魂のエコロジー

f:id:shins2m:20210831124843j:plain

 

一条真也です。
わたしは、これまで多くの言葉を世に送り出してきました。この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。今回は、「魂のエコロジー」という言葉を取り上げることにします。

唯葬論――なぜ人間は死者を想うのか』(三五館)

 

拙著『唯葬論――なぜ人間は死者を想うのか』(三五館・サンガ文庫)にも書きましたが、現代文明は、その存在理由を全体的に問われていると言えるでしょう。近代の産業文明は、科学主義、資本主義、人間中心主義によって、生命すら人為的操作の対象にしてしまいました。そこで切り捨てられてきたのは、人間は自然の一部であるというエコロジカルな感覚であり、人間は宇宙の一部であるというコスモロジカルな感覚です。そこで重要になるのが、死者と生者との関わり合いの問題です。日本には祖霊崇拝のような「死者との共生」という強い文化的伝統がありますが、どんな民族にも「死者との共生」や「死者との共闘」という意識が根底にあると言えます。

 

 

20世紀の文豪アーサー・C・クラークは、『2001年宇宙の旅』の冒頭に、「今この世にいる人間ひとりの背後には、20人の幽霊が立っている。それが生者に対する死者の割合である。時のあけぼの以来、およそ1000億の人間が、地球上に足跡を印した」と書いています。わたしは、この数字が正しいかどうか知りませんし、また知りたいとも思いません。重要なのは、わたしたちのまわりには数多くの死者たちが存在し、わたしたちは死者たちに支えられて生きているという事実です。多くの人々が孤独な死を迎えている今日、動植物などの他の生命はもちろん、死者たちをも含めた大きな深いエコロジー、いわば「魂のエコロジー」のなかで生と死を考えていかなければなりません。なお、この「魂のエコロジー」という言葉は、『ロマンティック・デス〜月と死のセレモニー』(国書刊行会)で初めて登場しました。

ロマンティック・デス』(国書刊行会

 

2021年9月5日 一条真也