『ミャンマー仏教を語る』

一条真也です。
一条真也による一条本」をお届けします。69冊目は、『ミャンマー仏教を語る』(現代書林)です。2014年5月15日に刊行されました。「世界平和パゴダの可能性」というサブタイトルがついています。表紙にも、世界平和パゴダの写真が使われています。


世界平和パゴダの可能性

 

本書には、ブログ「仏教文化交流シンポジウム」で紹介した、2013年9月21日に世界平和パゴダ建立55周年を記念して開催された「仏教は世界を救う」をテーマにしたパネルディスカッションの内容が掲載されています。巻頭には、世界平和パゴダ住職であるウィマラ長老の基調講演、日緬仏教文化交流協会(日緬協)の佐久間進会長による主催者挨拶が収録されています。また巻末には、日緬協メンバーでもある京都大学こころの未来研究センター教授(当時)の鎌田東二先生が寄稿されています。


日緬協・佐久間会長による挨拶

著者(パネリスト)プロフィール

パネルディスカッションのようす

 

パネリストは、以下の方々でした。そのまま本書の共著者となります。

人生で大切な五つの仕事―スピリチュアルケアと仏教の未来  ミャンマーで尼になりました  慈を求めて    

 

井上氏は、ブログ『人生で大切な五つの仕事』で紹介した本の著者です。天野氏は、ブログ『ミャンマーで尼になりました』で紹介したコミックの著者です。井上氏、天野氏ともにミャンマーで仏教の修行をされています。また、八坂氏はブログ「大僧正のお別れ会」をはじめとして一連のパゴダ関連のブログ記事に登場する、パゴダを守ってこられた方で、ボランティアグループ「一期会」の会長です。コーディネーターの内海氏は、あの「出版寅さん」です。当ブログの読者のみなさんには有名ですね。


世界平和パゴダの意義について話しました

 

世界平和パゴダの意義について、わたしは「世界平和パゴダは、ミャンマーと日本の友好のシンボルです。そして、その可能性を語り合うことは、大きな意義のあるものと思います。わたしは、現代の日本において、いや東アジアにおいて世界平和パゴダはとても大きな意味と可能性を持っていると考えています。わたしが考える世界平和パゴダの重要性は主に3つあります」と述べました。それは、

 

(1)アジアの平和拠点であること。
(2)戦没者の慰霊施設であること。
(3)上座仏教の寺院であること。

 

(1)の「アジアの平和拠点」から、順を追って説明します。言うまでもなく日本はアジアに属する国ですが、門司はアジアの玄関口です。ブログ『海賊とよばれた男』で紹介したベストセラー小説の主人公は、出光興産の創業者・出光佐三がモデルです。出光興産は、北九州市の門司からスタートしました。現在は内科・小児科医院となっている創業の地は、ここからすぐ近くです。『海賊とよばれる男』は、太平洋戦争で日本が敗戦する場面から始まります。大東亜共栄圏を築くという大日本帝国の野望は無惨に消滅しましたが、じつはそれ以前に出光佐三は東アジアに一大ネットワークを構築していたのです。



1929年(昭和4年)の出光商会(出光興産の前身)の支店別売上高を見ると、1位が大連で2位が下関、以下は京城、門司、台北、博多、若松の順になっています。満州、韓国、台湾の各都市の支店と北九州の支店が並んでいるリストを見て、わたしの胸は高まりました。出光がいち早く東アジア諸国に進出できたのは、門司に本店を置いていたからです。



しかし、現在の日本は中国や韓国といった隣国と非常に微妙な関係というか、領土問題をめぐって険悪な関係にあります。このままでは日本は東アジアの中で孤立してしまう不安があるわけですが、幸いなことに「アジア最後のフロンティア」とミャンマーとは良好な関係にあります。2014年5月の安倍首相(当時)のミャンマー訪問によって、日本とミャンマー両国の絆は強くなりました。日本では、官民をあげてミャンマーの新しい国づくりを応援していくという機運が高まりました。



「二国間の新しいページを開くことができた」と日本の取り組みを評価したテイン・セイン大統領は、当時、「脱中国」を目指していました。その中国に対して、日本は楔を打ち込んだけです。わたしは、「ミャンマーと日本の交流のシンボルである世界平和パゴダは、そのままアジアの平和拠点となるのではないか」と考えました。



(2)の「太平洋戦争の慰霊施設」ですが、第2次世界大戦後、ビルマ政府仏教会と日本の有志によって昭和32年(1957年)に建立されました。「世界平和の祈念」と「戦没者の慰霊」が目的でした。戦時中は門司港から数多い兵隊さんが出兵しました。映画化もされた竹山道雄の名作『ビルマの竪琴』に登場する兵隊さんたちです。残念なことに彼らの半分しか、再び祖国の地を踏むことができませんでした。そこでビルマ式寺院である「世界平和パゴダ」を建立して、霊を慰めようとしたわけです。戦争の慰霊施設というと多くの日本人は靖国神社をイメージされるのではないでしょうか。安倍内閣の閣僚が靖国参拝することについて、中国や韓国が抗議をしているようですが、自国の死者への慰霊や鎮魂の行為に対して、他国が干渉してくるなど言語道断です。わたしは、「葬礼」こそは各民族を超えた人類の精神文化の核であると確信しています。



中国も韓国も、安倍首相の靖国公式参拝を絶対に許さない姿勢です。英霊に対する想いの強い安部首相も、あえて混乱を招く行為は控えることと思います。しかし、日本の首相として先の戦争で亡くなられた戦没者への慰霊と鎮魂の務めもあるはずです。そこで、わたしはぜひ、世界平和パゴダを安倍首相に参拝していただきたいと願っています。パゴダは、靖国神社の代替施設となりうる。しかも、A戦犯の合祀うんぬんも関係ない。現在、世界平和パゴダビルマ戦線の戦没者の慰霊施設という位置づけですが、ぜひ拡大解釈して、すべての戦没者の慰霊施設にするべきだと思います。もともと北九州市は安倍首相、麻生副総理のお二人にとっての重要な政治的地盤でもあり、できれば御両人揃ってのパゴダ参拝が望ましいかもしれません。



(3)の「上座仏教の寺院」ということですが、世界平和パゴダの本格再開によって、ブッダの本心に近い上座仏教は今後さまざまな影響を日本人の「こころ」に与えることでしょう。それは「無縁社会」などの問題にも直結すると思います。その件は後でお話しすることにして、仏教そのものに着目すれば、大乗仏教の国である日本も、上座仏教の国であるミャンマーも、ともに仏教国ということになります。ともにブッダが説かれた「慈悲」という思いやりの心を大切にする国同士だということです。



また、ぜひともノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー女史には世界平和パゴダを参拝していただきたいと思います。それが実現したとき、日本とミャンマー両国の絆は完全に結ばれるでしょう。スーチー女史は熱心な仏教徒で、過去にも門司のパゴダを訪れていると伺っています。もちろん、経済面での協力が非常に大事であることは承知しています。しかし、くれぐれもミャンマーが仏教国であることを忘れてはなりません。両国の仏教交流が成功してこそ、初めて両国民の心はひとつになるのです。



本書はパネリストを務められた井上氏、天野氏、八坂氏とわたしの共著という形になりますが、みなさん、それぞれのお立場から非常に示唆に富んだ提言をされています。いわゆる「日本仏教アップデート」を考えるためにも貴重な一冊になると確信します。この本の出版によって、ミャンマー仏教について知り、さらには世界平和パゴダに関心を持って下さる方が増えたことが嬉しかったです。

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文庫化されることになった2冊

 

さて、最近、過去の一条本に光が当たることが多いです。このたび、ブログ『即効!ビジネス成功法則』ブログ『即効!ビジネス心理法則』で紹介した2冊が三笠書房の「知的いきかた文庫」入りすることになりました。刊行されたら、またお知らせいたします。

 

 


2022年2月9日 一条真也