以降のキーワードはというと、「ウェルビーイング」だと言われています。意味は、「幸福な存在、相手を幸福にする存在」ということになります。SDGsの17の項目を包括する概念といってもいいでしょう。

ウェルビーイングという思想


熱心に聴く人びと

 

ウェルビーイングは、WHO(世界保健機関)憲章における、健康の定義に由来した思想である。その定義とは、「健康とは、たんに病気や虚弱でないというだけでなく、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態」というものです。しかし従来、身体的健康のみが一人歩きしてきました。ところが、文明が急速に進み、社会が複雑化するにつれて、現代人は、ストレスという大問題を抱え込みました。ストレスは精神のみならず、身体にも害を与え、社会的健康をも阻みます。健康は幸福と深く関わっており、人間は健康を得ることによって、幸福になれます。ウェルビーイングは、自らが幸福であり、かつ、他人を幸福にするという人間の理想が集約された思想と言えるでしょう。

ウェルビーイングの源流を探る

 

島薗進先生から教えていただいた『現代スピリチュアル文化論』伊藤雅之著(明石書店)という本によれば、ウェルビーイングとは何よりも「持続的幸福」であり、「心と体のつながり」「自然との調和」「超越的存在とのつながり」「ありのままの自己の変容」によって成り立ち、「心の平安」を志向しています。ウェルビーイングの文化的潮流は「マインドフルネス(瞑想)」「ヨーガ」「心理セラピー」などですが、最後の心理セラピーは「グリーフケア」とも深く関わっています。そして、「ありのまま」というウェルビーイングのメッセージを表現した歌に、ビートルズの「Let It Be」、SMAPの「世界に一つだけの花」、ディズニーアニメ映画『アナと雪の女王』の主題歌「Let it Go~ありのままで~」などがあります。イメージが明確になりますね。


まさに「互助共生社会」のモデル

 

最近、ウェルビーイングを具現化した施設がNHKで紹介されました。ブログ「Share金沢」で紹介した施設です。この施設を知ったのは、佐久間会長から教えられて観た「NHKシリーズ ウェルビーイング 第1回「LIFE SHIFTにっぽん リンダ・グラットンが見た北陸の幸せ」においてでした。番組の中で、ブログ『LIFE  SHIFT(ライフ・シフト)』で紹介した世界的ベストセラーの著者であるリンダ・グラットンが日本の北陸を訪れて、総合的な幸福としての「ウェルビーイング」を探求するという内容でしたが、その最大の鍵となる施設がShare金沢だったのです。ここは、高齢者、大学生、病気の人、障害のある人、分け隔てなく誰もが、共に手を携え、家族や仲間、社会に貢献できる街です。かつてあった良き地域コミュニティを再生させる街です。いろんな人とのつながりを大切にしながら、主体性をもって地域社会づくりに参加します。ウェルビーイング施設でもありますが、わたしは「コンパッション都市のモデルでもあるな」と感じました。


37年前のわが社のウェルビーイング宣言

熱心に聴く人びと

 

ウェルビーイング」といえば、わが社が約40年前に経営理念に取り入れた思想です。社内報の名前も「Well Being」でした。当時のサンレー社長であった佐久間進会長は九州大学名誉教授の池見酉次郎先生(故人)と日本心身医学協会を設立し、日本における心身医学の啓蒙・普及に努めましたが、そのときのコンセプトが「ウェルビーイング」でした。1986年の創立20周年には「Being!ウェルビーイング」というバッジを社員全員が付け、社内報の名前も「Well Being」でした。当時の社長であった佐久間会長の先見の明に驚いています。40年前は、「ウェルビーイング」という言葉を知っている人はほとんどいませんでした。今まさに「ウェルビーイング」が時代のキーワードになっており、わが社の先見性に驚かれた方も多いようです。その思想は、佐久間会長の著書『わが人生の「八美道」』(現代書林)、拙著『リゾートの思想』(河出書房新社)、『老福論』(成甲書房)などに詳しく述べられています。


松柏園グランドホテルについて

サンレーグランドホールについて

 

そして、サンレーウェルビーイング思想は、1986年にオープンした松柏園グランドホテルで具現化されました。プールをはじめ最新の設備を備えたスポーツクラブやカルチャーセンターも備えた同ホテルはまさに「ウェルビーイングの殿堂」でした。現在はサンレーグランドホールに生まれ変わりましたが、グランドカルチャーセンターなどは継続されています。また、日本最大級の葬祭施設である北九州紫雲閣も併設され、前代未聞の高齢者複合施設として知られています。数年前に、経産省が新時代のシルバービジネスとして調査・研究したのが奇しくもShare金沢サンレーグランドホールの両施設でした。サンレーグランドホールには約3000坪の遊休地もあり、いずれはShare金沢のような多世代共生のコンパッション・センターが作られれば素晴らしいと思います。



これが「コンパッション」だ!!

 

そこから、「コンパッション」の話へと移りました。まずは、ACジャパンのCM「寛容ラップ」を紹介して、「叩くより、讃え合おう」というメッセージを訴えました。そこから「競い合うより、思いやり」として「コンペテションよりコンパッション」というメッセージを示しました。「コンパッション都市」とは、老・病・死・死別の喪失を受け止め、支え合うコミュニティですあり、グリーフケアを中核とした都市です。コンパッションとは、平たく言えば「思いやり」であり、仏教の「慈悲」「利他」、儒教の「仁」、キリスト教の「隣人愛」にも通じます。つまり、拙著『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)で提示したブッダ孔子やイエスの思想に源流が求められるとして、それらをまとめた「人類十七条」を紹介しました。


WCの包括メッセージとは?


さまざまな縁で「有縁社会」を再生しよう!

 

ウェルビーイングとコンパッションを包括すると、「ありのままの自分を大切に、他人に優しく生きる」というメッセージが浮かび上がってきます。そこから、ミッションとしての「人間尊重」とアンビションとしての「天下布礼」に言及し、サンレーズ・アンビション・プロジェクト(SAP)の実現を訴えました。わが社の目的の1つである「有縁社会の再生」ですが、そのためには碁縁・句縁・球縁・旅縁・読縁・映縁・歌縁・笑縁・酒縁といったさまざまな趣味の縁の構築が求められます。現代の日本社会は「無縁社会」などと呼ばれますが、残念ながら血縁や地縁が希薄化していることは事実です。ならば、それに代わるもろもろの縁を育てていかなければなりません。

WCの具体的手法としてのGM

 

そして、コンパッションとは仏教の「慈悲」ということ。ミャンマー仏教が最重要の経典とする『慈経』はブッダの最古の教えとされていますが、わたしは『慈経 自由訳』(三五館、現代書林)を上梓しました。この中には「コンパッション」の根本思想が説かれています。また、ミャンマー仏教は瞑想の本場だとされますが、瞑想は現在「マインドフルネス」と名前を変えて一大ムーヴメントを起こしています。GAFAをはじめ、ヤフー、ゴールドマンサックスなどの一流企業が軒並みマインドフルネスを取り入れています。わが社がサポートしている日本で唯一のミャンマー式仏教寺院「世界平和パゴダ」も「マインドフルネス・センター」として位置づければ大きな話題を呼ぶかもしれません。わたしは、「WCの具体的実現は、GMで!」と言いました。GMのGとは「グリーフケア」で、Mとは「マインドフルネス」のことです。


CSHWで行こう!

輝ける未来を創造しましょう!

 

そして、経営学用語に「PDCA」というものがあることを紹介しました。Plan(計画)→ Do(実行)→  Check(評価)→  Act(改善)という意味です。わたしたち サンレーグループは、「CSHW」を提供したいと願います。それは、Compassion(思いやり)→  Smile(笑顔)→  Happiness(幸せ)→  Well‐being(持続的幸福)のハートフル・サイクルです。ブログ「優しさの上書き」で紹介した二十歳の女性が振り袖を着て松柏園の庭園で写真撮影していたとき、それを見ていた新規のお客様(親御様)が「ぜひ、松柏園で子供の婚礼をお願いしたい」と予約して下さいました。それを知ったわたしは、「優しさの上書き」が「幸せの連鎖」を起こしたと思いました。


最後は、もちろん一同礼!

 

松柏園のコンパッション対応に端を発する一連の出来事によって、わたしが長年想い続けてきたハートフル・サイクルがついに起動した実感があります。最後に、わたしは「ハートフル・ソサエティとしての互助共生社会が実現するその日まで、心を1つにして頑張りましょう! 共に歴史の大きな流れに身を投じて、輝ける未来を創造しましょう!」と訴えてから降壇しました。CSHWで行こう!

 

天道塾の後、聴講者の感想を読みながら、「ウェルビーイング」と「コンパッション」について考えました。「ウェルビーイング」という考え方が生まれたのは1948年ですが、そこには明らかに戦争の影響があったと思います。また、ビートルズの「LET IT BE」のメッセージをアップデートしたものがジョン・レノンの「MAGINE」であることに気づきました。つまり、ウェルビーイングには「平和」への志向があるのだと思います。実際、ベトナム戦争に反対する対抗文化(カウンターカルチャー)として「ウェルビーイング」は注目されました。現在、ロシア・ウクライナ戦争が行われていますが、このような戦争の時代に「ウェルビーイング」は再注目されました。



一方、「コンパッション」の原点は、『慈経』の中にあります。ブッダが最初に発したメッセージであり、「慈悲」の心を説いています。その背景には悲惨なカースト制度があったと思います。ブッダは、あらゆる人々の平等、さらには、すべての生きとし生けるものへの慈しみの心を訴えました。つまり、コンパッションには「平等」への志向があるのだと思います。現在、新型コロナウイルスによるパンデミックによって、世界中の人々の格差はさらに拡大し、差別や偏見も強まったような気がします。このような分断の時代に、また超高齢社会および多死社会において、「コンパッション」は求められます。

心ゆたかな社会』(現代書林)

 

地球環境の問題は別にして、人類の普遍的な二大テーマは「平和」と「平等」です。その「平和」「平等」を実現するコンセプトが「ウェルビーイング」「コンパッション」ではないでしょうか?CSHWのハートフル・サイクルは、かつて孔子ブッダやイエスが求めた人類救済のための処方箋となる可能性があるのではないか? そんなことを考えました。後は、実行あるのみです!

 

2023年2月17日 一条真也