『決定版 おもてなし入門』

一条真也です。
74冊目の「一条真也による一条本」紹介は、『決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)です。『決定版 冠婚葬祭入門』および『決定版 終活入門』に続く実業之日本社「決定版入門」シリーズの1冊です。


決定版 おもてなし入門』(実業之日本社

実業之日本社「決定版入門」シリーズの1冊です

 

サブタイトルは「ジャパニーズ・ホスピタリティの真髄」。表紙カバーには日本文化を象徴するアイコンである桜の花びらがデザインされています。また「観光立国のカギは、日本的なおもてなしの心にあり」「接客業・サービス業に求められる“日本的かつ世界標準”な礼の形をわかりやすく解説」と書かれた帯を外すと、これまた日本のシンボルである富士山のアイコンが姿を見せます。


帯を取ると、富士山のアイコンが・・・・・・

帯の裏では「目次」を紹介

 

本書の「目次」は、以下のような構成になっています。
はじめに 「おもてなしの時代
      〜こころのジパングを目指して〜」

第1章     「おもてなし」とは何か
      〜ジャパニーズ・ホスピタリティ
第2章     「おもてなし」のルーツを探る
      〜ホスピタリティの源流を求めて
第3章     日本人の「おもてなし」の心
      〜ハートフル・マインドのすすめ
第4章     経営にも必要な「おもてなし」感覚
      〜ホスピタリティ・マネジメントのすすめ
第5章     冠婚葬祭と「おもてなし」の作法
      〜小笠原流礼法の奥義
おわりに 「慈礼〜おもてなしの新しいコンセプト」



2020年のオリンピック開催地が東京に決定したとき、日本中が大きな喜びに包まれました。さまざまな人が行った東京招致のプレゼンテーションの映像も繰り返しテレビなどで流され、ネットでも再生されました。その中で、一番印象に残ったのが、滝川クリステルさんのプレゼンでした。アルゼンチン・ブエノスアイレスのIOC(国際オリンピック委員会)総会で東京がプレゼンテーションを行った際、滝川さんがIOC委員に東京招致を訴えました。流暢なフランス語と、ナチュラルな笑顔・・・・・・これ以上ない適役でした。
「皆様を私どもでしかできないお迎え方をいたします。
それは日本語ではたった一言で表現できます。
お・も・て・な・し』。それは訪れる人を心から慈しみ、お迎えするという深い意味があります。先祖代々受け継がれてまいりました。以来、現代日本の先端文化にもしっかりと根付いているのです。その『おもてなし』の心があるからこそ、日本人がこれほどまでに互いを思いやり、客人に心配りをするのです」



さらに、彼女は次のような具体例を挙げました。
「皆様が何か落し物をしても、きっとそれは戻ってきます。お金の入ったお財布でも、昨年1年間だけでも3000万ドル以上も現金が落し物として警察に届けられました。世界各国の旅行者7万5000人への最新のアンケートでも、東京は世界一安全な街とされました。他にも言われることは、公共交通機関も世界一しっかりしていて、街中が清潔で、タクシーの運転手さんも世界一親切だということです。その生活の質の高さはどこででも感じていただけます。
また、最高の文化にも浸っていただけます。世界最高峰のレストラン、ミシュランガイドでは星の数が多い東京。それらすべてが未来を感じられる街を彩っています。訪れたすべての方に、生涯忘れ得ない思い出を残すことでしょう」 



この滝川さんのスピーチを聞きながら、「おもてなし」という言葉を再認識した方が多かったのではないでしょうか。いわゆる「サービス」とも「ホスピタリティ」とも違った、日本独特の世界が「おもてなし」です。彼女が「お・も・て・な・し」と一字ずつ印を切るように発声してから、最後に合掌しながら「おもてなし」と言い直した場面には感動しました。彼女が合掌している姿に、IOC委員たちは「理想の日本人」を見たのではないでしょうか。東京の治安が良いこととか、公共交通機関が充実しているとか、街が清潔であるとか、そういった現実的な問題ももちろん大事です。でも、「おもてなし」という言葉、そして合掌する姿が日本をこれ以上ないほど輝かせてくれました。


サービスとホスピタリティ

 

さて、わたしは創業70周年を数える小倉の松柏園ホテルの三代目として生まれ、幼少の頃はホテル内に住んでいました。ですから、「おもてなし」という言葉は物心ついたときから耳にしていました。いま、わたしは株式会社サンレー という冠婚葬祭の会社を経営しています。冠婚葬祭の根本をなすのは「礼」の精神です。では、「礼」とは何でしょうか。それは、二千五百年前に中国で孔子が説いた大いなる教えです。平たくいえば、「人間尊重」ということです。


「ハートフル」と「礼」

 

わが社では、「人間尊重」をミッションにしています。本業がホスピタリティ・サービスの提供ですので、わが社では、お客様を大切にする“こころ”はもちろん、それを“かたち”にすることを何よりも重んじています。こうした接客サービス業としては当たり前のことが、一般の方々の「おもてなし」においても、きっと何かのヒントになるのではないかと思います。
日本人の“こころ”は、神道・仏教・儒教の三つの宗教によって支えられており、「おもてなし」にもそれらの教えが入り込んでいます。「おもてなし」は、日本文化そのものです。かつての日本は、黄金の国として「ジパング」と称されました。これからは、おもてなしの心で「こころのジパング」を目指したいものですね。


混ざり合った日本人のこころ

 

ジャパニーズ・ホスピタリティとしての「おもてなし」こそは、人類が二十一世紀において平和で幸福な社会をつくるための最大のキーワードであると言えるでしょう。そして、その中心的役割を担うのは日本人であるあなたかもしれません。わが社は「礼業」であることを目指していますが、「礼」を最も重視した人が孔子です。わたしは、孔子こそは「人間が社会の中でどう生きるか」を考え抜いた最大の「人間通」であると確信しています。その孔子が開いた儒教とは、ある意味で壮大な「人間関係学」と言えるでしょう。


「おもてなし」の源流

 

「人間関係学」とは、つまるところ「良い人間関係づくり」が目的です。「良い人間関係づくり」のためには、まずはマナーとしての礼儀作法が必要となります。いま、わたしたちが「礼儀作法」と呼んでいるものの多くは、武家礼法であった小笠原流礼法がルーツとなっています。小倉の地と縁の深い小笠原流こそ、日本の礼法の基本です。特に、冠婚葬祭に関わる礼法のほとんどすべては小笠原流に基づいています。


お辞儀(座礼)

 

しかしながら、小笠原流礼法などというと、なんだか堅苦しいイメージがあります。実際、「慇懃無礼」という言葉があるくらい、「礼」というものはどうしても形式主義に流れがちです。また、その結果、心のこもっていない挨拶、お辞儀、笑顔、サービスが生れてしまいます。「礼」が形式主義に流れるのを防ぐために、孔子は音楽を持ち出して「礼楽」というものを唱えましたが、わたしたちが日常生活や日常業務の中で、いつも楽器を演奏したり歌ったりするわけにもいきません。ならば、どうすればいいでしょうか。わたしは、「慈」という言葉を「礼」と組み合わせてはみてはどうかと思い立ちました。


上座と下座

 

「慈」という言葉は、他の言葉と結びつきます。たとえば、「悲」と結びついて「慈悲」となり、「愛」と結びついて「慈愛」となります。さらには、儒教の徳目である「仁」と結んだ「仁慈」というものもあります。わたしは、「慈」と「礼」を結びつけたいと考えました。すなわち、「慈礼」という新しいコンセプトを提唱したいと思います。逆に「慈礼」つまり「慈しみに基づく人間尊重の心」があれば、心のこもった挨拶、お辞儀、笑顔、サービスの提供が可能となります。そして、ある意味でブッダ孔子のコラボでもある「慈礼」を、日常の生活、ビジネスの世界で表現したものが「おもてなし」ということではないでしょうか。今後も、わたしは「慈礼」を追求していきたいと思います。

 



2022年5月6日 一条真也