「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」

一条真也です。東京に来ています。
19日、いくつかの打ち合わせを終えた後、ヒューマントラストシネマ有楽町で映画「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」を観ました。グリーフケアの要素もありましたが、全体的に静かな物語でした。「エイリアン」シリーズの強いヒロインの面影をまったく感じさせないシガニー・ウィーバーの渋い演技も良かったですが、ドラマよりも舞台となったニューヨークの魅力に目を奪われましたね。


ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
ジョアンナ・ラコフの回想録『サリンジャーと過ごした日々』を原作に描くヒューマンドラマ。J・D・サリンジャー担当の出版エージェントのもとで働く新人アシスタントが、ファンレターへの返信をきっかけに自分自身を見つめ直す。監督と脚本を手掛けるのは『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』などのフィリップ・ファラルドー。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などのマーガレット・クアリー、『エイリアン』シリーズなどのシガーニー・ウィーヴァーらが出演する」

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ヤフー映画の「あらすじ」は、「1990年代のニューヨーク。作家志望のジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、出版エージェンシーで編集アシスタントとして働き始める。上司マーガレット(シガーニー・ウィーヴァー)のもと、彼女は人気作家であるJ・D・サリンジャー宛てのファンレターの処理に追われる。手紙を読むうちに、ジョアンナは定型文を送り返すことに気が引けるようになり、個人的に手紙を返信し始める」です。

 

 

原作は、ジョアンナ・ラコフの『サリンジャーと過ごした日々』で、アマゾンの内容紹介には「『ジェリーだ。きみのボスに話があってかけたんだけどね』・・・わたしがとった電話の相手は、J.Ⅾ.サリンジャー。90年代、ニューヨーク。古き時代の名残をとどめる老舗出版エージェンシー。老作家の言葉に背中をおされながら、新米アシスタントが夢を追う。本が生まれる現場での日々を、印象的に綴った回想録」と書かれています。ジョアンナ・ラコフは1972年生まれ。オーバリン大学、ユニバーシティカレッジ・ロンドン、コロンビア大学を卒業。小説『A Fortunate Age』でデビューし、さまざまな賞を受賞。現在、マサチューセッツ州ケンブリッジ在住。


この映画、ネットでの評価はかなり低いです。最近は「ネット評価はやはり正しいかも?」と思うことが多いので、ちょっとだけ嫌な予感もしましたが、夢と現実とのギャップに悩みながらも、若い女性が自らの才能を信じて未来を拓いてゆくというポジティブな佳作でした。確かにドラマ的に盛り上がりには欠けますが、けっして失敗作ではないと思います。原題は「マイ・サリンジャーズ・イヤー」なので、「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」という日本版タイトルにつられて観ると期待外れの人もいるでしょうが、大好きなニューヨーク市立図書館やウォルドーフ・アストリア・ホテルやザ・アルゴンキン・ホテルなども登場して、わたしは楽しかったです。久々にニューヨークに行ってみたくなりました。


作家志望のジョアンナは、アメリカを代表する作家であるサリンジャーからアドバイスを励ましを受けます。昨今、ハリウッドではMETooが話題になりましたし、日本でも映画界での性加害が問題視されています。そんな中、映画と小説の違いはありますが、何の下心もなく若い女性にアドバイスするサリンジャーを素敵だなと思いました。自分も、彼のように無償で若い人を応援できる人間になりたいと思いました。91歳まで長生きしたわりには、サリンジャーは代表作の『ライ麦でつかまえて』をはじめ、『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとゾーイ―』『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア-序章』しか世に残していません。驚くほど寡作の小説家です。

 

 

サリンジャーの少ない著作の中でも、処女作『ライ麦畑でつかまえて』は、世界中で累計6500万部を突破し、現在でもその瑞々しさは失われることなく世界で毎年25万部ずつ売れ続けているという奇跡のベストセラー&ロングセラーです。20世紀を代表する「青春のバイブル」とさえ呼ばれています。時代を越え多くの若者に愛されてきた『ライ麦畑でつかまえて』ですが、数々のアーティストにインスピレーションをもたらしながら、80年代にアメリカで起きたいくつかの暗殺事件の犯人が愛読していたというセンセーショナルな出来事も起きています。いずれにしろ、各方面に影響を与え続けている一冊です。


2017年には、サリンジャーの伝記映画である「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」が作られました。ケネス・スラウェンスキーが2012年に上梓した評伝『サリンジャー 生涯91年の真実』が原作で、監督はダニー・ストロング、主演はニコラス・ホルトが務めました。サリンジャーのこれまで語られてこなかった謎に満ちた半生、そして小説の誕生秘話を描き出しています。20世紀半ばの華やかなニューヨークを舞台に若きサリンジャーが自分の作風を見つけ出そうと試行錯誤を重ねる姿、社交界のセレブとの恋の顛末、恩師との運命的な出会い、第二次世界大戦の最前線での経験によるトラウマにもがき苦しむ姿などを描き、「圧倒的な名声と富を手に入れながら、なぜその絶頂期に文壇から姿を消したのか?」の謎に迫った作品です。


「マイ・ニューヨーク・ガーデン」の主人公であるジョアンナは、マーガレット・クアリーが演じました。彼女の母親は、90年代の映画に数多く出演した女優のアンディ・マクダウェル。セレーナ・ゴメス、レイトン・ミースター、ケイティ・キャシディが主演を務めた2011年の映画「恋するモンテカルロ」で、セレーナが演じたグレースの母親役を務めています。父親はモデルのポール・クアリーで、アンディとポールは、マーガレットが5歳の時に離婚しています。モデルとして経験積んだ後、女優になった彼女は、ジャスティン・セロー主演のドラ「ザ・レフトオーヴァーズ」で、ジャスティン演じるケヴィンの娘役に抜擢。同作での演技が業界人の目に止まり、その後、ラッセル・クロウライアン・ゴズリングが主演した映画「ナイスガイズ!」で物語のカギを握る美少女を熱演し、有名に。そして、ブログ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で紹介したクエンティン・タランティーノ監督の大作に出演するのでした。

「ワン・ハリ」でワキ毛少女を演じたマーガレット

 

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」では、マーガレット・クアリーはカルト集団であるマンソン・ファミリーのメンバーを演じました。ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースに接近した少女プシーキャットの役です。運転中のブラッドの太ももに寝ころんだシーンでワキ毛を披露し、強烈な印象を残しています。今ではワキ毛用のウィッグが存在するため、演技のために体毛を伸ばす必要はないそうですが、60年代のヒッピーを演じるにあたり、マーガレットは自分のワキ毛を伸ばしたといいます。そのワキ毛シーンの印象が強いこともあり、「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」のジョアンナのような知的で思索的な役には違和感がありました。別にワキ毛が悪いわけではないのですが、あくまでイメージですね。彼女は現在27歳ですが、「ワン・ハリ」の出演女優なら、ダコタ・ファニング(28歳)の方がふさわしいのではと思いました。あくまでも主観なので、あまり突っ込まないで!

 

2022年5月20日 一条真也