世界で一番小さな互助会

一条真也です。
17日に公開される「PLAN75」という究極の終活映画について調べていたら、「ようやく妻が死んでくれた」という衝撃的なタイトルのYouTube動画を見つけました。370万回以上も再生されており、「よくある炎上系かな」と思いながら何気なく観たところ、タイトルとはまったく逆のメッセージで感動しました。


この動画を投稿したのは、「妻が死に年金一人暮らしの65歳 byぺこりーの」さんという方です。「年金」と「一人暮らし」という2つのテーマで「年金一人暮らし」という動画を作成されちます。動画の概要欄には、「1つは老後の年金やお金を悩みについて、実際の年金受給者という立場から役立つ情報をお伝えします。そしてさらに老後をどうやって楽しく生きるか。もうすぐ老後生活、年金生活を迎える方達の参考になればと思います」と書かれています。そして、「もう1つのテーマは一人暮らしです。1人になってみて初めてわかる夫婦の素晴らしさ。2人で歩いた人生で経験したものは何物にも代え難いものです。他人のためにこんなに泣くことって夫婦以外にないと思います。まだ夫婦でいられる間に今気づいてほしいなと思うことを書いてます。偉そうに聞こえたらごめんなさいね」と書かれていますが、「偉そう」どころか、人生の先輩からの素晴らしいアドバイスだと思います。


結婚祝いの法螺貝を奏上する鎌田東二先生

 

先日、わたしの長女が結婚しました。新型コロナウイルス感染防止に万全の配慮をした上で結婚式および結婚披露宴を挙げさせていただきました。わたしが妻と結婚したのはもう33年も前ですが、娘を育て上げて無事に結婚させて、わたしたちは夫婦として一人前になったような気がしています。長女の結婚披露宴では、京都大学名誉教授で宗教哲学者の鎌田東二先生が乾杯のご発声を務めていただき、祝いの法螺貝まで奏上して下さいました。


長女の結婚披露宴でのわたしたち夫婦

 

わたしは鎌田先生ともう18年近くも「ShinとTonyのムーンサルトレター」というWeb往復書簡を交わしています。鎌田先生の愛称がTonyで、わたしがShinですが、ムーンサルトレター第207信で、鎌田先生は「Shinさん、最愛のご息女(長女)の麻佑さんと、大変優秀な京都大学工学部建築学科出身の一級建築士の貴大さんとのご結婚、まことにおめでとうございます。父としての熱い、熱い、大量の涙・涙・なみだ、たいへん共感できます。会場のみんながうれしいもらい泣きをしました。Shinさんのお気持ちがすべての会場の方々に伝わったとおもいます」と書いて下さいました。

涙ながらに妻への感謝を述べました

 

また、鎌田先生はブログ「長女の結婚披露宴2」の中で、わたしが「長女が生まれたときは、会社が危機的状況にありました。(中略)わたしは『これから、会社はどうなるんだろう?』『この子を無事に結婚させることができるだろうか?』と不安でいっぱいでした。でも、わたし以上に大きな不安をがあったはずなのに、何も文句を言わずに幼子を抱いて小倉までついてきてくれた妻が支えてくれました」と挨拶したことに触れられています。このとき、わたしの心の中には「夫婦は世界で一番小さな互助会」という考えが浮かんでいました。結婚しておいて良かったとしみじみ思うのは「病めるとき」と「貧しきとき」です。結婚というのは、そういう人生の危機を生き延びるための相互扶助システムだと思います。

愛する人を亡くした人へ』(現代書林)

 

わが社は、グリーフケアの普及に取り組んでいます。日本は自死大国ですが、自死の最大の原因は「うつ病」で、その最大の契機は配偶者との死別であると言われています。「ようやく妻が死んでくれた」の動画でも、投稿者の方の大きな喪失感が窺えます。拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)に、わたしは「配偶者を亡くした人は、立ち直るまでに5年はかかる」と書きましたが、まさにこの投稿者の方は5年の間、奥様を亡くされた喪失感を抱えて生きてこられました。わが社は、グリーフケアによって、少しでも悲しみが軽くなるお手伝いをさせていただければと願っています。


披露宴で祝辞を述べるサンレー東孝則専務

 

この動画をわが社の関係者各位に送ったところ、いろいろと考えさせる返信がありました。たとえば、東専務は「最初はなんと酷い夫か、と思いましたが奥さんを亡くされた喪失感、悲しみ、これからの人生への不安感が共感できます。グリーフケアの重要性を強く感じました」、黒木取締役は「良い動画でした。居て当たり前あって当たり前の日常的なものを失う喪失感は耐え難いものですね。今全てに感謝の気持ちになります」、小倉紫雲閣の橋本副支配人は「今ある日常生活を当たり前に過ごしていますが、改めて、自分の側にいる家族や友人の大切さと、近所の方や会社の方々へ日々感謝の気持ちを忘れずに大変心打たれる話しでした。今後もこの気持ちを大切にして参ります」と述べています。


わが社の上級グリーフケア士と

 

グリーフケア資格認定制度の第1期ファシリテーター(上級グリーフケア士)で、サンレーグリーフケア推進課の市原課長は「なにかとても寂しいという気持ちと切ない気持ちになりました。まだ生きているなら幸せということは頭ではわかっていても実感できるものでは無いと思います。この方は奥様を亡くされて現在を失ったことに気付き、気持ちの整理はつくものではないですが、自分の感情に対しどうしたら良いか途方に暮れているのだと思います。何がケアと感じるかは本人しかわかりませんが、この動画のように感じていることを表すのもケアになっているのだと感じました。私も少しは家族を大事にしたいと自分の中で考えます」と述べ、同じく第1期ファシリテーター(上級グリーフケア士)で金沢紫雲閣の大谷総支配人は「私自身、妻にしょっちゅう小言を言われて嫌な思いをする事ありますが、この動画見て考えさせられました」と述べ、第2期ファシリテーターである沖縄の那覇紫雲閣などの島袋支配人は「『ようやく妻が死んでくれた』は冒頭から衝撃でしたが、最後はなんだか納得できる動画でした。グリーフケアを学んでいる者としてはグリーフケアの大切さを改めて感じております」と述べます。


知人の金婚式で

 

極めつけは、北陸の総務課の伊藤課長で、「私は、妻をリスペクトしてます。そのような事を、今まで一度も思った事はないのですが。いつも、お互いに長生きしような、と話しております。この動画の作者が、最後に話している思いが現実だと思います」と述べています。素晴らしいことですね。わたしたち夫婦も長生きして、まずは12年後にささやかな金婚式を開きたいと思います。それにしても、この「ようやく妻が死んでくれた」という動画は、65歳の男性がラーメンを作って食べるだけの映像が延々と続くだけですが、そこに付けられたメッセージがインパクト絶大です。改めて、言葉の力の偉大さを痛感しました。最後に感動的な動画を投稿して下さった「ぺこりーの」さんに感謝いたします。ありがとうございました!

 

2022年6月17日 一条真也