機能不全の大手広告代理店

一条真也です。
東京五輪の開幕まであと4日となった19日の夜、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、雑誌で障がい者とみられる同級生をいじめていた過去を告白していたことを問題視されていた五輪開会式作曲担当のミュージシャン小山田圭吾氏の辞任を発表しました。当然の結果であり、そもそも小山田氏は今回のオファーを受けるべきではありませんでした。

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ヤフーニュースより

 

「デイリー」配信の「小山田氏辞任 再び消えたクリエーター 脇甘い組織委 また同じ轍」という記事には、「開幕まであと4日と迫った中で、受難の五輪は再びクリエータートラブルに見舞われた。招致決定から8年。様々なクリエーターがこの大会に関わっては、本番を迎えることなく、名前が消えた。大会のメーンスタジアムである新国立競技場のデザインは、12年のコンペで建築家のザハ・ハディド氏の案に決定したが、着工目前の15年に建設費や景観の問題を指摘され、安倍晋三前首相が白紙撤回となった」と書かれています。



また同記事には、「大会エンブレムにおいては、15年にクリエイティブディレクターの佐野研二郎氏の応募作が採用されたが、その後、海外のあるロゴとのデザインの類似や盗用疑惑が指摘され、撤回に追い込まれた。開閉会式を巡っても、18年に狂言師野村萬斎氏を統括とする演出チームを立ち上げたが、新型コロナウイルスによる1年延期にともなって解散」とも書かれています。


さらに同記事には、「その後、クリエーターの佐々木宏氏を総合統括とした新チームが引き継いだが、佐々木氏が女性タレントの容姿を侮辱した演出案を提案していたことを週刊文春に報じられ、引責辞任した。また、延期前まで開閉会式の演出責任者を務めた振付師のMIKIKO氏が組織委から半年間連絡がないまま、責任者を交代させられて辞任したことを明かすなど、トラブルが相次いでいた」とも書かれています。



そして同記事には、「この日、組織委は問題発覚後も小山田氏を留任させたことに『誤った判断』と認めた。過去のいじめ告白については改めて武藤事務総長やクリエイティブチーム、楽曲チーム全員『知らなかった』と強調したが、検索すればすぐに出てくるような情報だっただけに、“身体検査”の甘さを指摘する声も多い。先見の明も計画性もなく、対応も後手に回る。幾度となく繰り返してきた同じ轍を踏み、再び大会のイメージを失墜させた」と書かれています。まったく、この記事の内容通りですね。



組織委員会に多くの問題があることはすでに日本国民の間では有名ですが、クリエーターの選出に関しては組織委員会が丸投げしている大手広告代理店にも多大な責任があります。というか、一連のゴタゴタはすべて大手広告代店のミスと言えるでしょう。当然ながら、起用するクリエーターの人選、そのクリエーターの身辺調査、当人を起用した際のリスクのチェックなどは、すべて広告代理店の仕事です。そういう仕事で、広告代理店は商売をし、利益を得ているのです。これはクリエーターだけではなく、タレントの場合もまったく同じです。わたしも広告業界の出身です。東京五輪広告業界にとって数十年に一度のビッグビジネスであり、広告マンたちがそれに賭けてきたエネルギーの量の大きさはよく理解できるので、正直言って、「おいおい、どうしちゃったの?」という思いです。

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東京五輪のスポンサー企業一覧 

 

このたびの東京五輪は、さまざまなスポンサー企業によって支えられていますが、最高位のスポンサーを「ワールドワイドオリンピックパートナー」と呼びます。国際オリンピック委員会(IOC)と契約したコカ・コーラトヨタ自動車パナソニックブリヂストン、GE、P&G、VISA、オメガ、インテルサムスン、アリババ、Airbnb、Atos、Dowの14社がワールドワイドオリンピックパートナーです。いずれも巨大なグローバル企業ですが、東京五輪における広告効果に関しては大きな狂いが生じています。

f:id:shins2m:20210720091352j:plain朝日新聞DIGITAL」より

 

ワールドワイドオリンピックパートナーのトヨタ自動車は、東京五輪パラリンピック関連の自社CMを放映しないことを明らかにしました。新型コロナウイルスの感染拡大が終息せず、大会がほぼ無観客開催となった状況を考慮したといいます。トヨタの長田准・執行役員は、報道陣の取材に対して、大会期間中を含め今後も日本では五輪関連のCMは放映しない考えを示しました。開会式などの公式行事に豊田章男社長らトヨタ関係者が出席することも見送るといいます。

f:id:shins2m:20210720155231j:plain朝日新聞DIGITAL」より

 

同じくワールドワイドオリンピックパートナーのパナソニックも、開会式への楠見雄規社長の出席を見送ると明らかにしました。同社によると、楠見社長らは出席しない一方、大会組織委員会の副会長を務める津賀一宏会長は組織委の仕事のために出席するとのこと。五輪関連のCMに関しては、パナソニックは「自社の考えを伝えるようなCMは制作していない」(広報)としており、CMでのオリンピックやパラリンピックのロゴの使用は続けるとか。

パナソニック20日東京五輪開会式への楠見雄規社長の出席を見送ると明らかにした。五輪をめぐっては、トヨタ自動車など国内のスポンサー企業が相次いで経営幹部らの開会式などへの出席を見送る方針を示している。

 パナソニックは最高位のスポンサー契約を国際オリンピック委員会IOC

と結び、映像用の機材などを納入している。同社によると、楠見社長らは出席しない一方、「業務上必要な幹部」は会場に入る可能性がある。大会組織委員会の副会長を務める津賀一宏会長は組織委の仕事のために出席するという。

 同社と同じく最高位のスポンサー契約を結ぶトヨタ自動車は、幹部の出席見送りに加え、五輪に対する自社の考え方などをあらわすテレビCMの放映を取りやめる方針。パナソニックは「自社の考えを伝えるようなCMは制作していない」(広報)としており、CMでの五輪やパラリンピックのロゴの使用を続けるという。

パナソニック20日東京五輪開会式への楠見雄規社長の出席を見送ると明らかにした。五輪をめぐっては、トヨタ自動車など国内のスポンサー企業が相次いで経営幹部らの開会式などへの出席を見送る方針を示している。

 パナソニックは最高位のスポンサー契約を国際オリンピック委員会IOC

と結び、映像用の機材などを納入している。同社によると、楠見社長らは出席しない一方、「業務上必要な幹部」は会場に入る可能性がある。大会組織委員会の副会長を務める津賀一宏会長は組織委の仕事のために出席するという。

 同社と同じく最高位のスポンサー契約を結ぶトヨタ自動車は、幹部の出席見送りに加え、五輪に対する自社の考え方などをあらわすテレビCMの放映を取りやめる方針。パナソニックは「自社の考えを伝えるようなCMは制作していない」(広報)としており、CMでの五輪やパラリンピックのロゴの使用を続けるという。

パナソニック20日東京五輪開会式への楠見雄規社長の出席を見送ると明らかにした。五輪をめぐっては、トヨタ自動車など国内のスポンサー企業が相次いで経営幹部らの開会式などへの出席を見送る方針を示している。

 パナソニックは最高位のスポンサー契約を国際オリンピック委員会IOC

と結び、映像用の機材などを納入している。同社によると、楠見社長らは出席しない一方、「業務上必要な幹部」は会場に入る可能性がある。大会組織委員会の副会長を務める津賀一宏会長は組織委の仕事のために出席するという。

 同社と同じく最高位のスポンサー契約を結ぶトヨタ自動車は、幹部の出席見送りに加え、五輪に対する自社の考え方などをあらわすテレビCMの放映を取りやめる方針。パナソニックは「自社の考えを伝えるようなCMは制作していない」(広報)としており、CMでの五輪やパラリンピックのロゴの使用を続けるという。

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ヤフーニュースより

 

IOCと直接契約するワールドワイドパートナーの次のランクが、各国内の五輪委員会と契約するオリンピックパートナーである。今回の東京大会では上からゴールドパートナー、オフィシャルパートナー、オフィシャルサポーターという3つのランクに分けられています。そのゴールドパートナーであるNTTは、、幹部の開会式出席を見送る方針を明らかにしました。同社広報室によると、東京都に緊急事態宣言が出され開会式や多くの競技が無観客開催となることを踏まえた対応だといいます。五輪用に準備したテレビCMは今のところ、放映する予定だとか。



国民の大半が東京五輪の開催に反対している中で、自社のCMを放映しても効果がないどころか、消費者の反発を買って逆効果になる恐れもあります。そのへんを考慮してCMを流さないことを決断したトヨタはさすがですね。それにしても、大手広告代理店によるビジネスモデルが完全に崩壊してしまいました。広告業界出身のわたしから見ても、これまで大手広告代理店は儲け過ぎてきたように思います。現在はネット広告に押されて四媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)の広告市場が激減し、電通でさえ大赤字で本社ビルを売却する時代ですが、このたびの東京五輪が「広告の時代」の終わりの始まりとなる気がします。ともあれ、これまで五輪ビジネスを仕切ってきた大手広告代店は完全に機能不全になった観があります。

 

 

ブログ『ブルシット・ジョブ』で紹介したアメリカの文化人類学者デヴィッド・グレーバーの著書では、「なぜ、やりがいを感じずに働くひとが多いのか。なぜ、ムダで無意味な仕事が増えているのか。なぜ、社会のためになる職業ほど給与が低いのか」と読者に問いかけています。「ブルシット・ジョブ(BSJ)」とは「クソどうでもいい仕事」という意味です。BSJは、当人もそう感じているぐらい、まったく意味がなく、有害ですらある仕事です。しかし、そうでないふりをすることが必要で、しかもそれが雇用継続の条件なのです。

 

リエーターの選出もいいかげんで、クライアント(この場合は東京五輪組織委員会)に多大な損害を与える。また、巨額のスポンサー代を支払った企業に自社のCMすら流せない事態に陥らせる。こんな業界に働く人々は、やりがいを感じているのでしょうか? もし感じていないとすれば、その人々は自らの仕事は「クソどうでもいい仕事」としてのブルシット・ジョブではないかと自問すべきであると思います。ちなみに、わたしは、生業である冠婚葬祭業をブルシット・ジョブとは対極の「この世で最も価値のある仕事」としてのハートフル・エッセンシャルワークであると考えています。

 

2021年7月20日 一条真也