「バイオレント・ナイト」

一条真也です。
2月5日、16年ぶりに北九州市に新しい市長が誕生しました。その日、選挙会場で投票してから、シネプレックス小倉で映画「バイオレント・ナイト」を観ました。面白かったですが、サンタクロースの話なので、本当は昨年のクリスマス前に観たかったです。しかし、この映画、さすがにR―15指定の過激な内容です。ゆえに、クリスマスシーズンに上映するのはまずいということで、日本では日程を約1ヵ月遅らせての公開となったようですね。


ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「クリスマスプレゼントを届ける途中、3億ドル強奪計画に巻き込まれたサンタクロースの聖夜を描くバイオレンスアクション。『処刑山』シリーズなどのトミー・ウィルコラが監督を務め、『Mr.ノーバディ』などのケリー・マコーミックやデヴィッド・リーチらが製作を担当。サンタをドラマシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」などのデヴィッド・ハーバー、武装集団のリーダーを『潜入者』などのジョン・レグイザモが演じるほか、アレックス・ハッセル、アレクシス・ラウダー、ビヴァリー・ダンジェロらが出演する」

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、こう書かれています。
「クリスマスイブ、サンタクロース(デヴィッド・ハーバー)は子供たちにプレゼントを届けようと空を駆け回っていた。そのころ、ある豪邸で富豪一家がパーティーを楽しんでいるところへ、スクルージジョン・レグイザモ)率いる武装集団が金庫の3億ドルを狙って押し入り、一家を拘束する。一方、そんな事態とは知らずにこの豪邸に降り立ったサンタは、不運にも武装集団と鉢合わせしてしまう。彼はとっさに近くにあったクリスマスオーナメントを手に取り、悪党たちに反撃する」


「バイオレント・ナイト」、冒頭のBARでサンタクロースが飲んだくれるシーンはなかなか良いのですが、武装集団が一家を拘束するあたりはモタモタして、ちょっとイラッとしましたね。あと、主人公の女の子の両親が白人の父親と黒人の母親なのですが、なぜか最近の映画はこういう家族設定が多いですね。ポリコレというのでしょうが、白人夫婦とか黒人夫婦ではいけないのでしょうか? ディズニーでも過度のポリコレが批判を浴び、観客離れを起こしていますが、映画に政治を持ち込むのは好きではありません。白人と黒人とのハーフである娘は賢い少女ですが、サンタクロースの存在を信じる純粋さも持っています。


その女の子は映画「ホームアローン」(1990年)のファンなのですが、ホームアローン流の仕掛けで武装した敵を撃退するさまが愉快でした。「ホーム・アローン」は、M・カルキン坊やを一躍人気者にしたドロボー撃退ムービーです。ある一家が総出でパリに行くことになりました。ところが息子のケビンだけは、出発のどさくさで、独り屋敷に取り残されてしまいます。初めての一人暮らしに浮きたつケビン。そんなおり、留守だと思った2人組の泥棒が屋敷を狙ってきました。ケビンは家を守るため、男たちの撃退作戦に出るのでした。「バイオレンス・ナイト」のバイオレンス・シーンは、「ホームアローン」の血みどろバージョンといった感じでしたね。


愛と優しさのシンボルのようなサンタクロースが敵を殺しまくる映画は、これまでにもありました。サンタクロースが殺人鬼という内容で話題になったスラッシャーホラー「悪魔のサンタクロース/惨殺の斧」(1984年)がそうでしたし、同作をリメイクした「サイレント・ナイト 悪魔のサンタクロース」(2016年)もあります。カルト的人気を誇るオリジナル版へのオマージュを交えつつ、殺人サンタが血の制裁を繰り広げる様子を残虐描写満載で描きました。クリスマスイブの田舎町で、保安官とその不倫相手、そしてポルノ撮影中の男女が殺害される事件が起こります。現場に残されたビデオカメラの映像にはサンタクロースにふんした人物が映っており、女性保安官オーブリー(ジェイミー・キング)らは捜査に乗り出します。しかし、謎の殺人サンタの犠牲者は増え続けるのでした。



また、サンタクロースがクリスマスを守り抜くために、彼の命を狙う暗殺者と激しいバトルを繰り広げるアクション映画で、「クリスマス・ウォーズ」(2021年)というのもありました。サンタクロースのクリス・クリングル(メル・ギブソン)は、妻のルースと共に何百年もの間、雪深いアラスカの森の奥深くで暮らしてきました。しかし、最近はその存在を信じない子供が増えたこともあり、政府からの報酬が大幅カットされてしまいます。クリスは自ら経営するおもちゃ工場の財政危機を脱するため、アメリカの陸軍から依頼された兵器の製造を受託するのでした。国陸軍vs最凶暗殺者vs武闘派サンタクロースの激闘がエキサイティングな作品でした。


「悪魔のサンタクロース/惨殺の斧」やそれをリメイクした「サイレント・ナイト 悪魔のサンタクロース」は、サンタが人を殺しまくるというスラッシャー・ホラー映画でした。しかし、メル・ギブソンが財政に苦しみながらも殺し屋と戦うサンタを演じた「クリスマス・ウォーズ」は心優しいサンタクロースのイメージを崩してはいません。本作「バイオレント・ナイト」のサンタも多くの敵を殺しますが、サンタクロースの持つ本質的な部分は損なっていないと言えるでしょう。サンタクロースは子どもにプレゼントを与える存在ですが、「バイオレント・ナイト」では手負いのサンタが何とかして女の子とその家族を守ろうとします。その上で、サンタクロースを演じたデヴィッド・ハーバーがワイルドなサンタをしっかり演じています。この映画がユニークなのは、バイオレンス・アクション映画でありながら、ハートフルなサンタクロース映画としても鑑賞できる点ですね。


サンタクロース映画といえば、その名も「サンタクロース」(1985年)が思い出されます。昔々、おもちゃを作る妖精の国でサンタクロースが誕生しました。そして、時は流れて現代、サンタの人気を妬んで飛び出していった妖精が悪徳玩具会社の社長と手を組んで悪巧みを考えています。それを知ったサンタクロースは、子供たちの夢を守るために急いでそこへ向かうのでした。雪に埋もれた北の国の美しい世界から始まるこの映画は、まるでディズニーの古典的名作シリーズ「シリー・シンフォニー」のような味わいがあります。優しい老夫婦がサンタクロースになる経緯など、子どもたちが思い描いていたサンタクロースのイメージそのままの映画でした。昨今のCGを見慣れた目には特撮や合成が古臭く感じるかもしれませんが、それもまた良しです。ヘンリー・マンシーニの音楽とシーナ・イーストンの主題歌も素晴らしいです。


しかし、わたしが一番好きなサンタクロース映画は、ジョージ・シートン監督の古典的名作「三十四丁目の奇蹟」(1947年)と、それをリメイクしたJ・ヒューズ監督の「34丁目の奇跡」(1994年)です。ニューヨーク34丁目のデパートに現れたサンタクロースを巡って巻き起る騒動を描いた究極のハートフル・ムービーです。母子家庭に育つスーザンは、キャリアウーマンの母親ドリーの教育方針で、サンタクロースを信じない現実的な子供に育っていました。そんな彼女が6歳なったときのクリスマス、彼女は自称サンタクロースを名乗る老人に出会います。そして、それはクリスマスとサンタクロースの存在を問う騒動に発展するのでした。サンタを信じる人々の心が奇跡を起こす感動の物語です。わたしはこの物語が好きでオリジナルもリメイクも、それぞれ何度も観ました。クリスマスが来るたびに観返したくなります。


「サンデー新聞」2009年12月20日号

 

ニューヨークとサンタクロースといえば、新聞の「ニューヨーク・サン」の社説がサンタクロースの実在問題を取り上げた『サンタクロースっているんでしょうか?』という本を思い出します。サンタクロースのモデルは、4世紀のトルコに実在していたニコラウスという聖人です。裕福だった彼は、子どもたちにプレゼントを贈る優しい老人だったとか。ある意味では、サンタクロースは世界最高の有名人といえるのではないでしょうか。地球上の多くの子どもたちがサンタさんからのプレゼントを心待ちにしています。ところで、みなさんは、お子さんやお孫さんから「サンタさんは、いるの?」と聞かれたことはありませんか? 今夜は、聞かれませんでしたか? その答えは簡単。サンタクロースはたしかにいます! そして、『サンタクロースっているんでしょうか?』こそは、そのことを明らかにした本なのです。

 

 

タイトルは、バージニアという8歳の少女の問いです。この問いに、「ニューヨーク・サン」紙が社説として真剣に答えました。じつに、今から100年以上も前の実話です。同紙の記者だった著者は、少女に対して「見たことがないということは、いないということではないのです」と、やさしく語りかけます。愛、思いやり、まごころ、信頼・・・・・この世には、目に見えなくても存在する大切なものがたくさんある逆に本当に大切なものは目に見えないのだと記者は説きます。そして、サンタクロースとは、それらのシンボルだというのです。現代ほどサンタクロースの存在が求められる時代はありません。今度、お子さんやお孫さんから「サンタさんはいるの?」と聞かれたら、「もちろん、いるよ!」と答えてあげてくださいと、わたしは多くの方々に呼びかけています。

 

 

なお、フランスの作家サン=テグジュぺリは『星の王子さま』という物語を書きました。この名作に一貫して流れているテーマは、「本当に大切なものは目に見えない」というものです。ニューヨークに住んでいたこともあるサン=テグジュぺリは、『サンタクロースっているんでしょうか?』を読んでいたのではないでしょうか。わたしには、そう思えてなりません。なお、『サンタクロースっているんでしょうか?』も『星の王子さま』も、ともに拙著『心ゆたかな読書』(現代書林)で詳しく紹介しています。

心ゆたかな読書』(現代書林)

 

2023年1月6日 一条真也