一条真也です。
たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。今回の「こころの一字」は、「誇」です。

f:id:shins2m:20220330111017j:plain北九州市から「SDGs奨励賞」を授与される

 

仕事をする上でもっとも大切なのは、自分の職業に対するプライドではないでしょうか。わたしの会社は各地で冠婚葬祭業を展開し、一応、業界では大手の一角として認められています。しかし北九州市という製造業中心の街に本社を置いてあるせいか、まだまだわが社のような非製造業に対する周囲の見方は低く、特に葬祭業についてはいまだにタブー視する者も多いようです。わたしは心の底から冠婚葬祭業ほど価値のある仕事はないと確信していますので、周囲の偏見に触れた時はとても悔しい思いをします。しかし、ブログ「SDGs奨励賞を受賞しました」で紹介したように、「2021北九州SDGs都市アワード」において、わが社は非製造業として初めてSDGs奨励賞を受賞したときは、本当に嬉しかったです。



そんなとき、いつも思い起こすのは坂本龍馬のことです。明治の新政府メンバーを選ぶとき、龍馬が岩倉具視西郷隆盛に「私は政府高官にならず、世界の海援隊をやりたい」と言ったのも、決して負け惜しみでも冗談でもなかったと思います。本心で彼はそれを考えていたはずです。作家の童門冬二氏によれば、海援隊というのは龍馬の商人的発想に基づく、いわば一種の密輸艦隊でしたが、龍馬は決してそうは思わなかったといいます。

f:id:shins2m:20100916143412j:plain長崎・風頭公園の龍馬像の前で

 

その運輸射利の底に、自由人の連帯によって、市民のための政治を実現するきっかけとなる集団が、すなわち海援隊であるという誇りがあったのです。そして、それまで人々から、特に武士階級から卑しめられてきた「射利、投機に正式な市民権を与えた」という自信が彼にあった、と童門氏は述べています。


龍馬の写真の前で日本刀を持つ

 

言わば、龍馬の思想と行動の軌跡は、すべて、不当に評価され、差別され、疎外され、抑圧されているものを解放するところに目的がありました。特に、商行為に対する蔑視、すなわち、徳川幕府が「士農工商」として貫き通してきた重農主義を捨てて、重商主義を加味するという、政策転換に彼の大きな行動目標があったことは事実です。

 

 

これはもちろん、龍馬の生家が大商人であったということも大きく影響しているでしょう。しかし、それ以上に、彼の心を支配していたのは、不当な差別や偏見に対する怒りであり、それこそ彼の全生涯の全生命を燃焼して実行していった目標でした。そういう観点に立って、龍馬は「誇りをもって金を儲ける」という商業哲学を日本に確立したのです。同じように、NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公・渋沢栄一なども「論語と算盤」というキャッチフレーズをもって、商業人にプライドを与えたと言えます。

 

 

わたしは坂本龍馬渋沢栄一が商業哲学を確立したように、冠婚葬祭哲学というものを確立したいと本気で思っています。そして何よりも価値のあるこの仕事に携わるすべての人々に誇りを持っていただきたいと強く願っています。もうすぐ、わたしは儒教研究の第一人者でる加地伸行先生と「論語と算盤」ならぬ『論語と冠婚葬祭』(現代書林)という共著を上梓しますが、これからも冠婚葬祭業の社会的地位の向上に努めたいです。なお、「誇」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。

 

 

2022年4月20日 一条真也