火と水とコロナ

一条真也です。
13日の金曜日、小倉は朝からずっと大雨です。
各地の方々からは「九州、大丈夫ですか?」とのメールやLINEを頂戴しました。九州だけでなく、全国に長雨による洪水や土砂崩れなどの警戒報道が出ています。



九州は、11日降り始めから雨量が平年8月の2倍を超え、記録的な大雨になっている場所があります。来週中頃にかけて大雨が長期化するため、さらに災害のリスクが高まるそうです。なお、九州北部地方は非常に激しい雨が降り続いた場合は、「大雨特別警報」発表の可能性もあるとのことで、最大級の警戒が必要です。特に、ブログ「紫雲閣を避難所に」で紹介したように、わが社の施設は災害避難所に指定されていますので、一刻も気が抜けません。

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映画「夜叉ヶ池」の大洪水シーン
 

水害といえば、大量のアクセスが寄せられているブログ「夜叉ヶ池」で紹介した日本映画のラストには、大洪水で村が消滅するシーンが登場します。龍神との約束を守らずに鐘を撞かなかったために大洪水が起こるのです。『旧約聖書』の「ノアの大洪水」をも連想させるスペクタクル・シーンでしたが、地球環境破壊に対する自然界からの警告のようにも思えます。

 

 

バク転神道ソングライター」こと宗教哲学者の鎌田東二先生は、30年も前から現在のような異常気象を心配されていました。ブログ『狂天慟地』で紹介した鎌田先生の詩集には「みなさん、天気は死にました」と書かれていますが、まさにその通りの状況になっています。わたしと同じく42年前に映画「夜叉ヶ池」を鑑賞されたという鎌田先生は、今日のわたし宛のメールに「まだまだこれよりも深刻な状況が生まれます。企業としても、これを踏まえて維持し、収益を上げられる『世直し的企業』が必要になってきます。今後ともぜひよろしくお願いします」と書いて下さいました。心して受け止めさせていただきます。

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ヤフーニュースより

 

豪雨、洪水、津波といった水害に最近の人類は翻弄されていますが、一方で地球温暖化による猛暑にも悩まされています。国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)は今月9日、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告を公表しました。地球温暖化の科学的根拠をまとめた作業部会の最新報告書(第6次評価報告書)を公表するにあたって、IPCCは「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と強い調子で、従来より踏み込んで断定したのです。さらには、「気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである」と指摘しています。

世界をつくった八大聖人』(PHP新書)

 

人類はまさに「火」と「水」をコントロールできずに窮地に立っているわけですが、そのことは2008年に上梓した拙著『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)で指摘したことでした。火と水。わたしは、ここに人類の謎があるような気がします。人類がどこから来て、どこへ行こうとしているかの謎を解く鍵があるように思います。もともと世界は水から生まれましたが、人類は火の使用によって文明を生みました。ギリシャ神話のプロメテウスは大神ゼウスから火を盗んだがゆえに責め苦を受けますが、火を得ることによって人間は神に近づき、文明を発展させてきたのです。そして、文明のシンボルとしての火の行き着いた果てが核兵器でした。


ヒロシマ ナガサキ」という原爆のドキュメンタリー映画があります。その映画に登場する広島で被爆した男性が「原爆が落ちた直後、きのこ雲が上がったというが、あれはウソだ。雲などではなく、火の柱だった」と語った場面が印象的でした。その火の柱によって焼かれた多くの人々は焼けただれた皮膚を垂らしたまま逃げまどい、さながら地獄そのものの光景の中で、最後に「水を・・・」と言って死んでいったといいます。命を奪う火、命を救う水という構造が神話のようなシンボルの世界ではなく、被爆地という現実の世界で起こったことに、わたしは大きな衝撃を受けました。考えてみれば、鉄砲にせよ、大砲にせよ、ミサイルにせよ、そして核にせよ、戦争のテクノロジーとは常に「火」のテクノロジーでした。火焔放射器という、そのものずばりの兵器などもあります。

リゾートの思想』(河出書房新社

 

拙著『リゾートの思想』(河出書房新社)や『リゾートの博物誌』(日本コンサルタントグループ)にも詳しく書いたように、天国や楽園とは豊かな水をたたえた場所です。人類における最初の戦争は、おそらく水飲み場をめぐっての争いではなかったでしょうか。それほど、水は人間の平和や幸福と深く関わっていると思うのです。そして、火は文明のシンボルです。いくら核兵器を生んだ文明を批判しても、わたしたちはもはや文明を捨てることはできません。歴史的に見れば、戦争が文明を生み出したと言えるでしょうが、その不思議な戦争の正体とは間違いなく火であると、わたしは思います。そして、自動車もエアコンもパソコンもスマホも、みな火の子孫なのです。その最たる子孫こそが原子力発電所であったように思います。

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ヤフーニュースより 

 

わたしたちは、もはや火と別れることはできないのでしょうか? しかしながら、水が人類にとって最も大切なものであることも事実です。ならば、どうすべきか。わたしは、人類には火も水も必要なことを自覚し、智恵をもって火と水の両方とつきあってゆくしかないと思います。人類の役割とは、火と水を結婚させて「火水(かみ)」を追い求めていくことではないでしょうか。「火水(かみ)」とは「神」です。これからの人類の神は、決して火に片寄らず、火が燃えすぎて人類そのものまでも焼きつくしてしまわないように、常に消火用の水を携えてゆくことが必要ではないかと思います。そして、人類は火でも水でもない新たな難敵と遭遇しました。新型コロナウイルスです。厚生労働省は13日、新型コロナウイルス感染による重症者が全国で1478人(12日日時点)になったと発表しました。前日より74人増え、過去最多を更新。東京五輪が開催された7月下旬以降、増加が続いています。


12日、全国では新型コロナウイルスの感染者が、初めて1万8000人を超え、過去最多となりました。東京都では、新たに4989人の感染が確認され、先週木曜日の5042人に続き、過去2番目の感染者数でした。また、重症者数も218人と初めて200人を超え、自宅療養者が2万726人、入院患者も3668人と、いずれも過去最多です。こうした状況を受け、12日午後に開かれた東京都の専門家会議では、「かつてない速度で感染拡大が進んでいて、『制御不能』な状況となっている」など、強い危機感が示されました。各地でも感染拡大の傾向は続いており、大阪府で1654人、福岡県で1040人、沖縄県で732人など、あわせて20の府県で新規感染者数が過去最多となり、さらに全国でこれまでで最多の1万8863人の感染と、24人の死亡が確認されています。



菅首相があれだけ「安心・安全」と念仏のごとく繰り返した東京五輪の閉幕直後、日本では「災害レベルの非常事態」にまで感染大爆発したわけですが、これが世界中に波及し、東京が武漢に代わって「パンデミックの原産地」とならないことを願うばかりです。制御不能なのは、新型コロナウイルスだけではありません。温暖化による猛暑も、やはり温暖化による豪雨も制御不能です。そう、人類は火も水もコロナもコントロールすることができないのです。ITに代表されるテクノロジーの進歩で人々が「万能感」を抱く傾向にありますが、自然の脅威の前にはそんな万能感などたやすく挫かれてしまいます。人類はもっと自然を畏れ、人智の限界を謙虚に悟ることが必要でしょう。


ここまで書いたところで、本日の東京の新規感染者数が5773人だというニュースが入りました。感染が確認されたのは10歳未満から90代までで、直近7日間の1日あたりの平均は4156人と、前の週と比べて108.8%となっています。重症の患者は前の日から9人増え227人となり、こちらも過去最多となりました。さらには、全国の新規感染者が初めて2万人を超えました。このニュースが入ってきたのと同時に、わたしのスマホに大雨の緊急避難指示のアラームが鳴りました。その大きな音を聞きながら、わたしは「東京五輪の開催中、ずっとアラームは鳴り続けていたのだ」と改めて思った次第です。

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2021年8月13日 一条真也