『心学入門』

一条真也です。
わたしは、これまで多くのブックレットを刊行してきました。わたしのブックレットは一条真也ではなく、本名の佐久間庸和として出しています。いつの間にか44冊になっていました。それらの一覧は現在、一条真也オフィシャル・サイト「ハートフルムーン」の中にある「佐久間庸和著書」で見ることができます。整理の意味をかねて、これまでのブックレットを振り返っていきたいと思います。 


『心学入門』(2009年7月刊行)

 

今回は、『心学入門』をご紹介します。2009年7月に刊行したブックレットです。かつて、孔子の思想的子孫と言うべき明の王陽明は「心学」を開き、日本の石田梅岩は江戸時代に「石門心学」を唱えました。そして、わたしは「平成心学」を提唱しています。このブックレットの目次構成は、以下のようになっています。

心学とは何か
「啓蒙」が心学のキーワード
十七条憲法に見る啓蒙精神
「啓蒙」から「修養」へ
心学の伝統に立つ松下幸之助
神道・仏教・儒教が融合した日本
独特な日本人の宗教感覚
アンドフル・ワールドに向かって
心学から世界心学へ
人類の信条


「心学」は日本が生んだ究極の総合幸福学

 

「現代の賢人」として知られた故渡部昇一氏によれば、梅岩の石門心学こそは、近世庶民の生み出した倫理的自覚の学です。渡部氏は、講談社を創業した野間清治についての著書『「仕事の達人」の哲学』(致知出版社)において、「江戸時代に発達した心学は、仏教であろうが、神道であろうが、儒教であろうが、心を磨く材料になるものはどんどん使えばいいと考えるユニークな思想であった。この心学こそが、日本で生まれた真に日本的な思想であると私は思っている」と述べています。日本には土着の先祖崇拝に基づく神道がありました。インドでブッダが開いた仏教、中国で孔子が開いた儒教も日本に入ってきました。しかし、この三つの教えのどれにも偏せず、自分の「心を磨く」ということを重要視したのです。

 

 

つまり、心学とは思想と人間との関係を180度ひっくり返してみせたものだと渡部氏は言うのです。どういうことでしょうか。渡部氏によれば、宗教というものは、普通、その教義を個々人がいかに信じて身を捧げるかということが重要視されます。信心の程度が宗教に対する打ち込み方を示しているわけですね。ところが心学では、人間に心があるということが第一です。この人間の心を磨くにはどうしたらいいかを考える思想が心学なのです。「最初に教義ありき」ではなく、「最初に心ありき」であり、それゆえに、神道でも仏教でも儒教でもその他のものでも、心を磨く材料になる立派な教えさえあれば、それを使って磨けばいいという立場なのです。渡部氏は、「つまり、心学は普通の宗教とは逆に人間中心であって、そうであればこそ、どんな偉大な宗教の思想も自分を磨くための材料になってしまうのである。人間の心が銅の鏡であるとすれば、仏教も儒教神道も、それを磨く『磨き砂』となるわけである」と述べます。

 

 

もともと日本には心学的な発想が根づいているようです。聖徳太子の神仏儒における融合政策がまさにその原型ですし、新渡戸稲造が『武士道』で指摘したように神仏儒の三大宗教の精神が武士道にも流れています。そして、内村鑑三が[『代表的日本人』で取り上げた二宮尊徳も「神儒佛正味一粒丸」なる言葉を残すほど、日本人の精神生活における三宗教の重要性を認識し、その共生が続くことを願いました。尊徳は梅岩からの心学の流れを受け継いだ人物であったのです。

 

 

このように、心学とは、日本が生んだものすごい思想なのです。ちなみに、わたしは新時代の人間の幸福を総合的に追求する「平成心学」を提唱していますが、そこでのコンテンツには、神道・仏教・儒教ユダヤ教キリスト教イスラム教をはじめとした「宗教」、ソクラテスプラトンアリストテレスからカント、ヘーゲルニーチェ、シュタイナー、ハイデッガーらの「哲学」、美術・音楽・彫刻・建築・演劇・映画などの「芸術」などがあります。


世界をつくった八大聖人』(PHP新書)

 

そして、トインビーの「歴史学」、ユングマズローらの「心理学」、レヴィ・ストロースの「人類学」、エリアーデの「宗教学」、キャンベルの「神話学」、柳田國男折口信夫南方熊楠らの「日本民俗学」も入ってしまいます。さらにはドラッカーの「経営学」や安岡正篤の「帝王学」まで、初めて聞いた人が「なんだ、これは!」と怪訝に思うほど、ありとあらゆるコンテンツを平成心学は持っているのです。とにかく人間の心の謎をさぐり、人間を幸福にするための考え方や方法論で、普遍性があるものなら、何でも「心学」というフォルダに入ってしまうのです。わたしは、これからも総合幸福学としての「平成心学」を追求していく覚悟です。


平成心学塾」の看板の前で

 

2021年12月11日 一条真也