東京五輪とグリーフケア

一条真也です。
7月23日、ついに東京五輪が強行開催されます。まことに暗澹たる思いでありますが、時事通信社が配信した「『素直に喜べない』 五輪開幕、心境複雑 コロナ遺族、医療従事者ら」という記事が目に留まりました。

f:id:shins2m:20210723124241j:plain
ヤフーニュースより 

 

記事には、「新型コロナウイルスで家族を亡くした遺族や医療従事者らは、東京五輪を心待ちにする選手の心情に理解を示しつつ、『素直に喜べない』『医療崩壊が心配』と大会への不安をあらわにする」と書かれ、昨年、新型コロナで80代の父親を亡くした東京都内に住む50代の女性の「直後はあまり実感がなかったが、最近になって喪失感を感じる」というコメントなどを紹介しています。東京五輪について、その女性は「開催したいという気持ちも分かる。楽しいことをキャンセルするのは勇気がいる」と一定の理解は示すものの、「感染対策を徹底しても、静かに広まってしまうのがこの病気の怖いところ」と話しています。また、延期しないことに不満を募らせ、「父も非常識だと思うのでは」と厳しい口調で語ったそうです。

f:id:shins2m:20210723124310j:plain
ヤフーニュースより
 

CNNが配信した「コロナで親や祖父母を亡くした子ども、世界で150万人超 共同研究」という記事では、新型コロナウイルス感染症によって世界で100万人以上の子どもたちが親を亡くし、150万人以上が親や祖父母を含む養育者を亡くしていることが分かったことが紹介されています。記事には、「子どもが親や養育者を亡くすとその直後だけでなく、将来にかけて自分自身が病気になったり、虐待や貧困に苦しんだりするケースが多い。チームによれば、身心や感情面、性的な問題を抱える危険性も高く、その影響で自殺や未成年の妊娠、エイズを含む感染症や慢性疾患のリスクも大きくなる。祖父母が死亡して精神面、生活面、経済面の支援が途絶え、親戚や里親に預けられる子どもも多い。感染対策の行動制限により、子どもを保護する体制は最近大きく後退した。研究者らは、150万人の子どもがこうして親や養育者の死に直面する状況を『隠れたパンデミック』と呼び、社会全体としての支援を呼び掛けた」と書かれています。

f:id:shins2m:20210618092033j:plain6月18日の「天道塾」のようす

 

まさに、コロナ時代はグリーフ時代であり、世界的なグリーフケアが求められると言えます。そして、世界中の人々の巨大なグリーフをケアする1つの方法として、わたしは東京五輪の中止を提案しました。ブログ「五輪・グリーフケア・笑顔」で紹介した6月18日の「天道塾」において、わたしは「冠婚葬祭互助会という経済産業省の許認可事業の経営者でありながら、また業界団体の副会長および互助会政治連盟の副会長でもありながら、わたしが日本政府が強行開催しようとしている東京五輪の中止を訴えるのは何故か。その最大の理由は、じつは儀式とグリーフケアにあります」と述べました。

f:id:shins2m:20210618094221j:plainコロナ禍の中の悲しみについて 

 

コロナ禍で多くの方々が、本来は行われるはずだった儀式を断念しました。入学式、卒業式、成人式、入社式・・・日本人が断念した儀式は数知れません。日本中の祭礼も新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにことごとく中止されました。そして、冠婚葬祭。多くの新郎新婦が夢に描いていた結婚式や結婚披露宴を断念し、今も延期されている方々も少なくありません。葬儀においても、家族葬を希望しなくても結果的に参列者を制限して寂しい葬儀が多く生まれました。新型コロナウイルスの感染によって亡くなられた方に至っては看取りもできず、葬儀さえできませんでした。その悲しみは大きいものでした。

f:id:shins2m:20210625133046j:plainグリーフフル・ソサエティ

 

それは日本だけではなく、世界中がそうでした。人類全体が理不尽な悲嘆に包まれたのです。その遺族の方々の無念、披露宴を挙げられなかった新郎新婦の落胆、卒業式や成人式を体験できなかった若者たちの悲しみはどこに向かうのでしょうか。こんな状況で東京五輪が開催されれば、彼らの悲しみは増大するばかりです。逆に五輪が中止されれば、「パンデミックの状況下では、オリンピックでさえ開催できないのだから仕方ない」と少しはあきらめがつくのではないでしょうか。それは仇討ちや復讐とは違うけれども、負のグリーフケアではあります。

f:id:shins2m:20210618092204j:plain
五輪よ、悲嘆と無念を受け入れよ!
 

しかしながら、日本中、いや世界中の人々の巨大な悲嘆を汲み取る可能性が高いという一点において、わたしは東京五輪の強行開催に最後まで反対いたします。そして、「古代ギリシャの葬送儀式として生まれたオリンピックは、コロナで亡くなった世界中の犠牲者および中止されたあらゆる儀式・祭典関係者の悲嘆と無念を受け入れ、今回の東京大会は開催されないことを願います」と述べたのでした。今夜、開会式は行われる予定ですが、この未曾有の大混乱の中、最後まで何が起こるかわかりません。願わくば、愛する人を亡くした人たちの悲しみが少しでも軽くなりますように・・・・・・。

 

 

2021年7月23日 一条真也