『ほねがらみ』

ほねがらみ (幻冬舎文庫)

 

一条真也です。
『ほねがらみ』芦花公園著(幻冬舎文庫)を読みました。数カ月前、小倉の大型書店クエストを久々に訪れたところ、店頭で『異端の祝祭』というホラー小説を見つけました。民俗学カルトホラーとのことで興味を引かれて購入しました。その作家のデビュー作が本書です。


本書の帯

 

本書の帯には、「安易な気持ちで恐怖の実話を集めてはいけない」「ネットでバズった恐怖が、文庫化により、再び、拡散。」と書かれています。カバー裏表紙には、「『今回ここに書き起こしたものには全て奇妙な符合が見られる。読者の皆さんとこの感覚を共有したい』──大学病院勤めの『私』の趣味は、怪談の収集だ。知人のメール、民俗学者の手記、インタビューの文字起こし。それらが徐々に一つの線でつながっていった先に、私は何を見たか!? 『怖すぎて眠れない』と悲鳴が起きたドキュメント・ホラー小説」と書かれています。

 

 

著者は、東京都生まれ。2018年、小説投稿サイト「カクヨム」にて小説の執筆を始めました。2020年夏、ホラー長編「ほねがらみ」がツイッター上で大反響を呼びます。同作を改稿した本書で、2021年春作家デビュー。同年5月には角川ホラー文庫より第2長編『異端の祝祭』が刊行。怪談実話を織り交ぜたドキュメントホラー小説として高い評価を得ています。さらに、2022年4月には、同じく角川ホラー文庫から都市伝説カルトホラーの第3長編『漆黒の慕情』が出版されました。

 

 

本書の「解説――新世代ホラーの旗手、芦花公園の原点」の冒頭を、ライター・書評家の朝宮運河氏は以下のように書きだしています。
「近年日本のホラー小説がますます面白くなってきた。そう実感しているのは私だけではないだろう。長いキャリアを誇る中堅・ベテラン作家からここ数年でデビューした新鋭まで、多様な書き手がそれぞれ力のこもったホラー小説を毎月のように発表しており、書店に出かけると目移りがしてしまうほどだ」

 

 

朝宮氏の個人的感触によると、潮目が変わったのは、ブログ『ぼぎわんが、来る』で紹介した小説を2015年に澤村伊智が発表して鮮烈なデビューを飾ったあたりだとか。朝宮氏は、「その前後から実力と個性をそなえた書き手がホラー界にゾクゾク参入し、ジャンル内部を活性化させるとともに、読者の裾野を大きく押し広げたのだ。日本のホラーは今まさに、豊かな実りの季節を迎えている。芦花公園はそんなホラーの新時代を象徴するような書き手である」と述べるのでした。

 

 

『骨がらみ』には、さまざまな実話怪談が集められています。語り手の「私」は大学病院に勤務する男性医師。ホラーマニアで、怪談蒐集を趣味とする彼が、これまで見聞きしてきた不気味な話の数々を紹介するというスタイルです。「ダ・ヴィンチ」WEBのインタビューで、著者は「幾つかのエピソードを繋ぎ合わせると、背後に大きな構図が見えてくる、そんな謎解き要素のあるホラーが大好きです。たとえば三津田信三さんの『幽霊屋敷』シリーズや、小野不由美さんの『残穢』のような。まだ長い小説を書くことに慣れていないこともあり、連作形式の長編になりました」と語っています。

 

 

本書の冒頭に置かれた「読」という章には、マンガ家の木村沙織がオフ会で知り合った由美子という変わり者の女性から提供された4つの怖い話が収められています。最初の「ある夏の記憶」は、田舎の祖父母の家に遊びにいった少年が、深夜、物置から“白い何か”が出てくるのを見る話。2つめの「ある少女の告白」では、姉妹を見舞った悲劇が古風な文体で語られます。3つめの「ある学生サークルの日記」では、楽しいはずの合宿が不穏なものに変わっていきます。そして、4つめの「ある民俗学者の手記」には、地方の不気味な風習が報告されています。



一見独立しているように見える4つのエピソードは、実は互いにリンクする内容を持っていました。怪談の世界でレジェンドになっている稲川淳二は、怪談を集めていると別の話だと思っていた話が同じ話だったり、続きの話だったりすることがあると語ったことがあります。まるで考古学の遺跡調査みたいにバラバラになった壺の破片をくっつけるみたいだというのです。本書を読んで、稲川淳二の言葉を思い出しました。

 

続く「語」の章は、ある精神科医の症例研究資料の抜粋です。佐野道治は、出版社に勤める友人の頼みで、「実話系怪談コンテスト」の応募原稿を読むことになります。土俗的な恐怖を扱った原稿を読み進むうちに、彼もまた怪異に取り込まれてしまうのでした。続く「見」の章は、喘息の持病がある娘とともに田舎に移住してきたシングルマザー・鈴木舞花の手記です。母子が移り住んだ洋館風の家では、次第に奇妙なことが起こり始めます。

 

各章ごとに不条理な呪い、伝染する怪異、土俗の闇などが描かれて、ホラー小説として一気に読ませる力がありました。特に、情景描写に優れていると思いました。マンションのインターフォンの画面におぞましいものが映るくだりや、同じ平仮名の文字が延々と続くところは驚きもあって、ゾッとしました。ただ、本書が処女作ということもあって、文章力はまだ未熟な部分があると思いました。現実と幻覚の違いがあいまいなのも、わかりにくかったです。今後の課題ですね。それでも、澤村伊智以来の期待のホラー作家の登場に、ホラー大好きオジサンのわたしはワクワクが止まりません!

 

 

2023年2月5日 一条真也