「スパイラル:ソウ オールリセット」 

一条真也です。
東京に来ています。14日の夕方、赤坂見附で出版関係、銀座で映画関係の打ち合わせをした後、TOHOシネマズ日比谷で映画「スパイラル:ソウ オールリセット」を観ました。人気シチュエーションスリラー映画シリーズの最新作ですが、北九州では上映されていません。あの「ソウ」の新章だけあって、この上なくブキミで、グロかった!

 

ヤフー映画の「解説」は、「猟奇殺人鬼ジグソウが仕掛ける残虐な殺人ゲームを描くシチュエーションスリラー『ソウ』シリーズの世界を一新した新章。ジグソウを連想させる新たな猟奇犯が登場し、捜査に当たる刑事たちを追い詰めていく。監督は同シリーズ3作を手掛けたダーレン・リン・バウズマン、製作陣にはシリーズを生み出したジェームズ・ワンリー・ワネルらが名を連ねる。製作総指揮も兼任する『トップ・ファイブ』などのクリス・ロックが主人公を演じ、マックス・ミンゲラ、マリソル・ニコルズ、サミュエル・L・ジャクソンらが共演」です。

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ヤフー映画の「あらすじ」は、「地下鉄の線路上に宙吊りにされ、舌を固定された男に向かって猛スピードの電車が迫り、男は無残な死を遂げる。それは猟奇犯が警察官をターゲットに仕掛けた、むごたらしいゲームの始まりだった。捜査を担当するジーク・バンクス刑事(クリス・ロック)と相棒のウィリアムは、過激さを増していくゲームに翻弄(ほんろう)されていく。やがて、ジークの父で伝説的刑事のマーカスの行方がわからなくなる」です。

 

猟奇殺人鬼ジグソウを取り巻く「ソウシリーズ」の第1作「ソウ」(SAW)は、2004年に公開されたアメリカ合衆国のサイコスリラー映画です。リー・ワネルが脚本と主演を務め、ジェームズ・ワンが監督しましたが、比較的低予算で制作されたにも関わらず興行的な成功を収めました。猟奇殺人鬼ジグソウによって密室に閉じ込められ、ゲームを強要させられた2人の男性を主軸に話が展開。残酷なシーンが多いため、日本ではR15+指定でした。


原題の“SAW”は、「のこぎり」と「見る(see)の過去形」、そして劇中謎を投げかける犯人の名前、ジグソウ(Jigsaw)の3つの掛詞になっています。さらに、主人公の職業である外科医を意味する語(sawbones)や立場逆転(seesaw)も示しているとか。


第1作「ソウ」の興行的成功以降、ジグソウを取り巻く「ソウシリーズ」が長年に渡って制作されました。2005年より「ソウ2」「ソウ3」「ソウ4」「ソウ5」「ソウ6」「ソウ ザ・ファイナル 3D」の作品が年ごとにリリースされています。ファイナルをもってシリーズは一度完結したのですが、2017年には新たに「ジグソウ:ソウ・レガシー」が制作されました。そして、2021年に最新作「スパイラル」が公開されたわけです。



「ソウ」シリーズの新たな一作である本作では、過去のシリーズと関係する登場人物が一新され、ジグソウの後継者をめぐる物語がリセットされています。今回、ジグソウを凌駕する新たな猟奇犯が警察官をターゲットにゲームを仕掛けていきますが、犠牲となった警察官の家族や同僚は当然ながら悲しみます。彼らが深い悲しみに暮れるシーンを見ながら、殺人には恐怖や嫌悪だけでなく悲嘆も付きものだという、いわば当たり前のことを改めて確認しました。



その意味で、ホラーやスリラーやミステリーといった人が殺されるジャンルの映画にはすべてグリーフ映画の要素があります。そして、この映画における猟奇犯自身が深い悲嘆を抱えている人間であり、その悲嘆を癒すために、警察官を相手に残虐な復讐劇を展開しているという構図が明らかとなります。彼にとっての連続殺人は、復讐という負のグリーフケアだったのです!

 

それにしても、冒頭で1人の男性が地下鉄の線路上で舌を固定され、宙吊りになるシーンはインパクトがありました。猛スピードに迫った電車により彼の体は四散しますが、目を覆いたくなる凄惨な場面でした。この他にも、両手の10本の指を引き抜いて水槽で感電死させるとか、脊髄に刃物を突き立てたまま顔に熱い蝋をかけて窒息死させるとか、この映画には「これでもか」というほど残虐なシーンが登場します。よくぞ、ここまで恐ろしい殺し方を思いついたものだと感心さえしたくなります 

 

それでも、それぞれの殺し方にはメッセージが込められており、被害者たちが犯した罪に対する罰となっています。このメッセージ性の強い殺し方は、デヴィッド・フィンチャーが監督し、ブラッド・ピットが主演した「セブン」(1995年)を連想しました。キリスト教の“七つの大罪”になぞらえた奇怪な連続殺人事件を追う2人の刑事を描いたサイコ・サスペンスで、アメリカ・日本ともに大ヒットを記録。「スパイラル ソウ:オールリセット」はおそらく「セブン」の影響を受けていると思います。

 

 

じつは、いま、『ビハインド・ザ・ホラー』リー・メラー著、五十嵐加奈子訳(青土社)という本を読んでいます。「ホラー映画になった恐怖と真実のストーリー」というサブタイトルがついており、古典的名作スリラー「M」、ヒッチコックの「サイコ」「フレンジー」、さらには「悪魔のいけにえ」や「羊たちの沈黙」など、猟奇的な殺人鬼を描いた映画の実在のモデルについて書かれた本です。



すなわち、ペーター・キュルテン、エド・ゲイン、ジャック・ザ・ストリッパー、テッド・バンディ、ヘンリー・リー・ルーカスといった超弩級の殺人鬼たちですが、彼らのような歴史に残る超弩級の殺人鬼でも、「スパイラル ソウ:オールリセット」の猟奇犯には敵わないでしょう。この映画の脚本は、ジョシュ・ストールバーグとピーター・ゴールドフィンガーが担当していますが、いくら仕事とはいえ、ここまでクリエイティブ(?)な殺人方法を考えつくとは感服する他はありません。まあ日本人なら、江戸川乱歩横溝正史が考えそうな殺し方かもしれませんね。

 

2021年9月15日 一条真也