さよなら、谷口正和さん

一条真也です。
16日、ブログ「令和4年を振り返って」で紹介した会社行事を終えてサンレー本社の社長室に帰ったら、1通のハガキが届いていました。ジャパンライフデザインシステムズ会長でマーケティングコンサルタントの谷口正和さんの訃報でした。享年80歳とのことですが、最近まで文通させていただいていましたので、大変驚きました。


生前の谷口正和さんと

 

故人は東急エージェンシーのご出身で、わたしの先輩でもありました。立命館大学大学院経営管理研究科教授、東京都市大学都市生活学客員教授も務めておられ、著書も多いです。わたしを講演会の講師に呼んで下さったり、御著書を送って下さったり、本当にお世話になりました。わたしが大学生の頃、谷口さんの『第3の感性』という本が出ました。分厚い本でしたが、活字が大きくて読みやすく、「コンセプト」という考え方に衝撃を受けたのを記憶しています。同書は、いま読み返しても学びの多い名著です。

 

第3の感性

第3の感性

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東急エージェンシーに入社したのも、谷口さんへの憧れが心の底にありました。わたしがプランナーの道を歩みはじめてからも、『ザ・貴族』とか『大観光時代』とか『幸福への階段』など、刺激に富んだマーケティングの本を次々に世に問われ、わたしはそれらの本を片っ端から読んでいきました。たしか、わたしが経営していたハートピア計画のプランナーだった東野和範君がエピック・ソニーから出ているカセットブックの仕事をしていたことから、谷口さんのカセットブック「コンセプトの未来」の収録にお邪魔したのが最初の出会いでした。この「コンセプトの未来」は、中谷彰宏さんなどにも多大な影響を与えたそうです。

遊びの神話』(PHP文庫)

 

「コンセプトの未来」のカセットブック収録後に谷口さんにご挨拶して雑談したとき、ちょうど、葬儀の話題が出ました。そのとき、谷口さんは「われわれは死を未来として生きている存在です」とおっしゃったのです。その言葉は、わたしに大いなるインスピレーションを与えてくれました。その後、拙著『遊びの神話』がPHPから文庫化されたとき、谷口さんは解説を書いて下さいました。1991年6月のことでしたが、その解説では、わたしのことを「人生なにゆえに楽しいか、幸福か。モノの豊かさをすでに通過してしまった氏の役割は、大きく到来しつつあるマインド・マーケティング時代の水先案内人であるのかもしれない。」と書かれ、最後に、「本書の中に私は二十一世紀を爪先立ってみる少年の姿を見た。」と締め括られています。憧れの人からこんなことを言われて、当時のわたしがどれだけ嬉しかったか、想像がつくでしょうか? それは、もう「光栄の至り」とはこのことでした。

 

幸福の風景

幸福の風景

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ブログ『幸福の風景』で紹介した2014年の谷口さんの著書の第1章「幸福な生き方」には、「いい死に方はいい生き方の結果」という項があり、深く共感しました。そこで谷口さんは、「死」について「死は循環構造の中の最後のバトンタッチであり、生涯をもって次世代に何を伝えたのか、何ができたのかが問われる瞬間でもある。それが生きるということの持つある種のロマンと言ってもよい。生ききることによる次世代への礎を大事にしていきたい」と述べておられます。また、「良い生き方」について、「良い生き方というのは他者貢献の視野を次の世代にまで広げ、それを考えて生きるということ。その生を全うし、死という最終到達点に笑顔で着地できるよう、生きていることへの感謝、生涯を生ききったら笑顔で死を迎えられることへの感謝を忘れないようにしていきたい」と述べておられます。いま、読み返すと、心に沁みます。

「発想の画帖」2010年10月5日

 

訃報ハガキには、「葬儀につきましては 故人の遺志により近親者のみで会い済ませました」「誠に勝手ながら故人の遺志により お別れの会は執り行わず ご弔問並びにご香典 ご供花 ご弔電の儀は固く辞退いたしたくお願い申し上げます」と書かれていました。わたしは、この文面を読みながら、かつて谷口さんがご自身のブログで『葬式は必要!』(双葉新書)を紹介して下さったことを思い出しました。本当は、谷口先輩のご葬儀、せめて「お別れの会」には参列したかったです。ご遺影に手を合わせて一礼をし、きちんとお別れをしたかったです。

 

 

数日前、最新刊『葬式不滅』(オリーブの木)をお送りしたばかりでしたが、先輩に読んでいただくことは叶わなかったようです。同書の最後に「コンパッション」について書きましたが、これまでコンセプトについて色々と教えて下さった故人に、わたしは「谷口先輩、『コンパッション』という究極のコンセプトに出合いました」と報告させていただきたかったです。謹んで、故谷口正和様の御冥福を心よりお祈り申し上げます。合掌。

 

2022年12月16日 一条真也