「哭悲/THE SADNESS」

一条真也です。
東京に来ています。21日の会議は夕方の16時半からの開始だったので、それまでに映画を観ることにしました。新宿まで足を延ばし、新宿シネマカリテで台湾映画「哭悲/THE SADNESS」を観ました。タイトルからグリーフケア映画を連想したのですが、とんでもない超弩級のホラー映画でした。


ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
シッチェス・カタロニア国際映画祭のMidnight X-Treme部門に出品されたホラー。人が感染すると凶暴化する未知のウイルスがまん延した台湾で、決死のサバイバルに挑む人々の姿を描く。メガホンを取るのは、本作が長編デビューとなるロブ・ジャバズ。『運命のマッチアップ』などのベラント・チュウ、ジョニー・ワン、ラン・ウェイホァのほか、レジーナ・レイ、アップル・チェンらが出演する」

 

ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「謎の感染症“アルヴィン”に対処してきた台湾。感染しても風邪に似た軽い症状しか現れないことからアルヴィンに対する警戒心が緩んでいたが、突如ウイルスが変異する。感染者たちは凶暴性を増大させ、罪悪感を抱きながらも殺人や拷問といった残虐な行為を行い始める。こういった状況の中でジュンジョーとカイティンの二人は離れ離れになる。感染者の群れから逃れて病院に立て籠もるカイティンからの連絡を受け取ったジュンジョーは、たった一人で彼女の救出に向かう」


いやあ、久々に「すごいものを見せられた!!」といった感じですね。まったく救いがない。残虐シーンのオンパレードなのですが、個々の行為がエグイです。フライドポテトを揚げている鍋を頭からかけて、焼けただれた顔の皮膚を搔きむしる。相手の頭が粉々になるまで消火器で叩き続ける。中年男性が傘で女性の目を突いて、負傷した目の中に自分のペニスを挿入する。「よくもまあ、ここまでやるなあ!」と呆れるくらいに目を背けたいシーンの連続でした。ちなみに、傘で目を突く中年男を演じた俳優は西村雅彦に、突き刺される方の女性は渡辺直美にそっくりでした。女性は最初マスクをしていたのですが、もう渡辺直美そのもので、わたしはてっきり渡辺直美が台湾の芸能界に進出したのだと思ったくらいです。あと、主人公のジュンジョーという男性は格闘家の朝倉海にそっくりでした。朝倉未来の弟ですね。



「哭悲/THE SADNESS」の残虐シーンは凄まじいの一言で、かのルイス・ブニュエル監督の「アンダルシアの犬」(1928年)で剃刀で目玉を切り裂いた描写を思い出させるような、映画史に残るショック・シーンでした。ブログ「Ⅹエックス」で紹介したホラー映画も残虐な殺人シーンで話題になりましたが、この「哭悲/THE SADNESS」はそんなレベルではありません。大人と子どもぐらいレベルが違うスプラッター・ムービーでしたね。スプラッター・ムービーといえば、最近あまり怖い映画がありません。観客も残虐シーンには慣れっこになって、ポップコーンを食べながら観たりしています。しかし、この「哭悲/THE SADNESS」はポップコーンなんか食べる気にもならないほどグロいです。


グロいだけでなく、「哭悲/THE SADNESS」は怖いです。それも表面的な怖さではなくて、観客は心の奥底から湧き上がってくるような恐怖をおぼえます。それは人間という存在そのものに対する恐怖であり、人類という種の存在基盤を揺るがすような不安です。映画に登場する感染症“アルヴィン”は、感染者の攻撃欲、性欲、食欲といった本能を開放します。アルヴィンに感染したものは、誰かれ構わず近くの人間をレイプし、殺し、その死体を貪り食います。感染者たちはゾンビのようですが、ゾンビではありません。生きた人間です。生きた人間が狂犬病のようなウイルスに感染して狂暴化しているのです。レイプも殺人も人食も「人の道」から外れた行為ですが、そういう外道の行いが実際に横行するシチューエーションがあります。戦争です。戦争で、兵士たちは侵略地の女性をレイプし、相手を兵士を殺し、場合によっては敵や味方の亡骸を食糧として命を繋ぎます。すなわち、アルヴィンとは戦争のメタファーなのです!


そんな超危険なウイルスが「風邪と同じ」だと楽観視されて、国は政治や経済を優先させてきたことが何よりも恐ろしいですね。また、現在の日本だって、東京や大阪や沖縄で信じられない数の感染者が出ているのに、「風邪と同じ」だと楽観する人々が多く、何の行動規制も行われないのも恐ろしい。さらには、感染者3万以上の日の東京で最大の繁華街である新宿の地下の映画館がほぼ満員の中で、恐怖のウイルス映画を観たことも、よく考えたら恐ろしい。新型コロナウイルスは、2019年12月末頃に中国にて原因不明の肺炎報告がありました。その後、日本に入ってきて、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株、そしてオミクロンのBA.5株の存在が確認されています。これだけ短期間に変異を繰り返すウイルスならば、映画のアルヴィンのようなスーパー・クレイジーな変異株が出現しても不思議ではない気がしてきます。


新宿シネマカリテの入口


地下へ至る階段

 

2022年7月20日 一条真也