一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「想」です。



想像力とは創造力です。人間の「想い」は、これまで、さまざまな形で物理化してきました。いま、あなたの周辺を見まわしてみていただきたい。あなたの目にはいろんな物が見えるでしょう。パソコン、机、蛍光灯、テレビ、冷蔵庫などなど。それらの物は、すべて誰かの想像力がもとになって1つの物に作り上げられたのです。すなわち、その根底をなしている創作者の着想や思考をあなたは眺めているわけです。家具をこしらえ、窓にガラスをはめ、カーテンを作ったそもそもの初めは、人間の想像力からでした。



自動車も超高層建築も宇宙ロケットも、その他この世のすべての人工物は、人間の想像力から生まれたものです。アメリカの思想家R・W・エマソンは「われわれの行動の根源は想い、つまり精神である」と言いました。ある意味で、人間の心の中に絶えず描かれている思いや考えから組み立てられている「想像」というものは、人類進歩の源泉だと言えます。そして「想像」はやがて「理想」というものを心の中に形づくるのです。



もし人間に想像する能力がなく、漫然とただ生きているだけだとしたら、科学も哲学も芸術も宗教も、いや、あらゆる一切の人類の偉大な営みは生まれず、ましてや発展などしませんでした。ですから、想像力は理想を創る原動力であり、その重要性は人生の上で途方もなく大きいことがわかります。



人は誰でも想像します。シェイクスピアの『真夏の夜の夢』には「恋をする人、詩を思う人たちの胸の中はあの噴火山の煙のように、さまざまな想像で一杯である」と書いてあります。また、ゲーテは「想像の分量が豊富なときに書いたものは、期せずして、人の心を動かす力がある。そして、そういうものを、世間の人は名篇とか傑作とか言う。だから文豪とは、想像力を他人よりも豊富に持つ人のことである」と言っています。



文豪や発明家などは「想像力の富豪」なのです。では、富豪でない一般人が、その想像を現実化するにはどうすべきか。中村天風は「想像力を応用して、心に絶えず念願することを映像化して描くことによって、信念というものが確固なものになるんです」と語りました。心の中の映像化によって、想像から念願へ、そして信念となり、現実となる。アメリカ産の「思考は現実化する」式の成功哲学と同様です。東に中村天風、西にナポレオン・ヒルあり! 



同じ人間ですから、心の法則が東西同じなのは当然と言えるでしょう。企業における新商品や新サービスの開発、イノベーションも、その成功の根源は想像力にあります。ヒト・モノ・カネに先立つ本当の資本とは、人間の想像力なのです。なお、「想」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2022年12月5日 一条真也