一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「恩」です。

 

 

「恩」とは何でしょうか。この文字が最もよくその意味を表わしています。すなわち心の上の「因」という字は、口の中に大と書いてあります。檻の中に人を入れると「囚人」になりますが、この場合は人間がこのように大きくなって存在できるのは、必ず何かのお蔭によるものであるということを表わしています。したがって、それは誰のお蔭であるかということを考え、これを自覚することが恩を知るというものだ、と安岡正篤は述べています。


前野徹氏と


浜野安宏氏と

 

わたしは大学を卒業後、広告代理店に勤務し、その後独立してプランナーを経験してから、現在の冠婚葬祭会社の社長になりました。常に人的ネットワークが最大の資産となる職種に身を置いてきましたので、わたしにとって恩人というと、多くの人を紹介してくれた方々の顔が思い浮かびます。まずは広告代理店時代の社長であり、わたしの媒酌人でもある故前野徹氏。とにかく政財界の大物はすべて前野氏から紹介していただきました。次にプランナー時代には、浜野安宏氏や北山孝雄氏に多くの建築家などのクリエイターを紹介していただき、対談を通して知り合った宗教哲学者の鎌田東二氏には宗教家や学者の方々を紹介していただきました。

鎌田東二氏と


大迫益男氏と

 

東京から北九州に居を移してからは知人も少なく心細い思いもしましたが、北九州を代表する企業である(株)ゼンリンの取締役で、現在は(株)ゼンリンプリンテックスの会長を務められている大迫益男氏のおかげで随分たくさんの知り合いを得ることができました。本当に有難かったです。これらの方々には深く感謝し、年賀状や暑中見舞いはもちろん、盆暮れには何らかの気持ちの品を送らせていただいています。やはり恩は形にして表わさなければならず、それに鈍感な者は、新たな恩を得ることはできないように思います。

 

 

そして、恩と言えば何より自分をこの世に迎え入れてくれた親の恩を忘れてはなりません。仏教には、親の恩を身近に説いた「父母恩重経」というものがあります。わが社は冠婚葬祭を業とすることもあり、わたしは機会あるごとに「父母恩重経」に出てくるエピソードを社員に紹介し、親の恩の有難さを説きます。また、わが社の人事考課では「親孝行をしているか」というのが重要なチェック項目になっています。



課長以上は社長のわたしが面談の上、両親に対してどういう恩返しをしているかをヒアリングし、周囲からも情報を収集して、査定に反映させています。親の恩を忘れ、親をないがしろにするような者など、お客様や部下の心がわかるはずもありませんし、立派な仕事ができるはずがないからです。なお、「恩」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2022年10月28日 一条真也