94歳で叶えた夢

一条真也です。
今日から強行開催される東京五輪は、大会ビジョンとして「多様性と調和」を掲げています。多くの大会関係者が、ことごとくこのビジョンに違反して舞台から退場していったわけですが、熊本にお住まいの鮫島さんという読者の方が、まさに「多様性と調和」を思い起こさせる素晴らしいニュースを送ってくれました。非常に感動しました。

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ヤフーニュースより 

 

クーリエ・ジャポン」が配信した「『黒人だから着られなかった』 70年間思い続け、94歳で叶えたウェディングドレスの夢」という記事なのですが、「マーサ・タッカーは、クラシックな純白のウェディングドレスを着て結婚式を挙げることをいつも夢見ていた。しかし、彼女が結婚した1952年当時、人種を理由に彼女はブライダル洋品店に入ることができなかった。レースに覆われた、刺繍入りの白い長袖のドレス──。彼女が夢見ていたのは、そんなウェディングドレスだった」と書きだしています。


現在94歳のマーサ・タッカーは、「お店に入れないとわかっていたので、ウェディングドレスを買うなんて考えてもいませんでした」と当時を振り返ります。米アラバマ州バーミンガムに暮らす黒人女性の1人として、タッカーはドレスの試着が禁じられていたのです。その街に黒人が経営するブライダル洋品店はありませんでした。そして、白人が営む商店に黒人が入り、服を試着することは許されていませんでした。タッカーは「何かを買うにしても、地下で中古品を手にすることしかできなかったのです」と回想します。「ジム・クロウ法(黒人分離法)」により、白人と同じレストランで食事をしたり、同じ乗り物に乗ったりすることも禁じられていた頃でした。


タッカーとその夫は、牧師の家のリビングルームで慎ましやかな式を挙げました。伝統的な披露宴やドレスはありませんでした。それが心残りだったという彼女は、「ずっと悲しい思いを抱えてきました。私が着たいと思えば着られるべきだと思っていましたから」と語っています。しかし、結婚式から70年近く経った2021年、いまや4人の子供、11人の孫、18人のひ孫、1人の玄孫(!)を持つタッカーの夢がついに叶ったのです。きっかけは、タッカーが孫娘のアンジェラ・ストロジャー(46)とともに映画『星の王子 ニューヨークへ行く』(1988年)を見ていたときの会話でした。結婚式のシーンで、彼女は孫娘に「ずっとウェディングドレスを着たいと思っていたの。結婚したときからずっと、そう思い続けているわ」と言ったのです。


ストロジャーは、祖父母が耐えてきた人種差別やあざけりについては聞いてきました。しかし、その言葉を聞くまで、祖母が黒人だという理由だけでウェディングドレスを着られなかったことを知りませんでした。彼女は、「祖母がドレスを着られなかった理由はひどいものでした。ショックでしたし、ひとつやってやろうという気になりました」と言います。タッカーの口からウェディングドレスへの思いを聞いた後、彼女は祖母のドレスの試着のため、フーバーにあるブライダルストア「デビッズ・ブライダル」の予約を取りました。それから彼女は、店でのサプライズのため、何人かの家族を招待しました。ストロジャーは、「祖母に、夢は遅れることはあるけれど、叶わないわけではないと伝えたかったのです」と言いました。


ストロジャーは、祖母のことを「与え続ける人」だと表現します。タッカーはその人生を、選挙権の擁護に捧げてきました。1963年、彼女は投票所の職員になり、自分で最後と決めた2020年の選挙が終わるまで、誇りを持ってその役割を全うしたのです。子供たちを育てながら、彼女は家政婦として何年も働き、70年代半ばに退職するまで、高校の栄養科でも働きました。歌も教え、これまでいくつものゴスペルグループに属したそうです。いま彼女は、教会の聖歌隊の最年長メンバーです。また、彼女はスポーツの大ファンで、子供たちや孫たち、ひ孫たちのスポーツの試合を見逃したことはないそうです。特にバスケットボールが大好きで、NBAのステフィン・カリーがお気に入りの選手だといいます。最後に、ストロジャーは「彼女は私たちのヒーロー。彼女がしたいと言うことなら何でも、私たちは叶えたいと思っています」と語りました。

f:id:shins2m:20210723140256j:plainタッカーの94歳のウェディングドレス姿 

 

タッカーの94歳のウェディングドレス姿は美しく、威厳に満ちていました。この記事を読んで非常に感動したわたしは、わが社のブライダル部門の責任者たちにLINEで転送しました。すると、冠婚本部長を兼任しているわたしを支えてくれている副本部長の山下執行役員からは「事務所で泣きそうになりました。結婚は最高の平和です!またすべての人に平等に与えられる権利だと思います。コロナ禍で様々なスタイルを提案しながら、家族のカタチを残していきます!」という返信が、 松柏園ホテルの井口総支配人からは「少し話しは違いますが、今コロナで結婚が仕事上延期せざるを得なかっり、破談や鬱になった方もいらっしゃいます。我々が今お手伝いの出来ること、少しでも寄り添い、ご提案し新郎新婦様に、後悔させないように取り組んでいきたいと思います」という返信が届きました。

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ブライダル業は夢を叶える「こころの仕事」 

 

さらに、マリエールオークパイン小松の伊藤支配人からは「素敵で素晴らしい話でした。感動して涙が出ました」という返信が、マリエールオークパイン那覇の崎山支配人からは「沖縄は長寿祝いが盛んに行われており、主役が女性の場合、ドレスを着用してお祝いされるお客様も少なくありません。差別とは違いますが、ドレス着たかったけど、結婚当時は着れなかったお客様も居ると聞き、お勧めして恥ずかしながらも、夢だったドレスを来て頂き大変喜んで頂いております。お客様の気持ちを少しでも引き出して、思い出に残る1日を過ごして頂ける様に今後も頑張ってまいります」という返信が届きました。記事を教えて下さった鮫島さんは「こういう思いに携わるお仕事だからすごいと思います」とのメッセージを送って下さいましたが、自分でもそう思います。わたしは、結婚とは「最高の平和」であり、五輪などよりも1件1件の結婚式こそが真の平和の祭典であると考えています。ブライダル業は、お客様の夢を叶える「こころの仕事」だと思っています。素敵な記事を教えて下さった鮫島さんには心より感謝いたします。東京の空に描かれた五輪マークではなく、タッカーさんの花嫁姿の写真がわたしの心をゆたかにしてくれました。

 

 

2021年7月23日 一条真也